MMEI-0058 ペタアンブレラ

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■添付資料:音声サンプルの解析 電子工学班

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強行偵察班が取得した音声サンプルの解析結果です。


通常では人の声と環境音意外は何も聞こえませんが、音声波形を確認したところ、常に高周波が発せられていることを確認できました。およそ40kHzから60kHzの間で、常に超音波が聞こえています。対象はペタアンブレラタイプとのことなので、発信源はそれでしょう。


7時28分頃の音声波形を変換したものを確認してください。振幅が大きくなっています。この直後の会話から、十中八九ペタアンブレラ亜種の身体の揺れが原因です。7時33分頃にも、更に振幅が大きくなります。


これはまだ推測ですが、ペタアンブレラ亜種の身体の揺れではなく、身体の揺れによって音が大きくなった超音波が、特異能力の発動条件に関わっているのではないでしょうか。地上にいた方に影響がなかったのは、音が届いてなかったのだと思います。むしろ、洞窟内では反響して効果が増幅していた可能性がありますね。


それと、これは全くの余談ですが、スロー再生をすることで音を聞けます。驚くことに歌っているみたいなんですよ。最初は綺麗な音がゆっくり変化していて、とても優しく感じます。でも、身体の揺れが激しくなるほどテンポが速くなりますね。一番激しい時で150BPMか160BPMくらいありますよ。スローじゃなければもっと早いんでしょうね。犬が聞いたら心臓より先に頭が爆発するかもしれませんよ。


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■素朴な疑問


彼女は自分の出した音にどうやって耐えているんでしょうか? それとも実は耳が聞こえないんでしょうか───七海主任


■整備工作班からの提案


防音に役立たないだろうか。可能であれば応用実験部に確認してほしい───志藤主任


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■MMEI-0058 実験結果報告書

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■情報処理部から応用実験部へ


対象は必ず防音室内に隔離して実験すること。対象を横にした状態で維持し、自然に体が揺れないようにすること。対象が覚醒した時は、ただちに実験を中止すること。


■設備管理部から応用実験部へ


音声波形確認用設備一式のプロトを設置しました。振幅の大きさに注意してください。あと、ネズミ用の心拍計は千葉主任に渡してあります。


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■要請実験0058-A1 特異能力の発動条件1


概要:MMEI-0058の特異能力が発動する条件を調べる。


方法:MMEI-0058の首を左右に小さくゆっくりと振る。


結果:振幅と心拍に影響はなかった。


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■要請実験0058-A2 特異能力の発動条件2


概要:MMEI-0058の特異能力が発動する条件を調べる。


方法:MMEI-0058の両足を左右に小さくゆっくりと振る。


結果:振幅と心拍に影響はなかった。


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■要請実験0058-A3 特異能力の発動条件3


概要:MMEI-0058の特異能力が発動する条件を調べる。


方法:MMEI-0058の腰を左右に小さくゆっくりと振る。


結果:振幅と心拍に影響はなかった。


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■要請実験0058-A4 特異能力の発動条件4


概要:MMEI-0058の特異能力が発動する条件を調べる。


方法:MMEI-0058の肩を左右に小さくゆっくりと振る。


結果:振幅と心拍がわずかに変化した。


推測:首から下、腰より上の部位が関係する。

   腰を動かす時には臍のあたりまで動いたので、おそらく胸部である。


仮定:臓器、特に心臓の揺れが原因である。


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■要請実験0058-A5 特異能力の発動条件5


概要:MMEI-0058の特異能力が発動する条件を調べる。


方法:MMEI-0058の心臓に向けて、低周波を発する。


結果:振幅と心拍が大きく変化した。


補足:ラットが心臓麻痺を起こした。


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■要請実験0058-B1 特異能力の効果1


概要:MMEI-0058の特異能力の効果量の変化を調べる。


方法:MMEI-0058の胸を、ゆっくり大きく左右に揺する。


結果:振幅と心拍が小さく変化した。


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■要請実験0058-B2 特異能力の効果2


概要:MMEI-0058の特異能力の効果量の変化を調べる。


方法:MMEI-0058の胸を、早く小さく左右に揺する。


結果:振幅と心拍が大きく変化した。


結論:揺れの大きさではなく速さで効果が上がる。


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■要請実験0058-C1 特異能力の回避1


概要:MMEI-0058の特異能力の回避方法を調べる。


方法:聴覚を絶ったラットを使って、要請実験0058-B2を実施する。


結果:振幅が大きく変化したが、心拍に影響はなかった。


結論:揺れによって大きくなる超音波が原因とわかった。

   超音波を防げれば回避可能である。


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■要請実験0058-C2 特異能力の回避2


概要:MMEI-0058の特異能力の回避方法を調べる。


方法:MMEI-0058の口を閉じて、要請実験0058-B2を実施する。


結果:振幅と心拍に影響はなかった。


結論:口を閉じると超音波を発生させなくなる。

   塞げば無力化できる。


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■要請実験0058-D 特異能力の防御


概要:MMEI-0058の特異能力の防御方法を調べる。


方法:50%の音量で要請実験0058-B2の録音をラットに聞かせる。


結果:心拍が小さく変化した。


結論:超音波の減衰によって効果が低減する。

   録音でも特異効果の影響を受ける。


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■要請実験0058-E 生殖能力の調査


概要:MMEI-0058の生殖能力を調べる。


方法:触診で器官の有無を確認する。


結果:乳腺と生殖器を発見できた。


推測:哺乳類の特徴があり、胎生である。


補足:他の類似する実験は停止するよう指示が出た。


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■要請実験0058-F1 覚醒実験1


概要:MMEI-0058の覚醒を促す。


方法:強い光を当てる。


結果:覚醒せず。


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■要請実験0058-F2 覚醒実験2


概要:MMEI-0058の覚醒を促す。


方法:水を飲ませる。


結果:覚醒せず。


補足:ほとんど同時に肛門から排泄された。

   水以外の排泄物は無く、長期間摂食していないと思われる。


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■要請実験0058-F3 覚醒実験3


概要:MMEI-0058の覚醒を促す。


方法:足の裏に熱した鉄を当てる。


結果:覚醒せず。


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■任意実験0058-い 聴覚の調査


概要:MMEI-0058の聴覚を調べる。


方法:拠点内にある音楽媒体を使ってあらゆる音楽を聞かせる。


結果:無反応。


補足:覚醒後にもう一度やるべき。


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■応用実験部から情報処理部へ


識別名の発行と特異能力の定義をお願いします。

覚醒しないため、クラスとレベルの定義が出来ません。


■情報処理部から応用実験部へ


識別名を発行


警鐘を鳴らす子守唄


特異能力を定義


振動比例心拍異常

人的被害レベル:致命的


クラス定義とレベル定義を免除する。


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応用実験部 反復実験班 千葉幸利


  実験結果報告書


識別名       : 警鐘を鳴らす子守唄

生息地       : 不明


サイズクラス    : 小型

ウェイトクラス   : 超軽量

スピードクラス   : 不明

ムーブメントクラス : 不明


フェロシティレベル : 不明

フレンドレベル   : 不明

フィーンドレベル  : 有害


特異能力 : 振動比例心拍異常

発動条件

対象が発する超音波を聞くこと。


効果範囲

超音波が届く地点の全てである。


効果

超音波の大きさに比例して心拍数を高める。いずれ心疾患を誘発し、心臓麻痺を起こす。


人的被害レベル:致命的


特徴 : 

MMEI-0058は、体長92cmの小柄な人型のモンスター娘である。体重は17.9kgで非常に細身で、睡眠中の体温は10℃を下回る。腕と一体となった全長286cmの巨大な黒い翼を有している。翼は足の付け根の側面と短い尻尾を通って繋がっており、頂部には手がある。手足には五本ずつの細長い指があり、円形に湾曲した鋭い爪を持つ。薄茶色の短い体毛に覆われているが、首から下腹部までは薄く肌が露出する。頭部には巨大な耳が一対あり、超音波による反響定位が可能と推測できる。また、肩までの長さの黒い髪のような体毛が、額から首の裏まで生えている。目は瞳が茶色で体毛より長いまつ毛があるが、眉毛はない。鼻と顎は少し前面に突出しており、口はやや大きく鋭い牙を持つ。口内のような粘膜部は黒色。


生態 : 

MMEI-0058は、常に睡眠をとっており、現在は覚醒方法が不明。自然環境での睡眠時には、頭を下にして天井に足の爪を引っかける。また、睡眠時には口を少し開けており、超音波を発している。この超音波は、MMEI-0058の心臓部が受ける振動の速さによって大きくなる。超音波を浴びることで特異能力が発動し、心拍数が異常に高まる。


特記事項:

口を閉じることで超音波を発さなくなる。

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生殖機能が成熟していることが確認できています。しかし、ほとんど休眠状態で体温が低いことが懸念材料です。


覚醒方法が不明なのだからこのままやるほかない。ほぼ無害なのだから、成功した時のリターンは大きい。


かしこまりました。


・・・


やはり着床はしませんでした。


仕方あるまい。治癒が完了し次第、配信班へ回して良い。


採卵はしなくてよいですか?


それをして行きつく先は、人体実験と変わりないだろう。露見した時のリスクが大きすぎる。


仰る通りです。


その後は経過を観察しつつ覚醒を待つように。

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