第2話 衝撃カミングアウト

「ちょ、ちょちょちょっと待てぇい?!甘崎ってアンタ、入学式の首席でいっつも窓側の席で勉強ばっかしてる超絶猫背で陰キャのあの『甘崎蒼』?!」

「俺に対する第一印象ひどすぎませんか」

「あ、いやごめ、そんなつもりじゃ」

「まぁ確かに、いつもはメガネですし猫背ですし陰キャに見えても仕方ないんですけど」

おいおいおい嘘でしょ、こいつこんなにイケのメンだったの?しかもエプロンすごい様になってるし、うぁ〜早急に今までのこいつに対する先入観を玉ねぎみたいに切り刻みたい。

「そういえば小平さん、さっきバイト希望って…」

「あ!そうなの、ここで働かせてください!」

私は、ドラマとかであるようなちょっと大げさな礼をした。

間をおいて二秒後、甘崎が吹き出した。

「ぷふっ、いやそんな某アニメ映画みたいに頼まなくても」

「おい笑ったな!お主今笑いおったな!」

「ごめんごめん、ちょっとまってて母さん呼んでくるからそこのカウンター席座ってて」

「あ、うん」

(…にしても、このカフェ内装めっちゃシンプルなのになんだろう、だからこそものすごい安心感があるというか…)

言われるがままカウンター席に座り、店内を見回しているとコーヒー豆を引いているイケオジマスターと目があった。

互いに沈黙の空間、約三秒。

その長くもなく短くもない間に先に言葉を入れたのはマスターの方だった。

「きみは…、蒼のクラスメイトかい?」

「あ、は、はい。クラスメイトと言っても互いにそんなに関わりはないですが…」

「そうなんだね」

そういったマスターは、何故か私の顔をじっくりと見ていた。

「あの、私の顔になにかついてます?」

「あ、いや、そういうんじゃなくてね…、少し前に蒼が「クラスメイトに片思いをしている」と、いってきたことがあってね、その片思いしてる人の特徴とあなたがなんだかすごくそれっぽく見えて―――」

陽気に話すマスターの後ろにはいつの間にか甘崎が立っていた。

「父さん…?その話、他の人にはしないでって言ったよね?」

「あぁそうだったな、スマンスマン。でもお前が片思いしてるのがこの、モガツッ」

笑みを携えマスター(彼いわく父)の口を両手で塞ぐ彼の後ろには、般若面のオーラが見えた。

「小平さん、そこのスタッフ用入口からこっち入って、事務室、案内する。父さんは外に閉店の看板立ててきて」

このときの私は知らなかった。

案内された事務室で『一部とんでもない面接』が行われることを――――。



◆◇◆



甘崎に案内されて入った事務室で最初に行われたのは、

彼の母、かおるさんとマスターであり彼の父、響太郎さんの二人による面接であった。

私は初っ端から緊張で「小平明咲香十六歳好きな食べ物はパウンドケーキですっ!」と、イラン情報まで口走ってしまった。

質問内容としては、よくある「志望理由」とか、「時給やシフト時間」「仕事内容」とかの話だった。

そしてかおるさんの話によると「明咲香ちゃん、バイト面接合格だから全然今日からでも働いていいよ〜」とのことらしい。ものすげーゆるいなぁおい。

とりあえず、もしものための連絡先と住所を伝え、「これからよろしくお願いします!」と意気込みを見せていた時だった。

かおるさんと響太郎さんから、とんでもない爆弾発言が飛んできたのは。

明咲香ちゃん明咲香ちゃん、あのね、最後に少しいい?」

「?はい、何でしょう?」

「あのね、蒼はね、実は明咲香ちゃんのことすきみたいなの〜、だから何か進展あったら教えてね?」

事務室内に響き割るような声だった。

幸い、カフェはもう閉店しており店内には誰もいない状態で何も問題はない状態であった。

………ただ一人を除いて。

「ちょっと母さん!なんでそれ言っちゃうの?!」

「え〜?だって私、あなたがうだうだ片思いで悩んで超奥手なの、見ててじれったいんだもん」

「いやいやだとしても何してくれてるんですか?!」

「まぁでも僕はいいと思うぞ!なんか、恋のキューピットみたいで!」

「父さんこれはキューピットじゃないよ悪魔だよこれは!」

え、待って嘘でしょ何々何この衝撃展開。

あいつ私のこと好きなの?え、片思い?!

待って脳の処理追いつかない。


「小平さん!」

「は、はい!」

「あの、と、とりあえず!お友達から始めてもいいですか…?」

「あ!え、あはい!だ、大丈夫デス!」

「で、では…、よろしくお願いします」

「いえいえこちらこそ…」

この日から私と蒼の関係が始まったのである。

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