第8話 ダンジョン都市アークライト
バロネットが言っていたとおり地下への階段を下りた先で待っていたのは、魔物が蔓延るダンジョンなどではなく、一つの都市がそのまままるごと入っているような街並みだった。
「どうよ? 言ったとおりだったろ?」
「う、うん」
所々削りだしの岩がむき出しになっている以外は石造りの住居が建ち並んでいて、奥に続く路地から人が頻繁に出入りしているみたいだった。
「ここは鉱山都市アークライト。元々は鉱山洞穴だったところだ。こういう町が世界各地に点在してるんだが、ここは結構大きめな町になるな」
おれだけ驚く中、スザナやクゥ、マルルは慣れた様子で近くを眺めている。
「……さてと、エリル。オレはそろそろ抜ける。しばしの別れだ」
「えっ? どこに?」
戦えないバロネットがパーティーメンバーということに不思議さは感じていたけど、まさかこんなすぐにいなくなるなんて。
「知ってのとおり、オレは職人兼用の商人。ダンジョン都市で情報交換はもちろんだが、商人として動ける最適な場所なんだ。魔物は相手に出来ないが、人との交渉術は得意ってわけだ」
「そ、そんな……」
「また会えるさ。じゃあまたな!」
せっかく同じ男同士で気楽な話し相手がいると思っていたのに。
「エリルくん。心配しなくても、別の場所でちゃんと再会出来るから大丈夫よ~」
「そうなの? でもどうやって?」
「ん~、その辺りは教えてくれないのよね~」
地下洞穴って言ってたしどこかと繋がっている?
「それじゃあ、私たちも行きましょ~」
そう言ってスザナが町の中心に向かって進もうとするも、クゥは別の方へ行こうとしている。
「クゥはいつものお店に行く」
「あらぁ~どうしましょ? エリルくんはどうする~? 一緒に行く?」
「えっと、おれは……」
一緒に行く以外に選択肢なんて無いと思うけど。
「心配ない。エリルはわたしが見ている。それに、あそこに連れて行けるのはわたしだけ。だから問題無い」
「それもそうね~。それじゃあマルルちゃん、お願いね~」
すっかりマルルの保護下に置かれてしまった気がする。油断すると命を取られそうなのに、その子がおれを守ってくれるんだから分からないな。
「エリル」
「う、うん」
「これから水晶玉がある教会に行く。そこに行ってエリルを測定してもらう。そしたら秘めてるものが分かると思うから」
水晶玉……おれの強さ、それと送還スキルのことが分かるのだろうか。
「スザナさんとクゥは後から来るの?」
「あの二人はいらない。戦うスキルじゃないから」
「そ、そうなんだ」
アイテム使いと盗賊って話だけど、マルル的には戦力にならないってことなのかな?
「エリル、手を出して」
「え?」
よく分からないままマルルに手を差し出すと、彼女はおれの手を握って歩き出した。
狐人族だから実際の年齢は違うかもだけど、今の状態だと姉と弟って感じがするなあ。でも前のおれは四十過ぎのおっさんだったから何とも言えないけど。
「……ここ。中に入って」
マルルについて歩いていたら目の前に重そうな鉄扉があった。マルルが重厚な扉に触れると、何らかの力が働いたかのように扉はすんなりと開いた。
中を見ると、そこには司祭らしき人が立っている。それ以外にも、祈りを捧げに来ている人がちらほらいるようだ。
「何してるの? 早く入って」
「ひっ、はい」
マルルに急かされて中へ進むと、台座に乗った水晶玉が光り輝いているのが見える。
「測定ですかな?」
「うん。測定するのはこの子。自分で名乗って、エリル」
そうだった。
「あっ。おれはエリル・ローデス……です」
「では、近づいて手を水晶玉に軽く触れてみて」
「は、はい……」
軽く触れる……軽く。
水晶玉に触れると光がボゥッと光って、一瞬だけ触れた手に熱を感じてとっさに手を離してしまった。
「あっ、熱っ……!」
「どうしました?」
「な、何でも無いです(多分おれの気のせいだよな)」
水晶玉に起きている変化はおれからは見えない。おれが手を離したところで司祭が水晶玉を覗き込む。
「……むむむ? むむ?」
水晶玉を見る司祭の反応があまり良くないような?
「……何が見えた?」
マルルもおれの結果が気になるのか、司祭に尋ねてくれた。
「よく分かりませんなぁ……魔力反応はあったと思うのですが、何らかの妨げがあるのか測定そのものが何とも……」
「……駄目ってこと?」
「いやいや……むぅ。もう一度触れてもらえば何か分かるかもしれませんな」
マルルが気にしてくれているのに対し、司祭は何度も首を傾げながら水晶玉とおれと交互に見ている。
多少なりとも魔力はあるってことなんだろうけど、何が問題になっているんだろうか。
「あの、少しだけ熱を感じて離してしまったんです。それが駄目だった……ですか?」
「熱? この水晶玉はあくまで測定する為だけの石。熱を帯びることは無いと思うのですよ……」
おかしいな。確かに熱かったのに。
「も、もう一度触れてみます……!」
「そうですな……それがいいかもしれませんね。では、もう一度……」
そういえば送還してた時のイメージってどうだったっけ?
でもあれはあくまで人に対してだったし、水晶玉にイメージを浮かべてもどうにもならないかなぁ。
物は試しだ。送還するイメージを頭に浮かべるだけならいいよな?
「じゃ、じゃあもう一度触ってみます」
そう言って送還する感じで水晶玉に触れてみた。
するとその直後――ゴゴゴ、といった地鳴りが聞こえると同時に自分と水晶玉の辺りが激しく揺れ出した。
「っ……!? エリル!! 危ないっ!」
「えっ」
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