この試験が出来レースだと俺は知っている――俺が仕組んだからね!
ダンジョンができてから1週間が経過した。
今日は
前日まで必死に勉強して目が虚ろな
ちなみに乃愛が勉強苦手なのに俺や委員長が居る高校に入れたのは一夜漬けの成果だ。というより俺も委員長も「近場でいいや」精神の人間だからうちの学校のレベルがそこそこだったからってのもある。
「シカスケは提出義務……オーブは提出努力義務……買取は……」
こいつも
「そういえば委員長は運動できるん? あんま運動得意なイメージないんだが」
「実戦試験の心配ですか?」
「そそ」
「それなら問題ないですね。格闘技の経験はありませんが弓の嗜みはありますのでそれでやっていこうと思っています」
弓か。狩猟的には道理に
それに、俺らと組もうという話だったから結構連携の練習が必要になるだろう。俺は合わせられるが、乃愛が意気揚々と射線に入る未来がはっきり見える。
「そのうち連携の練習はしような」
「そうですね。曲射の練習はしましたが動き回る味方に当てないようにしないといけませんからね」
そこら辺を理解しているならよし。
簡単に死なれたらこっちも困るからな。
そんな話を迷惑にならないようコソコソと話していると、目的の駅に到着した。
休日ということもあって今日試験を受ける人も多いのだろう。遊び感覚の学生や人生一発逆転を狙った社会人達の波に沿って協会付近の試験場に向かう。人数も多いので試験は広い会場でやるのだ。
会場に着き、受験番号と試験室の照合をしていると、乃愛がチョンチョンと頬をつついてきた。
「ねぇねぇ、見てあれ」
「ん?」
彼女が指す方向には列になる人々と――いかにも聖剣っぽい剣が置かれていた。ちゃんと盗難対策に警備の人やそれなりの実力者があちこちで監視している。
「まだ時間もあるし並んできたら?」
「一緒に行こー?」
「まあ、息抜きにはちょうどいいのではないでしょうか」
委員長が言うのならと3人で並ぶことにした。
待ち時間、俺は委員長が乃愛に問題を出している光景を眺める。
――そういえば、今日霧野とは別の候補として注目できそうな人物がここで受験するんだったな。水曜日に協会のデータベースでたまたま見つけたから知っているんだ。彼女の家柄と、委員長との関係性も。どう転ぶかねぇ。
「次の方どうぞ」
おっと、俺らの番が回ってきたようだ。
乃愛が元気に聖剣を掴む。
「……何も起きない?」
「どま」
「では私も失礼して」
委員長も握るが何も起きない。
よかったよかった。ここで光られたら色々と策略が狂うからな。
「じゃあ幸樹の番だね!」
「幸樹君、頑張ってください!」
何を頑張れと?
俺のやりたいことリスト100選に露骨な正義っぽいのは入っていないので選ばれるイベントとかは遠慮したい。
しかし、この流れで触れないのも不自然だし軽く柄に触れ――
「……」
「光った!?」
「やりましたね!」
ふざけんなよ聖剣くん?
君もどうせなら可愛い女の子に使われたいよね?
――ねぇ、このまま光り続けるなら俺お前をへし折るけどいい? 嫌ならその鬱陶しい光消そうか。ね?
無言のまま口元をヒクヒクさせていると、俺の
よかったよかった。
危うく俺の理想を果たすための下地を自分の手で握り潰すところだったよ。
「いやー、どうやら勘違いしたみたいだったな」
「そんなことある!?」
「でももう光らなくなりましたね……?」
一瞬光ったのを見てザワついていた周りの人も次第に落胆や安堵の反応を示した。
こういうその場で何とかしなければいけないイレギュラーは望むところではない。俺ももっと少ない可能性について考えながら行動の細部まで意識する必要がありそうだ。反省反省。
その後つつがなく試験の開始まで時間は過ぎていった。
テストの方式はマークシートと一部記述。
鉛筆と消しゴムを用意して用紙が配られるのを待つ。席は、俺の前に乃愛、その前に委員長がいる感じだ。おそらく申請時にパーティーを組む旨の記載欄をそれぞれの名前で埋めたのが理由だろう。
「……はぁ」
足下にコツンと消しゴムが当たる。
誰かが落としたようだ。後ろの人の物だろう。
まだ配られていないのでそれを拾って後ろの人に――
その人と目が合った。
無言で机に消しゴムを置くと、彼女は会釈した。俺は特に何も言わずに正面に向き直る。
後ろの席の人は、先程挙げていた注目している人物だったのだ。
彼女の名は
彼女の家は由緒ある家柄で、抜刀術に関しては世界随一の流派だ。道場破りしたことある俺が言うのだから違いない。あの時彼女は芸能の方の仕事なのか不在だったが、資質は当主が自分以上と言っていたからマークしていて正解だった。
こうして目の前で見てみて、武力的な才覚では霧野より優れている上に負けず嫌いそうな目をしていたから伸びるだろう。
「――それでは、開始してください」
試験が始まったが、結果は変わらないので適当にマークしていく。
――そんな
そう、委員長の家だ。
細かく言うと、委員長の祖母が天樹家出身で、嫁にいったから苗字が夢川になったらしい。
だから二人は“はとこ”に位置する関係性なんだ。
だからなんだという話に聞こえるが、実際のところ俺もそこに特別なイベントは求めちゃいない。
大事なのは霧野と天樹の関係だ。委員長には乃愛と俺とのイベントをこなしてもらうからな。
▽▽▽
「それでは、次の実戦訓練を開始します! チーム26、
待機室で乃愛と委員長と一緒に前のチームの試験が終わるまで待っていると、ようやく呼び出しがあった。
俺らは試験用の装備を身に纏い、貸し出しの武器を持って完全武装の監督役兼いざという時の護衛役の二人を後ろに従えて、ダンジョンに入った。
「よーし! バトルするぞー!」
片手剣と丸い盾を携えた乃愛。
軽戦士スタイルだ。
「トラップがあったらどうするんですか。慎重に進みますよ」
そう言いながら、弓を背負っている委員長。
異変を見逃さないように通路をメガネ越しに注視している。
「あんま張り詰めすぎも摩耗しちゃうから程々にな」
かく言う俺はメリケンサックを装備した格闘家スタイルだ。素手のフィジカルの強さは学校のテロリストの件(自作自演)で知られているから、妥当な判断として扱われるだろう。
正直メリケンサックとか要らないんだけど、まあ軽く表面上くらいは取り繕っておかないとな。
「ねぇ〜、おやつってもう食べていいかな?――筆記で頭使ったからお腹すいちゃった」
「試験中に食べていいわけないだろ。てかお前まさかおやつって……」
「じゃん! バナナがおやつに入るか聞き忘れたからバナナを持ってきちゃった!」
「
(主に乃愛のせいで)いつもの空気感のまま進んでいると、少し先の曲がり角の向こうから生物の気配を感じた。委員長の警戒範囲を確かめるためにも一旦黙っておく。
1歩、2歩……少しずつ相手との距離が縮まっていく。だいたい8mくらいで微かな音を拾った委員長は、未だにおやつ論争をしている俺と乃愛にその情報を伝達した。
「何か居ます!」
「やっと来たね!」
「作戦通りやるぞ」
お相手もこちらの声に気付いて曲がり角から出てきた。やはりゴブリンだったか。
「はあ!」
先に乃愛の剣が届く。しかし、それはゴブリンの棍棒が受け止めた。運動ができる程度で武術とは無縁なのでそんなものだろう。
力で押し負け、乃愛の剣が弾かれる。カウンターとばかりに棍棒が迫るがそれはちゃんと乃愛が盾で防いだ。
その隙に、あらかじめ回り込んでいた俺は
「2人とも!」
「うん!」
「はいよ」
乃愛と俺は委員長の矢が当たらないように大きめに動く。直後、ゴブリンの目と胸に矢が突き刺さる。曲射で目を狙い、その後に真っ直ぐの胸めがけた矢を放ったのだ。矢が到達するのもほぼ同時にするという器用なことをやっていたようだ。
委員長の行動も視界に入れながら試験官の人達の様子も見ていたが、彼らも何らかのスキル――おそらく《魔法》系スキルで俺らに矢が向かってしまった場合に備えて構えていたようだ。
この調子で大きな事故が起きないと良いな。早めに専用の施設をつくってそこで試験を行えるようにした方がもっと良いと思うが。
――それはともかく、ゴブリンがモヤとなって消える。残ったのはキラキラと青く輝くスキルオーブだけ。
モンスターを倒すと基本的にはモンスターの部位が残るのだが、偶に今のようにスキルオーブが落ちるらしい。試験で目の当たりにするとはな。ボス部屋で確率で手に入る
……たしかこういう状況も筆記のテキストに書いてあったな。
「これは頂いてもいいんでしたよね?」
念の為試験官に確認を入れる委員長。
すぐに試験官は大丈夫だという旨を伝えた。
どのみちこの状況なら協会の解析に回す努力義務が発生しそうだが、所有権は少なくともこちらにある。
不特定の人と組まされる野良のパーティーじゃなくて良かった。こういう時に固定パーティーはスキルの性能次第で分けられるからとても楽である。
気になったので、先日ちょっと途中で無駄にしながらも取得した《鑑定》と《識別》の統合スキル、《解析》を使ってみる。
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《水魔法》スキルオーブ
魔力を消費し、水に関する特殊な現象を引き起こす。大規模な効果は発揮されない。
========
SNSで出回っている情報だと《魔法》系スキルは使用者の想像力と、「《○○魔法-△△》」みたいな感じの発動キーワードが必要らしい。
そもそも魔力ってなんぞや?
まあこれは後衛で手札が大事な委員長に渡るだろうし、そこはまたおいおい調べればいいや。どうせ信じられるのは己の肉体と技のみなんだから。
▽▽▽
その後、同じような雑魚モンスターを狩って試験は終了。そのまま流れでボウリングしてから帰ってきた。
妹は今日部活の大会、両親は「人生は経験や!」と仲良く釣り堀に行った。どうせあの両親にビギナーズラックは訪れない。周りの釣り人からイチャイチャすんなと鬱陶しそうな目で睨まれていることだろう。
「ただいま、加藤。お前最近ずっといるよな」
「おかえりなさいです、先輩。でも先輩が居ないと私、辛くて寂しくて……」
「まあ拠点への行き方がお前の場合俺の転移しかないもんなー。そればかりはいい感じの
「あ、そうそう。シカスケといえば、先輩が言ってた高位探求者――アップル・マディオ用のぼちぼち強そうなシカスケ、手に入りましたよ」
そういえば加藤にも《解析》を覚えさせたんだったな。今まで回収していた
どの道提出すると約束した日が明日だから、使えなくても上手いこと活用して強さを見せつけるつもりだったが、その手間が省けるのは助かる。
どれどれと俺も《解析》して――
「お前これ……」
「凄いですよね。このシカスケの代わりに私を褒めちぎっても、いいんですよ?」
俺は興奮気味に加藤の肩に手を置いて、真っ直ぐな目で褒める。
「でかしたぞ! 流石は俺の
「唐突なデレ!!?」
加藤は何故か鼻をおさえ始めた。
いやー、素晴らしい。これで俺の中のアップル・マディオ像が確立された。
一気にやりたいことリストの布石が撒けるぞー!
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