Another Side.探求者協会副会長の苦悩
――東京、探求者協会の本部。
応接室で一体何時になったらやって来るのかと他の仕事をして待つのは、ここ探求者協会の副会長を務めている私、
下の名前を名乗るほどの者でもない。
「はぁ」
今日面会するのは、あの未知数の塊である会長から直々に高位探求者に推薦された素性の知れない人間だ。
私は正直、
老人特有の威圧感もさることながら、それ以上に得体の知れなさが尋常ではない。彼の国連における乱入が中継されていたこともあり、インターネット上では様々な憶測が飛び交っている。
その仙人のような風貌から、ダンジョンの製作者説、それも含めた神様説、ダンジョンを召喚した異世界人説……どれも荒唐無稽な話に思えるが、彼と実際に対面すればそれも本当なのではないかと思わされる凄みがあるのだ。
彼の正体を思案していると、パソコンにメールで部下から連絡があった。
「スキル統合の組み合わせ? そのようなもの、こちらも知りたいんですが?」
公式SNSで、組み合わせによって統合される相性のいいスキルがあるという発表をしてからそれほど経過していないのに、同じような問い合わせが何件も来ている。
そもそも統合が判明したのはちょっとした副産物だったのだ。
事の発端は、高位探求者序列1位――エディス・スペンサー氏が協会側に
簡単な話、その
――
その中に、スキルオーブの解析で“統合可能スキル”という欄があったのでそれを公開したのである。
「会長も意地悪ですね。“拡張”のことも教えてくれていいでしょうに……いや、我々を試した可能性も?」
大いにありえる。
この組織の運営を丸投げしているのも、こちらの、というより人類の価値を確かめていると言われても不思議では無い。
私の中では、会長
せめて期待に応えられるよう、世界が一丸となってダンジョンという未知に挑戦する手助けをしよう。国際連合で働いていた時よりずっと使命感が燃える。
戦場ではないにしても、ここは世界の最前線なのだ。
――上手くやり続けられるほど我々も完璧ではない。だが、せめて、最低限。探求に必要な土台は私たち協会が支えよう。
「……! ようやく来ましたか」
ドアを叩く音がした。
時刻は10時。
日を跨ぐのは覚悟していたが、意外と早く来てくれて助かった。情報の更新は迅速に対応したいから。
「副会長、アップル・マディオ様をお連れ致しました」
「どうぞ」
扉が開かれ、入ってきたのは――
「ああ……うん、地味。ジャパニーズのシャチークそのものだ」
「あはは……はじめまして、私は探求者協会副会長の久遠寺と申します」
「ああ、僕は知っての通りアップル・マディオだ。野郎に興味は無いからさっさと済ませてくれ」
キラキラと輝く金色の髪は少しツンツンとしてながらも爽やかな雰囲気を醸し出している。
一つ言えるのは、彼の白銀の瞳がカラーコンタクトでない限り普通の欧米人ではないことだろう。
第一印象としての客観的な判断は、イケイケな女好きイケメンといったところ。
私の対面のソファにドカッと座り、早くしろと長物が入っていそうなケースを取り出した。
「失礼いたします」
煌びやかな槍が入っていた。
シートを取り出して解析を行う。
当然“拡張”も使用して。
「【
「拡張? なんだいそれ?」
「ご存知ではありませんか?
「はっ! 僕くらいになるとそんなもの使わなくても敵は全てぶっ倒せるけどね」
解析結果を打ち込みながら答える。
“拡張”の話が流れ、《鑑定》あるいは《識別》スキル持ちと組んで反社会的な組織が強化されても困る。信用できる強者にのみ伝えられるのだ。
アップル・マディオ氏は人柄という点で見ればあまりだが、あの会長のお墨付きなのだから問題は無いだろう。
それに、この
========
【
神敵をことごとく貫き滅ぼす。槍先に引き寄せる効果が備わっている。
使用者制限
:神の存在を確信し、その意向に沿う確固たる意志を持った者
“拡張”可能時間:30秒
冷却時間:3日
========
高位探求者序列2位のティティ氏も神の名を冠するものを持っていたが、ここまで露骨ではなかった。
ますます会長こそが神であり、目の前のアップル・マディオはその御使いなのではないかと思わせる内容だ。
存在のあやふやさ、世界に与えた影響、そして目の前の
そのような状況証拠からそう考えても何も間違っていないような気がする。
さて、こちらの登録手続きは終わったが、アップル・マディオ氏はまだ何かあるのか、少し思案した後に口を開いた。
「SNSやるから、公式アカウントの方でフォローしてくれない? そっちの方が手っ取り早く伸びるだろうからさ」
「……そうですか、高位探求者は公式サイトにも軽く紹介を掲載いたしますので、そちらのリンクも含めて手続きいたしましょう」
もっと大事な話かと思ったら、ただの承認欲求の話だった。本当に会長の推薦した人物はこの人なのか、ほんの少しだけ疑問に思ってしまった私だった――――
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