頼もしい仲間、ゲットだぜ! ん? 頼もしい......?

 

 ――中二病の朝は早い。

 日曜日だからこそ、6時に目を覚ましてオシャンティーなブレイクファーストをイートせねばならない。これは間違いなく定められたディスティニーなのだ。


「グッモーニン、マイシスター。おフランスのティーはいかがかな?」


「おはよ、おにぃキショい」


「あ、はい」



 流れるような罵倒に思わず脊椎反射で真顔になってしまった。

 ……いかんいかん、いくら正論とはいえ反論のひとつでもしないと兄としての威厳が無くなってしまう!



「っと、まあ待ちたまえマイシスター」

「朝からめんどくさいテンションやめてよ、アホブラザー」


「アホは外国語じゃないぞ」

「論点はそこじゃないでしょ。何? やっぱり休日診療行く? 頭の病院もやってるかは知らないけど」



 まずいな。本気で病院に連れていかれそうな視線が突き刺さってくる。

 俺は理路整然といかにも論理的な口調で弁明を繰り広げる。



「いいか、探求者協会の設立の件は知ってるな?」

「ん、まあね」


「これはオフレコで頼むんだが、日本にその本部が設置されるらしくてな」

「なんでまた日本なんかに……」



 あくまで伝聞として、昨日部下に強引に言い渡した決定事項を告げた。なぜ日本なのかは、概念断片シーカースケルトンすら解析できる【解析書アナライズシート】をできるだけ身近に置いておきたかったからだ。

解析書アナライズシート】は一点物であり、全世界のスキルオーブや概念断片シーカースケルトンがこれのある場所に持ち込まれるだろう。なので何らかの介入やらを受けると仮定すると、日本の方が色々と面白そうなのだ。


 協会の創設者としての俺は謎の浮世人的な存在だ。それを利用して、協会が独自の非営利組織でありながら上手いことやってくれるように経営陣を指名し、細かい経営は任せて押し付けてこれたから、よっぽど大丈夫だとは思うけどね。



「何にせよ、本部ができる噂がある以上、何かしらの利便性を感じた外国人が日本のダンジョンをホームにするかもしれん。そうするとやはり外国語が町で跋扈するわけで――」


「考え過ぎ」


「あたっ……」



 一言で一蹴された挙句、咎めるようなチョップを食らった。俺も考え過ぎだと思ったけど、やっぱり英語ペラペラな人は憧れるじゃん。

 まあ俺には【変態指輪メタモルリング】の副次効果、翻訳機能様があるから不要な気もするけどね。


「分かったよ。普通に戻りマース。で、煎れた紅茶とマフィンはいる?」


「朝からお茶会始めようとするんじゃない。あるなら貰うけど」




「ツンデレシスターめ、おフランスのティーでわからせてやる!」


「それスーパーのやつでしょ。てかいい加減にしないとおにぃのマル秘フォルダ、乃愛のあちゃんに送りつけてから消すよ?」



「マジですみませんでした」



 俺は神様にも下げなかった頭を、それはもう綺麗な土下座をもって妹様に下げたのであった。


 ちなみに乃愛は俺の幼なじみだったりするが、また平日になったら顔を合わせるんだし今はどうでもいい。




 ▽▽▽



 ――ピーホーン♪


 優雅なティータイムを成美と過ごした後、自室で次の行動の準備をしていると呼び鈴が鳴った。

 2階にいるしお客さんは1階のリビングにいる母さんか父さんが対応するだろう。

 俺は無視してプランを練ったり、必要な人材を求めてネットの海へダイブしたりしていた。



「せーんぱい♡」

「ひゃっはい!? ……って何だ、加藤か」


 いきなり自室の扉が開いたもんで、奇声を上げて驚いてしまった。


 俺の心臓を跳ね上がらせて吊り橋効果でも狙ってそうな少女は、中学から一緒の一個下の後輩だ。

 今の俺が高二だからこいつは高一。

 名前は加藤桃香ももか。無駄に顔が良く、焦げ茶色の髪をハーフアップでオシャレに仕上げている彼女は、端的に言うと俺のストーカーでもある。



「桃香って呼んでくださいって毎回言ってるじゃないですかぁ」


「呼んだらお前、“つまり結婚してくれるんですね!?”って支離滅裂なこと言いそうだからな。よって、お前は加藤だ。異論は認めん」



 こいつとの出会いとか、なぜストーカーされてるのかは忘れた。あの(文字通りの中二の)時は修行僧をもスキップで軽く超えるような修羅の道を歩んでたからね。他人との関係性こそがかっこいいムーブを可能にするなんて思考が無かった時代だ。そもそも眼中に無かったのだろう。


 ちなみに今の俺も加藤に対して特別な感情は羽虫の欠片程も無い。



「先輩は冷たいなぁ……それで、何してたんですかぁ? あ、もしかしてナニの最中でしたか? よければ使用済みのものを――」

「はぁ、窓から投げ飛ばすぞ」


「使用済みのものを!?」

「お前をだよ!!」



 こいつの存在が何かしらの法に引っかかって今すぐ連行されないものか。

 めんどくせぇと内心どころか聞こえるように呟くも、加藤はスルーして可憐な笑顔で追及してきた。


「ダンジョン、行きました?」

「……自衛隊員が見張ってるんだろ? そもそも入れるわけないでしょ」


「何か戦利品でも……あ! この指輪! それに先輩の腕輪! 私そんなの見た事ありませんよ!!」

「なぜ俺の私物の新旧が見分けられるかは置いておくとし、これらは貰いもんだ。別に戦利品でもなんでないから」



 嘘は言ってない。

 加藤は嘘を見抜くのが上手いからこうやって誤魔化すのが最善手だろう。女性というのはみんながみんな、こうも恐ろしいものなのか。いや、少なくとも乃愛幼なじみはそんな事ないな。よかったよかった。



「…………先輩、夫婦間に隠しごとがあっても私は許します。でも、け者は嫌です」


「あれ? いつから夫婦になったんだ? こいつ、遂に妄想と現実の区別がつかなく――」



「茶化したのは謝ります。でも真剣に、私は先輩の野望の手助けがしたいんです」



 加藤のこんな真面目な表情、いつぶりに見ただろうか。彼女が何を思い、何を考えてその結論に至ったのかは当人しか分からないが――


 俺はノートを取り出して確認する。脳内でおおよその流れを算出した。




「――すべてを捨てる覚悟はあるか?」



「先輩のためなら、常に」




 加藤のくりんとした明るめの茶色い瞳が、まっすぐ俺を射抜く。どうやら本気のようだ。










 ……いやこわぁ。

 そんな重い感情だったの? 中二の俺は一体どんな催眠術を使ったんだ? 今の俺に催眠術を解く技術なんて無いんだが?

 これが、ロストテクノロジーってやつか。たぶん違うけど。




 まあいいや。当人が乗り気なら俺のちょっと危険なおままごとに付き合ってもらおう。




「とりあえずはそうだな、ダンジョンが出現した現代で俺が成し遂げるのは……このやりたいことリスト100選だ」


「先輩!」



「なんだ後輩?」


「ヤリたい人リストなんて、不健全だと思います!」


「100人もそんな相手挙げられるわけあるかアホ!!」




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