第6話 多分、覚醒出来る

 自分のあまりの最弱っぷりを見事に披露してしまった。しかしそれが良かったのか、狐人族のマルルは素直に名前を教えてくれたうえ少しだけ優しくなった。


「……モハ。こいつ、パーティーメンバーにする。わたしが育てる」


 地下水路から引き揚げた俺とマルルがギルドに戻ると、ギルドマスターこと親父さんが心配そうな顔で出迎えてくれた。


 そんな親父さんに、マルルはあっさりと俺を仲間にすることを言い放った。


「何? エリル、お前……マルルのテストに合格したのか!? 戦えないだろ、お前」

「い、いやぁ……何でなのかおれにはさっぱり」


 親父さん的におれが失格の烙印を押されると思っていたらしく、何度も首を振って戸惑いの表情を見せている。


 マルルは奥の席に座り直し、これ以上話すことはないと言わんばかりに食べかけの肉にかじりつく。


「ま、まぁいい。他のメンバー……といっても、マルル以外に三人しかいないが、お前を紹介してやる。お前の登録証はこれだ。だがうちのギルドは斡旋がメインだ。ちゃんとしたギルド証は他のところで発行してもらえ」

「えっ? これ……? あれ、おれの名前が……」


 親父さんが渡してきたのは仮の登録証のようなものだった。おれの名前の後ろに、王都ローデルに似た名前が付け加えられているが、それ以外は何も書かれていない。


「羊皮紙にインクで書いただけだから仮だ。それが通行許可証になる。仮の登録証って言ったが、名前が物足りないだろうと思ってローデスとつけてやった!」


 王都の名前はさすがに使えなかったのかな。


「えっ? どうして?」

「他国、特にここ以外の国は身分を明らかにしたがるからな。レヴラン王国はただでさえ評判が……だから王都の名前もそのまま使うのもどうかと思って変えた。とにかく、マルルも家名があるんだ。エリルに無いのはおかしいだろ?」

「あ、ありがとう、親父さん……じゃなくて、ギルドマスター」

「……親父さん、か。はっ、懐かしい呼ばれ方だな。まぁ、いいってことよ」


 親父さんからぺらぺらなギルド証を貰って部屋の中央に戻ると、アイナがおれに気づいて手招きをしている。


「はい、おかえり。戻ってこれたんだね。今度はきちんと挨拶してね?」

「う、うん」


 テーブルに揃って座りおれを待っているのは、おれを加えてくれるという冒険者パーティーらしき面々だった。


「あ、あの~……おれはエリル……エリル・ローデスです。よ、よろ――」

「はっはっはっ! そうびびるなよ、少年! これから同じ仲間になるんだからさぁ! オレはバロネット・ネイピア。よろしくな!」


 バンバンと景気よくおれの肩を叩いてきたのは、臙脂色に映える鮮やかな刺繍で身なりの整った装備で固めている大柄な男性だ。


「バロネットさんは冒険者……ですか?」

「ん? らしくない色の防具をしてるからか?」


 おれは正直に頷いてみせた。


 すると、様子を見ていた女性がその答えを口にする。


「エリルくん。実はバロネットさんは準男爵なの。おまけに商人兼生産職人なんかもやってまして、と~っても忙しい人なんですよ~」

「えっと、それってつまり貴族様ですか?」

「はっはっは。貴族様なんてよせやい! いいとこ、準貴族ってやつだな」


 生産職で商人……何かおれよりも弱そうだけど。


「あの、あなたは?」


 バロネットさんを紹介した女性はおっとりとした口調で教えてくれた。この場にいるということは仲間になる人だよな?


「そうでしたぁ。私は~スザナ・ユルコバと言いましてぇ、アイテム使いですよ~」


 全身を黒の装束でまとめているものの、怖さは感じられない。


「……アイテム使い?」

「そうなの~。薬品合成で回復のお薬を作ったり使ったりするの~」


 つまり回復することが出来るってことだろうか。黒装束で回復って調子が狂いそうだけど。


 そしてもう一人の少女は――。


「……クゥ・ライラック」

「あっ、おれはエリル……です。よろしく」


 名前だけ名乗るということは極力、口を利かない人なのかも。小柄ながら銀色が輝いているメイルを着ていて、両耳にはアクセサリーのピアスをつけている。


 まるで隙がないしおれを警戒してるんだろうな。


「クゥちゃんは盗賊さんなの。決してエリルくんを歓迎してないわけじゃないから、落ち込まないでね~」


 盗賊か。どうりで。


「あれ? あの、戦えるパーティーメンバーは……?」

「ん~? 私たちの中だと、マルルちゃんだけかな? バロネットさんは外にはあまり同行しないし、私もクゥちゃんも戦わないかも~?」

「ええ?」


 まさかマルル以外が非戦闘職だなんて、こんな冒険者パーティーがあるんだ。そこにおれが加わってもダンジョン巡りとか大丈夫なんだろうか?


 ただでさえ最弱状態なのに。


 おれ、きちんと出来るのかな?


「スザナ。こいつ、エリルはわたしがもらう! エリルを殺すも生かすもわたしが判断する」


 食事を終えてきたようで、マルルがおれの頭に手を置いて主張してきた。確かに手も足も出なかったけど、容赦ないな。


「あらぁ? 珍しい~。育てたくなっちゃった~? でも、殺したら駄目だよ~?」

「……マルルの好きにしていい。最弱なうちはどうでもいいから」

「おおっと。早くもエリル争奪戦か!? しかし、マルル。地下水路のコウモリで判断したんじゃないのか?」

「大丈夫。エリルは覚醒の素質、ある。何か使える気がした」


 おれから見ても全く戦えそうにないメンバーなのに、そんな人たちから見ればおれは相当に弱いってことなのか。


 そういえばランクはどれくらいなんだろう?


「あ、あの、みなさんの冒険者ランクは……?」


 狐人族のマルルだけが強いとしても、長く旅を続けてきているなら実はそれなりに実力があってもおかしくないと思うけど。


「オレにはランクが無いな。何せ商人だ! はははっ」

「私も特にはないかなぁ?」

「……気にしたことない」


 まだ顔合わせだから教えてくれない?


 それとも……。


 残るマルルを見ると、彼女は少し下を向いて顔を上げてから。


「多分、覚醒出来る……わたしもエリルも」


 ……などと言い放った。


 つまり異色のパーティーで、なおかつ誰も正確な強さを知らないってことを意味する――ってことでいいんだろうか。


「そんなわけで、エリルくん。これから一緒に行きましょうね~」

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