探求者協会の謎に包まれた創設者、コネをねじこむ
今日は水曜日。
学校が終わり、委員長と乃愛の筆記試験対策会から用事があると抜け出して帰宅した。
自室に入ると、何食わぬ顔で俺のパソコンを弄ってる加藤が。
「あ、先輩おかえりなさーい」
「ただいま、じゃねぇよ。何してんの?」
「んー、検索履歴と部屋の匂い的に最近は発散してなさそうだなと思いまして」
「思いまして?」
「性的嗜好の最終確認をしてました」
「おいこら。いい加減マジで俺の男女平等顔面パンチが火を噴くぞ」
「やだなぁ、冗談じゃないですかー」
嘘つけ。ならなぜ今ポケットからパンツを取り出して履いた? 今の今まで履いてなかったんだろうが。
「まあいいや、そっちの鍛錬は順調?」
「はい。私は元々武闘経験者なので置いておくとして、ホルスさんもセンスがあるので彼女の
「……キャンディちゃんは?」
「彼女に関してはいまいち把握しきれていません。どこで手に入れたのか、多彩な《魔法》スキルで魔法使いのような立ち回りをしています」
スキル持ちってことを踏まえて彼女の置かれた状況を鑑みるに、ダンジョンに捨てられた子供とかだろうか? スキルを手にして何とか生還し、行くあてもなくさまよっていたところを俺が拾った――みたいな。
うん、分からん。
「一応護身術程度は教えとけよ」
「先輩がやってくれればいいのに」
「教えるのはめんど……苦手なんだよ」
「ほーん」
そんな報告を受け、指示を出しながら俺は探求者協会の会長の姿になる。すると、加藤は思い出したかのようにカバンからオーブを3つ出して渡してきた。
「これは?」
「拠点のダンジョンで手に入ったものです。ついでに解析してきてください」
「はいよ。あのダンジョンどうだった?」
「下見で出た結論通りボスラッシュでしたね。初回は一際強力なボスが出て報酬もシカスケ確定、2回目以降はボスは弱体化したりしてました。報酬はスキルオーブがほとんど、ごく稀にシカスケって感じでしたね」
なるほど。美味しい訓練場所だな。
引き続き幹部にはそこで訓練してもらい、構成員も増え次第そこで強化させよう。
「じゃあちょっと行ってくるわ」
「あ、じゃあオマケに私を拠点に送ってください」
「へいへい」
「てんきゅーです」
転移で加藤だけ拠点に置いてすぐに協会に転移。
といっても行ったことある場所しか行けないので、本部がある東京の適当な駅にスッと現れた。
時間的にそこまで人は多くない。事前に確認しておいた本部まで歩いて向かう。
基本的にダンジョンに隣接させて探求者協会を設置しているので場所はわかりやすい。場所によって建物の形は異なるが、本部は普通の高層ビルだ。東京なんて都会でよくこんな建物買収できたな。いや、隣にダンジョンなんて意味の分からないものができたら手放す……のか?
まあいいや。清掃の行き通ったホールを歩く。
現状ここで仕事しているのは協会の事務員と自衛隊の関係者くらいだ。
受付窓口の人に無言で目配せすると、こちらの姿は共有されていたのか顔パスで案内してくれた。そして“会長室”と書かれた部屋に通され、担当の人が来るのを待つ。
少しすると、クールなできる男感がある七三分けの男性が扉を開けた。
「お初目にかかります。
名刺を受け取る。
彼の役職は、探求者協会の組織運営を俺の代わりにやってくれてる副会長という立場だった。
優秀そうな人でよかった。
「この度はどのような御用向きで……?」
「シートを用意してくれ。ああ、あとこのパソコンは触っても構わないな?」
「シートに関しては直ちにお持ちいたします。そちらの端末は会長の物です。お好きにご利用ください」
彼に【
まずは俺の地域の協会で登録申請を出した、俺と
その横にチェックボックスがあるので、会長権限で合格欄にチェックを入れる。これで当日どんなミスをしようと問答無用でパスできるという訳だ。
おそらく俺用というよりは、副会長である久遠寺氏が他所から金銭的援助を受ける見返りとして相手側の指定した人物を入れられるような仕組みにしておいたのだろう。
あるいは、今後企業が探求者のスポンサーになるような時代になった時に備えて優遇措置を図りやすいようにしてあるとも考えられる。
ま、会長だからそんな副会長が使えるものは当然こちらも解禁されているわけだ。
……おっと、忘れずに霧野も合格にさせておこう。申し込んでいたのは目論見通りだがこっからどう役目を与えるか――
手元をいじりながら思案していると、ひとつのフォルダが目に入った。
それは“保管中スキルオーブ”と書かれている。
「ほほう……」
既に自衛隊や各国の人間から買い取ったスキルオーブが一覧になっていた。
説明とともに目を通す。いくつか面白そうなものはあったが、気になった点が一つだけあった。
《鑑定》と《識別》の説明だ。
一見字面だけで考えるとどちらも【
《鑑定》は名前と性能だけ。
《識別》は名前と使用者制限だけ。
この二つが揃ってようやく【
いちいち使い分けなければいけないのか、あるいは統合・進化といった類のものがあるのか。試してみるか。
「お待たせいたしました。シートをお持ちしました」
「二度手間になってすまないが、保管されているスキルオーブを持ってきてくれ」
「……申し訳ありませんが、会長とはいえスキルオーブは現状資産価値のあるものであり、それを使用されてしまうと――」
「そうか。《鑑定》と《識別》はそれぞれ100万円としているようだな。構わん」
俺は【
加藤から預かったものだが、俺はボスなのだ。使い方は俺が好きにしても怒られまい。
〖
「――なるほど、そのスキルオーブでしたら1000万はくだらないでしょう」
「交換だ。これをやるから、《鑑定》と《識別》をそれぞれ2つずつ、あとは200万相当の《魔法》系スキルを3つだ」
「承知いたしました。ただちにお持ちします」
「ああ、待ちたまえ。協会に認定された高位探求者の一覧はこれであっているか?」
高位探求者――それは一般人軍人問わず、他とは一線を画す実力を持った者を指す。少しずつ公募で探求者が生まれているが、彼らは勧誘と推薦で決まるらしい。
探求者協会における探求者の序列としては、高位探求者、中位探求者、初位探求者の3つ。
上から順に強力な
スキルの有無は特に問わないようだ。
「はい。そちらが高位探求者のリストと実力の概要です」
「そうか――――このレベルなら入れてもいいか」
「?」
「何、有望な若者を知っているからこちらで登録と編集をしておこう。構わんだろう?」
「え、ええ。会長がそこまで仰るのなら実力不足になることはないのでしょう」
ちゃんと許可をとってから彼を見送る。
さて、まずはこの1000万円はくだらないと言われたスキルオーブがこちら。
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《透過》スキルオーブ
自身の繰り出したスキル、
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要するに安全性の確保ができるスキルだ。
これを必要としているであろう人物が高位探求者のトップにいるのだ。高値がつくのは必然というわけである。
残りの2つの大したことないスキルオーブも確認してから、俺は高位探求者リストを編集して架空の人物をねじ込んだ。俺のやりたいことを考えると、後でそいつを演じた方が理にかなっている。乃愛と委員長との探求者生活ではできないこともあるからな。
編集し終えた高位探求者の実力順のリストを眺める。
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1エディス・スペンサー、イギリス、【
2ティティ、エジプト、【
3アップル・マディオ、アメリカ
4ソニア・L・マレット、イギリス、【
5サム・ガス、アメリカ、【
6クライス・ホフマン、ドイツ、【
7ニック、カナダ、【
8アーラ・リーリナ、ロシア、【
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序列3位にねじ込んでやった。アップル・マディオ、我ながら適当すぎる名前だ。代わりにイケメン顔になってバランスとってやるからな。
よし、それぞれの
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1【
星々を召喚し、全てを粉砕する。
使用者制限:
星詠みの血の流れし者
2【
超出力の光を発射する。
使用者制限:
王家の血族
《魔滅の神眼》
魔法やそれに準ずるものを消し去る目
4【
階級問わず天使を召喚する。
使用者制限:
純白の心を持つ者
【
月光を纏い、闇を貫く。
使用者制限:
気品ある所作を常時している者
5【
100本の巨大な腕を呼び出す。
使用者制限:
体重100kg超かつ体脂肪率1桁の者
6【
短剣の影を生み出し、自在に扱う。
相手が使用者より心が弱いほど効果が増す。自我が無い存在には最大火力が発揮される。
使用者制限:
過去に恐怖による失禁を経験した者
7【
森林を生やし、使用者は森林内部では五感、スキルをもってして感知されなくなる。
使用者制限:
知己の者に10回以上忘れられたことがある者
8【
触れると凍結する煙を発生させ、自由自在に操作する。
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現状対処できない相手は居ないな。
アップル・マディオ用の
時間がかかるようなので、他のデータベースも見よう。
保管中のスキルオーブが書かれたもの以外にも、保管中の
「これは……」
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【
蒼地世界の聖剣。選ばれし者が所有している時のみその輝きを取り戻す。
使用者制限
:勇者たりえる者
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なんて曖昧な使用者制限なのだろう。
そもそも勇者ってなんぞや。ゲーム的なやつなのか、勇気ある人間は勇者判定なのか。
しかし、これはいい。
上手くいくかはまさに天のみぞ知る案件になってしまうが、賭ける価値は十二分にある。
俺は戻ってきた久遠寺氏からスキルオーブを受け取り、懐から大きめの手提げを取り出してそこに入れた。実験は帰ってからでいい。
「追加した高位探求者の
「かしこまりました」
「それでまた別の話になるが……この聖剣を
「……手配、というのはどのように?」
「第五支部に設置し、受験者が握って資格を持つか試せるようにしてくれ」
「まさか勇者という存在が第五支部地区に……!?」
第五支部というのは俺の近所のダンジョン横にある場所だ。俺らは当然のこと、霧野もあそこで申請が出ていたのでフラグを用意しておくのだ。
勇者なんて知らないので彼の驚きには瞑目で応じ、何かを知っている謎の老人として振る舞う。
「…………了解しました。ただちにそのように手配します」
「うむ。ではこれで失礼しようか。また何かあればここに現れよう」
暗に直接転移してやるという予防線を張っておく。おそらく有能な彼のことだからこの部屋の録音くらいしているだろう。文句言われても前回そう言ったはずと突っぱねるのだ。
――え? 駅から歩いてちゃんと受付もしろって? だって面倒じゃん。
俺はMr.Evilのシュバット消えるスタイリッシュな退出方法とは異なる、ヌルッと溶けるように消える演出で転移した。【
――というわけでやって参りました、ドキドキ実験タイム!
もらったスキルオーブ2種、《鑑定》と《識別》以外はひとまずクローゼットに収納し、2つのオーブと見つめ合う。
同系統のスキルを所持したら死ぬとかの可能性も薄いだろうがほんの僅かにはある。
…………そう考えると情報が少なすぎる今、この実験はかなり危険なものになりうる。
俺も道半ば死んでやるほど優しくない。
ここは大人しく適当なモルモットで試すか。
「Mr.Evilモード! 」
▽▽▽
「最ッ悪…………地球なんて滅びろ……なんなら滅ぼしてやろうか……」
「こずたん! 幸樹が珍しくメンタルクラッシュしてる!」
「そ、そっとしておきましょう。今はともかく乃愛ちゃんの明日の筆記試験の方がマズイです!」
「いや〜! 私もメンタルクラッシュしゅるぅ!」
「ほら、最後の追い込みしますよ!」
あの後、どっかの国の牢獄に侵入して無期懲役の連続殺人犯で実験した。異変が起こらないとも限らないので、念の為数日様子を見ようと思っていた矢先、“同系統の関連性の高いスキルを複数習得すると統合される”ということが探求者協会から豆知識として発表されたのだ。
要するにスキルオーブ2つ無駄になったというわけだ。貧乏性の俺にはしんどい話だ。
「はぁ……」
200万円分ドブに捨てちゃった……。もったいねぇ…………。
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