〈002.素性を隠して正義側の組織を創設、誰も正体を知らない創設者になる〉

 

 17時になり、俺はダンジョン探索後の買い出しを終えて帰宅した。


 軽くシャワーを浴びて自室に戻り、リュックの中身を取り出していく。

 ダンジョンに入るために使ったビニール袋やらは外で処分してきたから、基本的に今日手に入れたものばかりだ。



「まずはこいつらだなー」



 概念断片シーカースケルトンとかいうオーバーテクノロジー、無くしたらヤバいタイプの貰い物を取り出す。



 一つ目は【歪曲腕輪プシュケシンゼス】。


 見た目は何かノスタルジックな感じの腕輪だ。空間の歪みを生み出す概念断片シーカースケルトンらしい。

 行き先を思い描くと転移できるという単純明快な性能をしている。正直ぶっ壊れだ。

 これに関しては俺が頼み込んで特別に新しく作ってもらったので、名前も俺の趣味が多大に反映されている。



 二つ目は、【変態指輪メタモルリング】。


 もちろん性的嗜好の方の変態ではなく、変身する方の変態である。性能は読んで字のごとく使い手の望み通りの姿になれる概念断片シーカースケルトンだ。

 ちなみにこれを身につけていると、話した内容も聞いた内容もそれぞれに合ったこの世界の言語に置換されるらしい。……英語のテストの日はつけて行こう。




 さて、ここまでは俺が趣味と実益を兼ねた「やりたいことリスト100選」という中二病の闇鍋を完食するための小道具に過ぎない。



 本番はここからだ。



「よっこいせ」


 リュックから取り出したのは下敷きのような、無色透明なシートだ。


 三つ目の概念断片シーカースケルトンは【解析書アナライズシート】。


 使い手が身につけていない状態の物を解析して結果を映し出すという代物。具体的にはスキルオーブや概念断片シーカースケルトンの名前と効果を映し出してくれる。


 そう、つまりこれを使えばダンジョンに潜る者の成果を具体的に証明できるようになるのだ。

 俺がこれを用意してもらったのには狙いが当然ある。



「――よし、行くか!」



 今日は土曜日、両親の買い物デートは21時頃まで続く。部活中の妹――成美なるみには申し訳ないが、俺にはやらねばならないことがあるのだ。


歪曲鉛筆プシュケシンゼス】で歪みを描きつつ、【変態指輪メタモルリング】で純白のローブを着た初老の男性になって目的の場所へ向かう。




 ▽▽▽



 剣呑な雰囲気の各国首脳の会談、そのど真ん中で、訝しむような視線を柳のような立ち振る舞いで受け流す。

 こんな怪しい人物が要人集まる場所に突如現れたのだから拳銃を向けられても文句は言うまい。



「……はぁ」



 俺が気が滅入るなとため息を吐くと、拳銃を向けている人達がビクッと反応した。

 銃程度なら中学生の時に鍛えたから素の反射神経で躱せるしいいのだが、それが別の人に当たるのも面倒だから誤射は勘弁してくれよ?



『ダンジョンに潜る者を管理する組織の創設、必要だろう?』



 俺は【変態指輪メタモルリング】の副次効果である翻訳機能を使い、開口一番あくまで高圧的にそう宣言した。


 それから名も名乗らずに説明を始め、概念断片シーカースケルトンの軽い説明や【解析書アナライズシート】の紹介をする。神様との会話内容は省きつつ今の現状と、ダンジョンに潜る者を管理する組織の創設――探求者Seeker協会Associationの必要性を堅物タヌキ共に説いた。



 余談だが、なぜ者協会にしたのかというと、元々は探索者協会にしようとしたがそれだと英語訳はsearcherになってしまうためにこうなったのだ。

 わざわざ概念断片シーカースケルトンなんて名前なのだからseekerは譲れなかったのである。

 



 ▽▽▽


『――速報です。世界中に発生した地下空洞を探索する人々を統括・管理する機関、探求者協会の設立が国連安全保障理事会により承認され、国連加盟国への設置義務が緊急発令されました。それを受け、地下空洞は“ダンジョン”と正式に定義され――――』



「ただまー、つっかれたー」

「おかりー、おにぃこんな遅くまで何してたの? もう二人共ベットインしてるよ」



 帰ってきたら時刻は23時。少し手間取ってしまった。

 いや、色んな手続きと担当者への業務委任や指導が大変だったから仕方ない。何せ公の機関なのだ。むしろ相当短時間で話をまとめて来た方だろう。これもひとえに俺の事前準備と交渉術の賜物だ。誰か褒めて欲しい。


 両親は既に眠っているようで……うん?



「何で英語で言った? 寝てるって言えばいいだろ」


「そりゃあもうお盛n――」



「だあああああああ!!!」



 俺は肉親の生々しい話から目をそらすようにお風呂へ走っていった。

 こんな時間に成美がリビングにいたのも、うるさくて寝れなかったとかなのだろう。

 夫婦仲がいいのは構わないが、外(といっても野外ではなくホテルとか)に行って欲しい。ホント無理だから。頼んます。



「明日絶対それとなく説教してやる!」と憤慨しながら体を洗う。

 そしてしっかり洗い終えて湯船に浸かって今日の出来事を思い返し――



「あ、リストにチェック入れとかなきゃ。〈002.素性を隠して正義側の組織を創設、誰も正体を知らない創設者になる〉、達成ってな」



 お風呂で1人ほくそ笑む。

 ダンジョンが出現した初日としてはまずまずの出だしだったではなかろうか。



「クックック……! 終焉の予兆を見逃してくれるなよ、愚かな人類共!」



 俺はリストを達成させるという目標の過程で、世界を揺るがすだろう。どこまでこの世界は俺のわがままに付き合ってこれるか。見ものだな。


 お風呂という反響が凄い密室で、暗黒微笑ならぬ悪役高笑いをし――


「おにぃ大丈夫? パジャマ置いとくけど悩み事あるなら相談してよ?」


「…………お兄ちゃんはヘイキダヨー」




 ――妹に頭を心配されるのであった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る