第7話 隣国への近道・商人ダンジョン
「頑張れよ、エリル」
「エリルくん、くれぐれも言葉遣いには気を付けてね!」
マルルをはじめとした冒険者パーティーに連れて行ってもらうことが決まり、俺は路地裏ギルドの二人に深く頭を下げた。
すると親父さんことギルドマスターのモハがおれの顔を見ながら、
「まぁ、何だ……短い間だったが、また帰って来い! お前がどこの生まれなのかは自分でも分かってないだろうが、エリルの故郷だと思って戻って来ればいい」
……などと優しく声をかけてくれた。
親父さんとアイナに見送られ、おれは初めて王都の外に出る。四十過ぎのおっさんの頃に保護され、少年の姿になっても親切にしてくれた二人には感謝してもしきれないな。
レヴラン王国自体はあまり良くない国なのだと教わったが、王都ローデルはおれの故郷と言ってもいいかもしれない。
それにしても……。
「外……ここが外なんだ!」
名前しか分からないおれは今の今まで、一度も王都の外に出たことが無かった。それだけに初めての外で体が勝手に動き、幼い子供のようにはしゃぎまくっていた。
まだ王都の外門にいるだけなのにこんなに嬉しい気持ちになれるなんて、これも転生したことによる恩恵なんだろうか?
「あいつ、変。それともあいつだけ変?」
「こらこら、クゥちゃん。エリルくんを悪く言っちゃ駄目! どこから来たのか分からない迷子だったんだから、驚くのも無理はないの!」
「……ん、構わないことにする」
おれのはしゃぎっぷりを見て、クゥとスザナさんは温かく見守ることにしたようだ。
マルルはおれの面倒を見ると言っていたものの、元々口数が少ないせいか近づいてもこないみたいだった。
「あっはっはっは! 少年、そろそろいいか? 外に出たくらいではしゃいでいたら、この先、身が持たないぞ?」
そんな中、同じ男の仲間が増えたことを歓迎してくれているのか、職人兼商人のバロネットがおれに話しかけてきた。
「あっ……うん。ごめんなさい、バロネットさん」
「そうかしこまるな。呼びやすいように呼んでくれていいぞ」
正直言ってそう言ってくれたのは助かる。マルル相手じゃ気が抜けそうに無いし、スザナはおっとりしすぎてペースが乱れそうだし、クゥはまだ打ち解けられそうに無い。
「これからどこに行くの? どこかの町?」
「王都ローデルから一番近い町に行くには、いくつか山岳地帯を抜ける必要があるんだ。レヴラン王国が他国とあまり関わってきていなかったってのもあるんだがな」
「そうなんだ……」
「だが、心配はいらん! これから向かうダンジョンを通れば、抜けた先にすぐ町があるからな!」
ダンジョン……。路地裏ギルドの細長い道も以前は暗くてじめじめしていたけど、そういう場所なんだろうか。
王都の地下水路にも弱いながらも魔物が棲みついていたし、これから先は魔物が出てきても何の不思議もないんだろうな。
「バロネットさ~ん! そろそろエリルくん連れて出発しましょ~?」
バロネットと話をしていたら、スザナが手を振りながら山方面に向かって指差しをしていたので、スザナ、クゥ、マルルを先頭におれとバロネットの二人で歩き始めることにした。
それにしても戦えないおれはもちろん、バロネットやスザナ、クゥ……ほとんど生き残れそうに無いメンバーで本当に大丈夫なんだろうか?
「エリル、頭を低く下げて!」
「えっ? うわぁっ!」
何となく心配していたらいつの間にかマルルがおれの前に出ていたうえ、頭を下げた直後に何かが勢いよく通り過ぎていた。
「外に出たら油断は駄目。避けれるのが遅れていたら、エリルの頭に穴が開いてた」
「ひっ、ひぇぇっ……」
思わず自分の額を気にして触ってしまう。
「ひゅぅ~間一髪だったねぇ。大丈夫かい? エリル」
そうかと思えば、バロネットが口笛を吹きながら余裕そうに話しかけてくる。
「な、何とか」
「今のは死鳥っていう魔物だ。この辺はそいつらが多く飛んでるんだ」
何が飛んできたのか全く見えなかった。それなのに、ただの商人のはずのバロネットが何の焦りも無く避けていたなんて。
「レヴラン王国周辺はアンデッドとかゴースト系が多い。ま、その理由は置いとくが」
勝手に召喚しまくった国王のことを言ってるのだろうか。
「いい子はいい子にしてればいい……だから、エリルはわたしから離れると危険。バロネットは先に歩けばいい」
そう言うとマルルはバロネットに対し、スザナとクゥが歩いている先に促してみせた。
「へいへい、そうしとくよ」
バロネットはそれ以上何も言わずに、先頭を歩く彼女たちのところに合流する。
「エリル、頑張ったね。いい子」
マルルから何か言われるかと身構えていたら、軽く頭を撫でられた。頑張ったつもりは無いけど、死鳥から避けられただけでも頑張ったうちに入るみたいだ。
油断したら殺すよとか言ってたのに、意外と優しい?
しかし安全だと思えたのは王都から出てすぐの場所だけだったなんて、レヴラン王国はどれだけ危ない状態なんだろうか。
「……うぅ」
「まだ怖いと思うけど、エリルならきちんと出来る。それまで死なないように油断しないで」
油断したら死ぬとか怖い世界だった……。結局マルルはおれのそばから離れず、黙って一緒に歩いてくれた。
「エリルくん~、マルルちゃ~ん! ダンジョンに着くわよ~! 追いついてきて~」
ダンジョンらしき入り口付近で待っていたスザナたちに合流して、おれたちはダンジョン内に進むことに。
しかし、冷たい風が地下から向かってきていることに加え、おれ自身階段を下りる足からどうにも震えが止まらない。何でこれほどまでに弱いんだろうか。
「はっはっは、エリル。そうビビることはないぞ! ここは魔物の心配が無いダンジョンだからな!」
「え? 魔物が出ないダンジョン……? そんなのあるの?」
どういうことなのか不思議がっていると、
「……最弱でビビりのエリル。ここは隣国への近道用に掘った商人向けダンジョン。何も心配ない。だからビビるのはやめていい」
おれが弱いからとまるで相手にしてくれそうになかったクゥが、詳しく教えてくれた。
「安心したろ? オレみたいな戦えない商人は悪知恵が働いて、そういう場所を採掘してくれる連中に顔が利くようになるのさ」
……商人御用達のダンジョンとか、この世界は全然分からないことばかりだ。
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