〖飽くなき探求〗は今日も元気!
〖
そして何故か瀕死の霧野が居たので助けたが、よく考えたら変身してなかったので、試行錯誤した結果、イケおじになって誤魔化した。
何か俺の名前を呼んでた気がするけどそんな接点あったっけ?
……必死に記憶を辿っていると、俺が中学2年の時に、事故に巻き込んじゃったような感じの記憶が出てきた。
確か公園で拾った叡智な本をどうすべきか処分に悩みながら歩き回っていたはずだ。頭の中がその事でいっぱいで心ここに在らずの状態で歩いてるとトラックが突っ込んできたんだっけ。
俺も流石に途中で気付けたから踏みとどまったんだが、向かいから霧野が手を伸ばして突っ込んできたなー。
……今思えば俺を庇おうとしたようにも見える。当時は異世界転生願望が強いが故の行動かと思ったがきっと違うのだろう。
それはともかく、俺もびっくりしながら左手で彼女を引っ張って抱きかかえ、衝突から回避させたな。左手を引っ込める動きで右手を前に出したからそっちは折れたけど。
あの頃は反射で引っ張って、後から転生したかったのに申し訳ないことをしたと反省していたが、我ながらちゃんと命救ってたな。
外傷はなかったのに気絶した彼女を救急隊員に任せて、俺は病院に連れていかれたら叡智な本を隠し持っていることがバレてしまうと逃げ出した。
ま、霧野との出会いなんていいや。
どうせあっちは覚えてないだろうし。
何はともあれ、悩んでいるようだったのでそれっぽいことを言って彼女を弟子にした。
おかげさまで〈009.ヒーローポジションの師匠になる〉が達成できたのだ。いやー、夜遅くにコッソリダンジョンに来てよかった。棚ぼた棚ぼた♪
「楽しい一日だったー」
……そういえばこないだ加藤が俺と
寝よーっと。
▽▽▽
そして――1週間ほど経過した。
今日は土曜日。
霧野とエンカウントした日曜日から平日毎日ダンジョンで秘密の特訓(そのままの意味)に付き合わされながらも、俺は
モテる男って辛いね。
……恋愛要素皆無だけど。
それはさておき、今日は乃愛と委員長と組んだパーティー、〖飽くなき探求〗の活動2日目になるわけだ。
「注目!」
「はい! リーダー!」
「書類上は私がリーダーなんですけどね……」
委員長が文句を言ってるが、オタク知識の少ない彼女より俺の方が場合によっては指揮が上手いからな。面倒な書類処理を彼女に押し付けてるとも言えるが。
「我々は学生であり、活動日が限られている! そうだね? 乃愛隊員!」
「その通りであります!!」
「2人とも、探求者協会内ですが、ここはカフェスペースなので静かに……」
「つまり! より効率的に力をつけたいわけだ! まず簡単に強くなるには何をすればいいかね? 乃愛隊員!」
「えーっと……筋トレであります!!」
「違う!
「その手がありましたか隊長……!」
――ダンッと委員長が力強くペットボトルをテーブルに置いた。
「――ねぇ、お2人とも」
「「サー、イェッサー!!」」
「……あ、乃愛。委員長は女子だからマムが正解だったかもしれん」
「え? じゃあマム、イェスマムってこと?」
「あれ? 確かにそれだと何か違う気がするな。いや、合ってるのか?」
「私に聞かれてもサッパリだからねー」
「…………そろそろ受付も開始しますし、待合室に行きましょうか」
「「あっ、はい……」」
いつも真顔で眼鏡をキランッてしてる委員長が笑っている。超絶怖い。
ふざけてはいるが、乃愛に合う
待合室でそれぞれどんな
一人はお馴染み、勇者と呼ばれている
そしてお次も日本人、いつぞやの試験で後ろの席に居た同い年の少女、
霧野いわく負けず嫌いの努力家らしい。
そして髪を赤く染め、紫色の忍装束を身にまとった全く忍ぶ気のないNINJA、アメリカ人と日本人のハーフの女性。ドロシー・鈴木・ハンヴァーガさんだ。色々とごっちゃになりそうなので、忍者に関連してドロンのドロシーさんで覚えよう。
こちら、見た目通りド派手な人柄と戦い方らしい。でもちゃんと罠を見破ったりはしてくれるようだ。
最後は、霧野の清楚さと純朴さと同格のヒーラー。タレ目が特徴的な、黄色寄りの金髪を波打たせた、男性からしたら眼福な体型の彼女は
そんな聖女さんの名前はマリアンナ。
イタリア出身だが、日本の勇者と共に探求者としての道を進むためにと数日で日本語をマスターしたらしい。
俺があの時勇者として聖剣を輝かせたままにしていたら、今頃彼女とあんなことやこんなこと……いや、あまり興味は湧かないな。
どちらかと言うと、俺は
…………何の話だっけ?
あ、そうそう。霧野に仲間作れって言った翌日に教えてくれた彼女のパーティーメンバーの話だったな。
個性の強いパーティーを観察していると、先に来ていた俺達が呼ばれたのでダンジョンへ向かう。
こちらに気付いた様子の霧野が視界の端で映ったが、同じ学校の人を見かけた時のような反応だったので俺が彼女の師匠と同一人物だとは気付かれていないようだ。
それも確認したかったから良かった良かった。
ダンジョンに入ると、突然2人が俺に詰め寄った。
「ねぇ幸樹、さっきずっと霧野さんのパーティー見てたよね?」
「そうですよね。特にマリアンナさんの胸部への熱視線が気になりました」
「うぇっ!? な、ナンノコトナー」
「幸樹のえっち!」
「幸樹君も男の子なのは理解していますが、あんな舐めるような視線を向けるのは失礼だと思いますよ!」
そんなに見てた? と思ったが、女性は視線に敏感だとどこかで聞いたしきっとそうなのだろう。
これからは見向きせずに気配だけで観察しないといけないな。
……その前に自己弁護しないと女子2人から処刑を言い渡されそうだな。
「いや、別にそういう意味で見てたわけじゃなくてだね! 地元の同じダンジョンで順調に力をつけている格上の同業者だぞ。それにネットでも有名ときた。物珍しさで眺めてただけだって」
「……と被告人は申しておりますがどうします? こずたん裁判長。処す? 処す?」
「そうですね。幸樹君には今日のドロップ品回収を全てお願いしましょう。あと私達が水分補給したい時には水を飲ませる係もよろしくお願いしますね?」
「完全に介護じゃねぇか!」
「裁判長、文句言ってますよ。処す? 処す?」
「乃愛はいい加減にしろよ。逆に俺が処すぞ」
「こずたん裁判長ー!! 幸樹が私の処(女を犯)すってー!!」
「お前ッ! そんな下品なことを俺は教えた覚えはありません!!
「いつの間に私のパパに!?」
「――さて、ボケとツッコミが激しく入れ替わるお笑いコンビのお二人さん。そろそろ進みましょうか」
委員長も最初はノリノリだっただろとは言えずに、俺と乃愛は委員長について行った。
……いや、後衛が先頭に行くなよ! 委員長もヒートアップから冷めきってないじゃねぇか!
わちゃわちゃと俺達のダンジョンアタック2回目が幕を開けた。
▽▽▽
順調に進み、俺達は5階層に到達していた。
時刻は腕時計によると12時ちょい過ぎ。お昼どきだろう。
周囲に警戒しながら、その辺の岩場に腰をかけておにぎりを頬張る。
「確かここの最高攻略階層が、例の勇者パーティーの15だったよな」
「そうですね。5階層ごとに敵の強さが急激に増すようで、16階層で足踏みしているようです」
「じゃあうちらって、今のままだと6階層厳しい感じ?」
残念なことに乃愛の言うの通りだ。
コツコツ練度を上げればまた話は別だが、このスパンでダンジョンに入るなら6階層以降は厳しくなるだろう。やはりここらで新たなスキルオーブか
先を行っている霧野のパーティーも全員が
「――ねぇ、見て。この足元のボタン」
乃愛の足元に黒い小さなボタンがあった。
流石に踏まないだろうと無視していたのに、わざわざ踏める位置まで移動しやがったぞこいつ。
「おい待て乃愛。確かに気持ちは分からんでもないが、フリじゃないからな?」
「そうですよ! 絶対押しちゃダメですからね!」
「う、うぅ……」
「そんな見え見えのトラップ、探求者協会のサイトにも無かったんだからわざわざ俺らが確認することでもないんだぞ。情報の報酬も無いし」
「ダメですよ! ぜーったい押しちゃダメですからね!」
……委員長、さっきから押させるようなことしか言ってないな。さては君も好奇心に負けかけてるな?
「う、発作が……」
乃愛は散々逡巡した挙句、意味の分からない理由でスイッチを押した。直後、ピーと奇妙な音が響いた。
そして俺は豊富な中二病&オタク知識によってそれが何を意味するか察してしまった。
――今いるここからは4階層までの階段よりボス部屋の方が近いな。
「よーし、乃愛は責任とって
「え? え?」
「前……ああ、そういう罠でしたか。先に知れて良かったかもしれませんね」
臨戦態勢に入った俺と委員長を見て、あたふたしている乃愛。
彼女が盾を構えたと同時に、通路の前方と後方から大量の足音が聞こえた。
「走れー!!」
「ひぃー!」
「ちょ、2人とも待ってー!!」
モンスター呼び寄せ系のトラップだ。
位置的に前方の方が敵の数が少ないと読んだ俺を先頭に、できるだけ弾き飛ばすタイプの攻撃で道を作る。
来た道を戻れば倒したモンスターの分楽になる可能性もあるが、あの罠のせいで湧き直しになっている可能性も拭えないため、そうなったら物量で死ねる道を選ぶほど馬鹿ではないのだ。
そのままの勢いでボス部屋に突入し、乃愛が自動で閉まるはずの扉を急いで手動で閉めた。
「ぜぇ……はぁ……」
「……ごめん、こんなことになるとは」
委員長はフラフラな足取りで息切れまでしている。乃愛は運動部だけあってそこまで堪えてはいない様子。反省はしているみたい。
いや、乃愛に関してはただの自業自得なアホなんだけどな。これに懲りて罠への警戒度も上がるだろうし、いい勉強料として考えればこの程度問題は無い。
「うん、反省は良いとしてここがどこか忘れてないよな?」
「ここ? ダンジョンの……あ、ボス!」
俺らはこの階層のボスは倒していないため、ちゃんとボスと戦わなきゃいけないわけで――
「キュルゥ〜?」
5階層のボスはビッグスライム。
無色透明な大きめの液体に近いモンスターである。
そう、無色透明の――
「あれ?」
「どうしたの?」
「いや、聞いてた話と違うやつなんだが。これがチェンジ案件ってやつか」
「探求者協会の情報と違うってこと?」
息を整えている委員長を背に、俺と乃愛で目の前の
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種族:Ⅲ.ファブリックメルトスライム
個体名:――
性格:――
特殊技能:《不殺》《残付》《限定溶解》
========
――あっ、これあかんやつだ。
叡智なゲームで登場するタイプのレアボスだ。
ご丁寧に
さて、どうするか。
ルート1、乃愛と委員長にそのまま向かわせた場合。2人の恥ずかしい姿が見れて眼福。しかし後でボロクソにされる。最悪俺が全裸になって服を強奪される。却下。
ルート2、このスライムを倒す。2人に何も知られることなく、世界の平穏は保たれる。次出くわした人達には頑張ってもらおう、色んな意味で。
流石にルート2でいこう。別にそこまで2人の裸に興味も無い。悪いね少年紳士の皆さん。俺はジェントルマンだから、ガキンチョに欲情なぞしないのだよ。
「そい!」
相手の居ない高度な頭脳戦を僅かコンマ数秒で終わらせた俺はスライムの弱点らしきコアをパンチで粉砕した。
流れるように現れる宝箱。
葛藤の余韻もクソもありゃしないな。
「乃愛、開けていいぞ」
「やったー!」
あっさり過ぎて意気消沈した俺をよそに、乃愛は元気よく蓋を開けた。
中にあったのは――
「盾だ!」
ちょうど乃愛が使ってるような片腕に付けられるタイプの円形の盾であった。
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