〈003.世界を滅ぼしかねない組織のボスになる〉
地下2階? に入ってすぐに、ここがどういう場所なのか察した。デジャブのような一本道、その先にある扉。
間違いない。強力なモンスターが待ち構えている、いわゆるボスラッシュ系のダンジョンだ。
そうと分かれば今日に関してはここに用は無くなった。
「帰るぞ」
「あーい」
キューブを手に試行錯誤しているアポストルの肩に手を置いて共にダンジョンから脱出する。
俺の部屋に直接転移して帰還、俺もMr.Evilモードをやめて素に戻る。そして加藤が靴を戻しに行っている間に【
「お? おー……」
「フゥゥ〜♡ どうでした?」
「ピャッフゥ!? …………やめろ、耳弱いんだから」
「ええ、知ってますよ。かわいい反応ごちそうさまです」
知ってて耳に息を吹きかけるのは確信犯だろ。てかなんで耳弱いの知ってんだよ。ホントこわいよ。
「こいつまじで……」
「どうどう。それで何のシカスケです?」
「シカスケて。ま、見てみろ」
「どれどれー」
========
【
使用者の思い描く形、強度で障壁を生み出す。
使用者制限
:莫大な感情、想像力の保有者
========
この使用者制限というのは、言葉通りその下に記載されている条件を満たした者にしか扱えないという意味だ。俺特注の【
「とりあえず使えるか試してみたら?」
「そうですね。バーリア」
加藤がキューブ片手に手をかざすと、そこに透明な謎の物体が出現した。条件は満たしているようだ。彼女には〖
▽▽▽
同日、日本時間で19時頃。
俺はMr.Evilとして拠点であるカイラス山にて座っていた。――派手派手しくはないが豪華な玉座に。
何故そんなものがあるかって?
加藤がコツを掴んでお城を障壁で作れるようになったからだ。要するに掘っ建て小屋の予定だった拠点から、加藤作のいかにも魔王城っぽい場所に変更したのだ。この玉座も障壁の一部らしい。
そして俺の足下で
「
その4人こそ、〖
「アポストル」
「……」
俺から見て左から、毎度おなじみ加藤ことアポストル。
「キャンディ」
「うん」
その隣の小学生くらいの見た目の少女はキャンディちゃん。金髪のツインテール、深緑の瞳、何故かホコリひとつついていない綺麗なドレスを着ている。
色々あったけど、親族や住居も不明で謎に包まれた迷子だ。本人がついてくると言って聞かないので仕方なく幹部に任命した。まあ要するに本人の覚悟がキマリすぎてるから大丈夫なはず。
「
『ええ』
次に勧誘したのが、中国で既に引退した武芸の達人にして元裏社会の組織の親玉、
なかなか楽しい手合わせができて満足だった。彼のことは以前
「ホルス」
『は』
そして最後に左目に眼帯をつけた女性。褐色肌に赤みの帯びた黒髪の彼女の元の名はネフェル。こちらはウンさんと同様にあらかじめアタリをつけていた人だ。
彼女には妹がおり、その妹が探求者組合のデータベースで確認した限りかなり優秀なスキルと
それに対してネフェルは、《爛焼の魔眼》なるヤッバイタイプのスキルを取得してしまったらしい。
優秀な妹に対して人を見ただけで殺してしまいかねない危険な姉。彼女らの周辺人物はネフェルを監禁して遠ざけていたのだ。それを監視していた妹の方と戦闘になったりもしたが、まあ楽しめたからよしとしよう。そして素性を隠すため名前を変えて今はホルスだ。
「貴様ら四名を幹部とし、我がEvilの名のもと――ここに、すべてを揺るがす〖
Mr.Evilモードの低音イケヴォが荘厳な広間に響く。〈003.世界を滅ぼしかねない組織のボスになる〉、達成だ。
自身の所作にちょっとした陶酔にふけっていると、キャンディちゃんが無表情のまま手をピシッと上げた。
「ボス、まずは何を為す?」
「――力を求めし者を集めよ。来たる決戦の日に備えるがいい」
「……」
「りょ」
『御意』
『承知いたしました』
アポストルは無口キャラを作っており、キャンディちゃんはアメリカで拾ったのになぜか日本語を使える。ウンさんとホルスは日本語が使えないので【
ウンさんとの初対面のときは問答無用で戦ったから気にしていなかったけど、コワモテの割にフレンドリーだったりする。
「各々の使命を果たし、“そのとき”まで刃を研げ。我は我で動く」
勝手に動くように言い残して、俺は外套をはためかせて自室に転移した。加藤は幹部同士の話し合いが終わる頃に迎えに行こう。あいつはあいつで家の問題もあるから他の幹部みたいに向こうで寝泊まりしてもいいかもしれないが……明日学校だからな。学校でやりたいこともあるし彼女には日本で動いてもらいたい。
謎多きキャンディちゃんも、姉貴肌のホルスとおじいちゃんポジのウンさんが居るしあちらに任せて問題無いだろう。
――いざとなれば彼女も逃げることくらいできるようだし。
「おにぃー! ご飯ー!」
「あいよー」
一瞬で元の姿になって返事する。
あ、そういえば後でウンさんに頼んでおくことあったな。加藤の迎えついでに
久しぶりにがっつり運動してお腹も空いたので、まずは夕食だ。リビングに入ると、既にテーブルに食事の準備がされていた。夕食は野菜炒めとご飯、味噌汁と漬物である。
「謎の和食推しはなんなんだ……」
「ふふっ、たまには日本人っぽいのもいいじゃない」
「そうだぞ
「母さんも父さんもバカだなー。そんな極端な話にはならんだろ」
「おにぃがそれを言うか……」
聞こえましぇーん。
家族4人で食卓を囲み、元気に「いただきます」してから箸を動かし始めた。
「そういや幸樹はだんじょんに行くのか?」
「パバったら、幸樹の性格的に当然でしょう?」
「そうだな! 死なない程度に気張れよー!」
「頑張ってパパの収入超えてねー」
「はいはい頑張りますよー」
息子娘の前でイチャイチャするのはやめろって言ってるのに治らんなぁ。俺はともかく
当の妹はさっきから俺の方をチラチラと無言で見ているが。
「……」
「なに? お兄ちゃんに惚れちゃった? 残念ながら血は繋がってるから結ばれんぞ」
「んなわけないでしょ殺すよ」
「はいすみません!」
直接的な脅しすぎる。
俺の妹が今日戦った誰よりもおっかない件。
「…………おにぃはダンジョン行くの?」
「ん? まぁそのつもり」
「……そ。ごちそうさま」
「あ、おい――」
そそくさとお皿をキッチンに持っていって自分の部屋に向かってしまった。
「なんだあいつ?」
「思春期ってやつだな。パパくらいベテランになると分かる」
「そうかしらね〜?」
不思議に思いながらも、俺はそこまで興味は無かったのでご飯のおかわりをもらうことにした。
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