放課後のベルベット

椿カルア

出会いと紅茶

第1話 こんなことあります?

 高校一年の冬、私、小平明咲香こだいらあさかは今季最大のピンチに陥っていた。

 実家からの仕送りだけではいけないと思い、小遣い稼ぎにしていた事務職バイトを所長の「前から思ってたけど、君タイプじゃないからクビね」というなんとも不純な動機で首にされたのだ。


 そのため、月三万のアパートの家賃と食費に関しては何ら問題はないのだが、趣味の東京ペットカフェ巡りにかける費用が結構な金額のため回数を大幅に減らさなくてはいけなくなった。


「ちきしょー、こんなのってありかよぉ」


 電車内で思わずそう小さくつぶやいてしまう。

 これでは完全にやさぐれモードになってしまう、とか、一刻も早く新しいバイトを探さなくては、とかそんな事を考えながらアパートの最寄り駅で電車を降りる。



 家に帰るまでにも、ひたすらウジウジ考えた。


 そんな時、アパートの近くの喫茶店ベルベットで今私が最高に欲している言葉、「バイト募集中」の張り紙が貼ってあるのを目にした。

 思わず立ち止まり、まるで餌に食いつくように貼り紙へと足を進める。


 よく読めばそこには、「履歴書なしでもOK」「時給千五百円〜」と書かれていた。

 私は即決心した、そして喫茶店のドアノブに手を掛ける。


 カラカラ、とドアベルの音がしてコーヒーの香りがした。

 店内は、よく映画やアニメででてくるような明るめの木材を基調とした、リラックス空間のような感じがした。

 ザ・おしゃれ喫茶と言っても過言ではないほどの空間でこの時、私は衝撃の事実を知ることになる。

「すみません、あの…、ば、バイト希望なんですけど!」

「あ、はい、いらっしゃいませ、って――――小平さん?」


「え、あ、ははい。…え誰?」

「え、あそっか、いつもメガネかけてるから…」

「え、えぇっと…どちらさまで?」

 え、いやまじで誰?


 まさかこんなことになるなんて、さっきまでの私なら考えもしなかっただろう。

 だって、今目の前にいるイケメン店員が――――

「小平さん、俺は甘崎です。あなたのクラスメイトの甘崎蒼です」

「は、はぁ〜〜?!」

 ――同じクラスの超絶ド陰キャ学年首席、「甘崎蒼あまさきそう」だというのだから。

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