MMEI-0090 スパイシーVビーンズ
はあ……憂鬱だ。今日の実験対象はよりによって伊達さんと因縁を持ってる。話を聞けば聞くほど悪いのは伊達さんなんだと分かっちゃいるけども、一応昔の上司だし、少なからず世話になったから、やるせない。
この頃のモンスター娘生態調査団は慎重すぎるくらいで、人的被害は絶対に避けると言う意思が固くて、ドローン導入に積極的だ。そんな状況でも起こってしまった死亡事件なのだから、よほど衝撃だ。
「俺たちもペタアンブレラでやらかしてても、おかしくはなかったよなあ。」
「そうですね。でも現実には無事でした。」
アキラの言う事は事実だけど、要するに運が良かったってだけだよな。外部の人間を巻き込む可能性のある状況で、今の配信を続けていいのか? 正直、今まで相手してきた子の中にもヤベーのがいて、たまたま運よく無事でいられただけなんじゃないかと疑わずにいられない。なんか、自分が信じられなくなってスランプになっちまった…
「主任、らしくないですよ。」
「はは……本当にな。」
でもなアキラ、やっぱ俺達の相手は恐ろしいモンスターなんだよ。万が一が起こってからじゃ遅いよな?
「絶対主任好みの娘なので、スケベな実験を考えてるかと思っていたのに。」
「お前! 俺の事そんな目で見てたの!?」
確かにマズルがあってボンキュッボンだよ。それでいて顔つきがあどけな~い感じで犯罪臭がするじゃん? 臭くないスカンクの女の子って、俺の大好物だよね、そりゃね。しかも、それが増えまくるんだろ?
……良くね?
「なあ、アキラ」
「はい!」
「特異能力で出てきた実体って本体とリンクしてんのかな?」
「形状や能力が同じなだけで別種みたいですよ。」
ということは増殖体だけを上手いこと確保出来たら抱き枕に出来るわけか。なんかすげー興奮してきたな。
「いいですね主任。その感じですよ!」
してやられちまったなあ。すっかり実験する気になってきちまったよ。
「まったく、お前にはかなわないよ。いつもありがとな!」
「いいえ、お役に立てて良かったです。」
なんで俺なんかについてきてくれてるのか未だにわかんないけど、本当ありがたいくらい出来る奴だぜ。
「それで、増殖した実体で遊ぶ方法があったりするの?」
向こうから振ってきたから何か案があるのかもと思ったんだけど、アキラは激しく噴き出した。
「本当に考えてたんですか!?」
あの、梯子外すのやめてくれません? 立ち上がった俺の希望がしなびちゃったんですけど。
「わざわざ能力を使わせなくても、本体を相手にすればいいじゃないですか。」
あっ、ちゃんと考えてくれてたの。ふーん、落としてあげるの上手いね。
「それって具体的にどういうこと?」
「モンスター生態調査団からフェロモンを取り寄せておくんです。それで、発情期にそれを使えば……もうメロメロですよ。」
ははーん。さては天才だな? 現実的な方法でこの子とイチャつけそうで、元気いっぱいになってきたぜ。でも、そんな様子を配信するわけにはいかねえんだよな!
「主任、カメラの前に立つ時の顔になりましたね。」
「お? わかっちゃうか。」
まごついてる場合じゃないんだって、ようやく気付けたぜ。アキラがここまで発破かけてくれたんだから、勢いそのままに仕事してやるか!
配信開始。
「こんハメ~! 今日も配信やってくぜ。楽しんでくれよな!」
<こんハメ~>
<今日の橘さんテンション高いな>
《500円 僕さん》<こんハメ~>
<アンちゃんいる?>
<今日はどんな娘なんやろか>
スタートから幸先いいな。いきなりこんな同時接続数で始まるなんて、思ってもみなかったよ。最初期から見てくれてる奴もいるし、はじめましての名前もちらほらあるぜ。
「僕さんスパチャさんきゅー! 今日のゲストはスパイシー
《1000円 おっさん3》<今から期待大ですね>
<超かわいい!>
《500円 大艦巨マズル主義》<たまには貧マズルも良いものだ>
<メスケモリフレや>
<かわいい>
曰く付きの実験棟は避けたからな。確保飼育班の飼育槽でアクリル板ごしにやらせてもらってる。
「皆のお眼鏡にかなって良かったよ。俺もこの子めちゃ好みなんだわ。でもな、すっげえ恐ろしい特異能力を持ってるのよ。」
まずは能力の紹介をしないとな。これ、外部監査で必ずやれって指導されちまった。視聴している人間を勘違いさせるような内容ではいけないんだと。
「その名もズバリ『見えない増殖』! コイツ、増えるんです。」
<お得やん!>
<何の問題が?>
<見えないんか…>
パッと聞いただけじゃ危険性も分からないし、お得っぽいよな。でも、見えないし消えちゃうから良い所はほとんどないんだぜ。
「そう。感触はあるのに姿が見えない。そんな実体が増殖するんだ。でも重さやなんかはちゃんとあるから、増えすぎると潰されちまうわけ。」
口で言うだけじゃわかりづらいだろうとは思っていた。だから最初の実験は、特異能力を視覚的に見てもらおうと考えている。
「墨汁と半紙を用意したから、今から実際に増殖するところを見せてやるぜ。」
予め対象への接触を申請して許可をもらったから問題ない。ツーマンセルなら解除も容易だから、すぐに許可してもらえた。
「アキラ、ヤバイと思ったらそっちの判断で解除してくれ!」
「了解しました!」
セーフワードも事前に用意しておいたから、見た目で危険が分からなくても、俺の方から指示して止めてもらうことも出来る。
「じゃ、飼育槽の中に入るぜ。」
<ドキドキしてきた>
<近づいて大丈夫なんか?>
<匂いを教えてくれ!>
匂いを教えてほしいってのは、どういう意図なんだか汲み取りかねるな。スカンクに見えるから臭いかどうか知りたいってことか?
「この個体は臭腺を除去済だから、全然臭くないぜ。もし分泌液をかけられたら、息が出来なくて窒息死するくらい臭いらしい。」
絶対喰らいたくないな。死ぬより苦しい激臭の痛みの中で呼吸をしなきゃいけないわけだから。
「それじゃまず、この子の特異能力の発動条件を説明するぜ。触れてる触れてないにかかわらず、3m以内に生物が存在すること。それに加えて、距離に関わらず生物の視界の中に入っていないこと。」
「ただしカメラ越しはノーカウントです。」
フォローサンキュー! このままアキラにはカメラで監視してもらいつつ、実験を続けるとしよう。なんかあったら振り向いてくれれば、対象が視界に入って能力解除だ。
「今これで、俺はこの子の3m以内に侵入したから、あとは目を閉じるだけだ。この手順はどうやったっていいから、近づきつつ見なければいいだけだ。」
それで、本体の近くをうろちょろすると……いたいた。体がぶつかった所に透明の実体がいるわけだ。コイツを引きずって墨汁にいれる。それで、半紙に倒す。
終わったら引き上げて半紙から離す。それでもって目を開いて本体の姿を確認する。どうだ?
<パントマイムか?>
<うおっなんか黒い人型になった>
<まじでそこにいるんか>
<人拓www>
<毛深いけどおっぱいでかいな(笑)>
<わりと暴れるの草>
<消えるんかーい>
<ついてた墨汁はその場で散るんか>
<橘さん真っ黒けっけや>
ふんふん。大体思った通りの反応をしてもらえてる。多分俺の言った事がどういうことか、これで伝わっただろ。
「皆、どうだった? マジで見えない個体が増殖してただろ? さっきまで居た所に手を出しても、今は消えていないんだよ。でも、あの子を視界から離すとまた出てくるんだ。」
実際にこうやって見せなきゃ納得できないよな。納得できても理解できないだろうけど。
「で、この能力がどうして危険なのか、それも見せようと思う。」
アキラに合図する。そしたらアキラが整備工作班に連絡してくれる。そうすると、ドローンが水を持ってくる。
「この飼育槽の中に水を入れるんだ。大体俺の膝下まで満たしたい。結構大がかりになっちまうんだけど、この実験が一番重要なんだ。」
もちろんスパイシー
<ぷかぷかしてて可愛いが>
<めっちゃ尻尾立ってるやん!>
<水飲んでて草>
時間がかかるからトークでなんとか間を持たせないとな。皆の興味を引けそうな内容を話そう。
「そうそう、皆アンちゃんの事好きか? 俺は好きだ。この子も実験後には飼育するつもりみたいだから、ひょっとしたらアンちゃんみたく飼育日記をやるかもな!」
100%と断言できるわけじゃないけど、神保主任がやる気だった。だから多分、出来ない理由がなければやるはずだ。
《1000円 日本尻尾吸虫》<このモフ尻尾が俺を狂わせるんだ>
<マジかよ期待!>
<今から名前決めようぜ!>
《500円 吐くなマタタ》<早く見たい>
<うおおおお!>
すげえな飼育日記! 確保飼育班作って良かったな~生態調査部。コストはすごいけど、ちゃんと自分たちでペイできてるもんな。
「名前つけるとしたら何がいいかね? スパチャンだとちょっとあれか、金に汚過ぎるか?」
<スパチャんwww>
<ダッサメンシ抜けます>
<ミセスビーンで行こうぜ>
<ブイちゃんでどや>
<橘に名付けさせるな!>
ボケただけなのにここまで言われんのかよ! 思いの外ショックだぜ……
「まあまあ、それは後の本配信までのお楽しみってことで、実験用の水を貯め終わったから、早速次の実験いってみよう!」
スパイシー
「見えてるか~? 姿が無くとも重さや体積はしっかりあるんだよ。だから、水かさがすっげえ増えてるわけ。」
そろそろ十分なので目を開く。一瞬で水が元の水位に戻った。
<家の床抜けちゃう>
<押しつぶされるなこりゃ>
<際限ないの?>
「際限はないぜ。マジで無限に増え続けるし、増える速度も速くなる。だから、絶対に解除できる状態にしてないと地球が滅ぶぜ。」
半分冗談まじりで言ったけど、ぶっちゃけこれ事実だよな……頑丈な生き物に対して能力発動したらどうなっちまうんだろうな。
「発動条件さえ満たさなくなれば、増殖した透明のヤツは全部消えるんだ。だから、被害が出る前にちゃんと能力を解除すれば問題ない。自分でも誰でもいいから、この子本体を視界にいれればいいんだ。」
あるいは、押しつぶされちまえば「生物」ではなくなるし……3m範囲から出るように、どちらかが動いてもいい。鏡やカメラ映像ではダメっていうのが現代では結構シビアだけどな。
<圧迫祭りできるじゃん!>
<美女ケモに囲まれるなら僕はいいと思う>
<上手く使えば兵器になりそうだな>
それな。実際に緊急警報が発令された時は兵器利用を疑われたぜ。類似組織でほぼ同時に起こったし、建築物へのダメージもすごかった。臭いあるなしのパターンで別れてたから、実験してたんじゃないかってな。
「余裕で兵器になるだろうな。投げ飛ばすだけでもちょっとした質量兵器だ。透明の実体がどうなっても本体には影響ない事が分かってるからな。」
でもそんなの嫌だわ。どうせだったら平和利用がいい。出現する個体の数を制限できるなら一気に便利になるんだけどな。まあ、特異能力の本質はともかく、利用する者によって毒にも薬にもなるわな。
「さて、この子の危険性を皆に知ってもらえたところで水を抜くか。アキラー! またドローン部隊よろしく!」
水抜きと並行して簡単な実験を進めよう。サーモグラフィで体温があることも視覚的に伝えておきたい。
「今からカメラ映像をサーモにするぜー。良く見ててくれよな!」
それでまた目を閉じる。今回はすぐ目を開ける。実体が増えすぎてドローンの作業を邪魔しないように、感覚を短めにして何度か繰り返すことで1体か2体だけ増殖させる。
「どうだった? 体温あったよな?」
<ほかほかしてるのエロすぎだろ…>
<手足の冷え性なんかねこの子>
<本体の身体からにゅって出てきてたわ>
おお、いいところ見てるじゃないか。そうなんだよな。何もない所から急に降って湧くわけじゃないんだ。飽くまで本体を起点にして増殖してるだけなんだよ。
「するめ屋さん、目の付け所がいいね!そう、この子の身体と透明な実体の両方が増殖を繰り返すんだよ。だから増えれば増えるほど増殖の速度があがっていくんだ。」
<MRIも見せてくれよ>
<消える時の説明もしてくれ~>
<でも3m範囲内だけなんだろ?>
するどい質問だ。実際の動きからの推測になってしまうが答えたい。
「実は透明な実体のほうはそれぞれが別の生物扱いなんだよ。だから、増えまくっても常に3m範囲内っていう条件を満たすんだ。ずりーよな。それのせいで危険度が跳ね上がるわけだ。」
これさえなければ不幸な事故は起きなかったんだがな。事実からそういうもんだと思うしかない。
<生物として破綻してる>
<俺たちの子供じゃん……>
<それじゃあ視界云々はどうなるんだ?>
「透明の実体は視界を持ってないんだ。俺たちに透明に見えるように、向こうも俺達が透明なんだ。本体を認識できないから発動条件を阻害しないってことだ。」
光の性質としてこれは間違ってない。こちらから完全に見えないという事は、向こうもこちらを見られない。
生物として破綻してるのはその通りだ。多分、増殖した個体は厳密には生物じゃない。生物に良く似せた概念的存在とでも言ったほうが正しいだろう。だから瞬時に現れては消えてなくなるし、別の生物として扱われているんだ。
「主任、水抜き完了しました!」
「ありがとうアキラ! 志藤さんにもよろしく!」
さあ、ここからが実験の本番だ。生態の中にこれといった弱点はないから、特異能力に着目せざるを得ない。その中で最も重要な観点と言うのは、必ず本体が起点であることだ。
「透明の実体の内、最初の数体は本体から出ているのが見えたと思う。じゃあ、本体がぎゅうぎゅうに圧迫されている場合どうなるだろう? 今からやる実験はそれだぜ!」
アキラがラバースーツを持ってきた。頭と尻尾の部分は別添えだ。手足にだけは先に爪当てを付けておくが、スーツ自体は全部ゴム製だ。透明の実体が増えまくって檻を破壊した記録はあるが、はなから本体が窮屈な状態でも増殖できるのか、という点は未確認だ。
「想定としては通常通り増殖をすると思っているんだが…その場合でもラバースーツ内に実体ができるんじゃないかと思ってる。」
つまり、ラバースーツが破けて実体が飛び出してくるってことだ。本体の中から、透明の実体が出現していることを明確にできるだろう。あわよくば圧迫することで、特異能力を封じ込め出来ていれば嬉しい。
<ケモラバー!?>
<さすがに嫌そう>
《5000円 ムホホハンター》<ぴっちりはいいぞ>
「アキラ、二人がかりで着せよう。」
「はい!」
アキラがスパイシー
ラバースーツの中に足を通すことは出来ず、毛が詰まって引っかかる。上手く毛を押し込んでいっても、肉がはみ出て上手く閉じない。それでも無理やり押し通すと、足の肉が局部に集まり盛り上がって邪魔をする。
盛り上がった局部の肉を端から押し込もうと揉んでいくと、だんだん奥の方から湿ってきて、より毛が絡まるようになってくる。そうなると更に毛を引っ張ることになってしまって、刺激が増してゆく。結局、彼女が腰をくねらせて避けようとする度に噴水の勢いが増していた。
それでも全てを中に押し込もうと圧迫しながらスーツを引っ張るが、充血した粘膜が引っ張られて広げられるだけで、中々着せる事ができない。油を差して滑りを良くすることで、ようやく留め具を閉じる事ができたが、スーツを閉じた彼女の身体は全ての弱点を膨らませて浮き彫りにしていた。
結局、全て着せる頃には満足に歩く事もできないくらいに脱力していた。彼女の首や尻にあるスーツの隙間から、泡立つ粘液を噴出し始めていて、辺りに濃厚な匂いを立ち込めさせつつ、痙攣していた。
動きを止めてくれたのは都合が良いので、ついでに頭と尻尾に別添えのスーツを被せておいた。
《10000円 おっさん3》<3回イってました>
<ハメ撮り配信探検隊!>
<ハメ撮りすんご>
《5000円 ムホホハンター》<ちゃんと抵抗してるのが良い!>
<ガチすぎてみててドキドキしたわ>
<手業がすごいわ>
<スッキリしたわ。もう良くない?>
全然良くない。
ようやく実験の準備が出来たところだってのに、終わってどうするんだよ。俺だって、まさかこんなに苦労する羽目になるとは思わなかったっての!
「主任、監視OKです。」
「サンキューアキラ! サンキュースパチャ!」
あとはこの状態で目を閉じるだけだ。俺の予想ではラバースーツの中で増殖が発動するはず。結果としてスーツが破裂するんじゃないかと思っているんだが…音がしないな?
「アキラ、どうなってる?」
「特異能力が発動する気配がありません。」
目を開いて確認してみるが、着せたスーツに異常はない。本当に増殖が起こっていないようだ。
「今考えた仮説なんだが、もしかしてこの能力は対象が任意に発動できるのか? そうでなければスーツの中で強制発動すると思っていたんだが…」
「その可能性もありますし、発動条件に体表面積が関係すると言う線も。」
ならばスーツを少しずつ開いていくことで面積の説を潰すとするか。まずは胸元まで留め具を降ろしてみよう。
<うおっ、デッカ!>
<これ本当に大丈夫?>
《1000円 のくと》<見るボイン!>
スーツに抑圧されていた胸が飛び出した。水気で皮膚に毛が張り付くから、普段隠れる部位も丸見えだった。
「こうしてみると腹部の毛は比較して短いんだな。」
「皮膚の色は薄い桃色ですね。」
《1000円 ポルンガ》<黙って受け取ってくれ>
<このボディを飼育するのか…>
<俺もうここに住みたい!>
今のドアップ映像は一気にコメントが増えたのがわかったな。撮影AIの進歩に驚くべきか、リスナーの需要の偏りに驚くべきか……
「次は腰のあたりまで下げてみるぜ。」
腹から股までが露出する。着せるのに手間取っただけあって、股下の肉が早速はみ出してきた。放っておいても留め具がだんだん下がっていくほどだ。
<むっちんぷりんってこういうことか…>
<いつ弾け飛ぶかワクワクする>
<すげえ丘が盛られてる>
この状態でも特異能力は発動せず。一度引き起こしてから、足を残してスーツを脱がす。この状態でダメだと別の条件が考えられてくる。
「目ェ閉じるぜ! アキラ、結果をすぐに教えてくれ!」
「能力発動せず、どうぞ。」
最終的に、着せたスーツを全部脱がしたところで能力が再発動した。多分、少しでも服を着たら使えないんだろう。
「衣服ではなく生物が触れてる状態だったら使えているみたいなんだが…布切れ一枚を身に着けた途端に使えなくなるってのも奇妙なもんだ。」
「ベルトで身体を括り付けておけば危険は全くないわけですね。」
そう考えるとアレだな…伊達さんがもう少しだけ慎重だったのならば、事件は起きなかったんだろうな。
「服を着せるだけで確保・管理がぐっと楽になるなんて都合が良いですね。」
「服を着せたほうが可愛いし、もう飼育する子は全部着衣でいいよな!」
<どいつもこいつも服着たほうがエロいんだが>
《500円 おしとね佐藤》<着エロはいいっすね>
<ストレスに感じない程度だったら>
それはもちろんその通りだ。とにかく、特異能力が強力なだけあって、その制約も強烈みたいだ。だからこそ、能力無しで生存できるようにタフな身体を持っているんだろう。
「アキラ、身体部位の差異による特異能力封じ込めの可不可を調べよう。」
「了解です。衣服の素材による差異も無いか見てみましょう。」
麻布一枚で後ろ手に縛ってみる。能力発動せず。
ナイロンの黒いタイツを履かせてみる。能力発動せず。
革製のベルトだけを腰に巻いてみる。能力発動せず。
ウールのマフラーを付けてみる。能力発動せず。
ベルベットのリボンを尻尾に巻いてみる。能力発動せず。
「何をどこに着せても封じ込めできるな。」
「とりあえず人工物を身に付けさせれば無力化するとまとめておきます。」
服を着ている俺が触れているだけなら無力化しないから、スパイシー
「みんな、どうよ。これだけで能力を無力化できるってはっきり分かったぜ。」
<奴 隷 商 人>
<そんな、橘さん信じてたのに>
<買います一括払いで>
オォイ! 人聞きの悪いことを言うんじゃない!
「主任、似合ってますよ!」
アキラまで悪ノリすな!
「えー、見た目は最悪だったが費用対効果が最高な能力対策が見つかった。これでほとんど安全に確保管理できるようになったはずだぜ。」
確保飼育班での飼育にも役立つだろう。特異能力が無ければ大人しい子だから、いずれ連れ出しもできそうだ。
「さて、想定よりも嬉しい発見が出来たが、試したいことが一つ増えた。透明の実体の方に衣服を着せたらどうなるんだろうな?」
<即消えるのか?>
<見た目どんななるか気になるわ>
<そもそも着せられるのか?>
実体なんだから問題ないだろう。布を巻き付けるだけでいいし。早速やってみよう。
「アキラ、ヤバそうだったら解除頼むぜ!」
「はい主任! 監視OKです。」
本体に触れつつ目を閉じて、気配が増えたらソイツを捕まえる。そしてソイツに布を巻き付けてから目を開く。
「さあ、どうなった!?」
スパイシー
「主任! その個体は急に姿を現しましたよ!」
「ええっ!? どういうことなんだ!?」
でも、新しく出てきた方は全く動かないし呼吸もしていない。まるで等身大の人形のようだが、体温はあるみたいだ。
<やっぱお得な能力じゃん!>
<ねえこれダッ…何でもない>
<なんで急に出てきたんだ?>
正直わからん。俺が聞きたいくらいだ。何よりまずはコイツを消せるか確認しないと、増えっぱなしはマズイ! 巻き付けた布を取ったら消えねえかな!?
「消えねえ…」
「主任、今の所は本体の方に異常ありません。」
よし、それならまだマシだ。状況を整理しよう。特異能力で増えた実体に、布を巻き付けてから特異能力を解除したら、「透明な実体」が「人形化して具現化」した。うん、意味わからん!
「主任、視点を変えてみませんか? 元々扉内に人類や人工物はないんです。能力の発動条件にかかわる事自体がイレギュラーな可能性があります。」
確かに、生物の中に人間が含まれているって言うならまだしも、人工物が関わるのはおかしいな。特異能力の発動と解除にあり得ない何かが起こってしまったのか。
「透明な実体が能力の発動条件を満たさない状況で、本体の能力が解除されることが、本来はあり得なかった……?」
「そもそも透明なのが視界に映らないためだとすれば、そういう誤動作を封じたい何者かの意志を感じますね。」
なんだか話が飛躍しすぎている気がするが、所詮は推論だ。一旦おいておいて、この人形化したほうを処分しないと。
「アキラ、事前に許可もらってた別の飼育槽へコイツを運ぶから、本体のほうに何か異常が出ないかを見張っておいてくれ。」
「倫理委員会への打診は必要ですよね…?」
ああ、必要だな…この人形化したのが「生物」なのか「ただの物体」なのか、それをはっきりさせないと処分を考慮することができないもんな…
「みんな、悪いがのっぴきならない状況になっちまったんで、今日の所はこれで終わらせてもらうぜ。次の配信でまた会おう!」
<乙 その人形くれよ>
<おつハメ~>
<唐突だなあw おつ~>
<次も楽しみにしてるぜ>
配信終了。
翌日になって早速、倫理委員会を発足してもらったが、木田部長も情報処理部も頭抱えて悩んでた。
少しだけ解剖した感じだと、ちゃんと肉があって体が出来てたらしい。でも、呼吸はしていないし自立もしない。なのに、体温があるし汗もかいている。
生きてるんだか生きてないんだかわからないし、本体への影響がどれだけあるかもわからない。迂闊に手を出すことができない。
最高の成果を上げたはずなのに、こんな面倒ごとを残しちまうなんて、素直に喜べねえ~…
───────────────────
応用実験部 実験配信班 橘春
実験結果報告書
識別名 : にじみ出るもう一体
生息地 : 毒性地帯P-120N
サイズクラス : 標準
ウェイトクラス : 標準
スピードクラス : 俊足
ムーブメントクラス : 歩く
フェロシティレベル : 温和
フレンドレベル : 友好
フィーンドレベル : 有害
特異能力 : 見えない増殖
発動条件
以下の3つが満たされる時。
・対象を中心とした半径3m以内に別の生物が存在すること。
・距離に関わらず、生物の視界に直接映っていないこと。
・衣服や装飾といった人工物を身に着けていないこと。
※対象と同種の生物は特異能力の発動条件には含まれない。
映像を経由する場合は視界範囲外と扱われる。
効果
対象と同じ能力を持つ透明の実体が増えていく。この実体には重量や体積があり、物理的に存在している。また、それぞれの実体はそれぞれ別種の生物として扱われる。そのため、指数関数的に増殖を繰り返すようになる。発動条件を満たさなくなると終了する。
人的被害レベル:致死
特徴 :
対象は、体長164cmの標準的な人型のモンスター娘である。白黒まだらの長毛に覆われていて、ふさふさの長い尻尾を持っている。短い耳とつぶらな瞳、桃色の鼻を有していて愛嬌のある顔をしている。1対の大きい乳房があるほか、その下には2対の小さな副乳が連なっている。ほとんどの場合は尻尾を立てて4足歩行しているが、2足歩行も可能。いずれの場合でも尻尾を過剰に動かして移動するが、これは頭と乳房の重さに対するバランサーとしての役割である。鋭い牙と爪を持つが、攻撃は滅多に行わず、分泌液を噴出して戦闘を避ける。
生態 :
対象はスカンク科の哺乳類の特徴を有した人型の生物であり、群れを作らずに個体で動き回って食事や寝床を探す生態をしている。ただし、子供が産まれた場合は成熟するまで一緒に行動する。基本的に温和で友好的だが、警戒時には逆立ちして威嚇を行うため、この時不用意に近づいてしまうと窒息するほどの刺激臭を持つ分泌液を出す。この分泌液の役割は戦闘を避けること全般に存在していて、外敵の撃退のほか、予め臭いを散布したり縄張りを誇示したりするのに使う。更には、この分泌液の他に特異能力による自己増殖を武器としており、嗅覚を持たない生物であっても視覚がなければ対処できる。嗅覚と視覚の両方を持たない生物は生息地におらず、生存能力が優れている。また、環境への適応力が著しく高く、極端な気候でなければ即日で順応する。
その他:
本来は臭いと特異能力で戦闘を極力回避しようとする。攻撃能力が低いので、どちらかが欠けるだけで脅威は半減する。生息地では白黒まだらの模様が警告色として機能する。
特記事項:
布切れ一枚でも身に付けさせれば特異能力を無効化できる。
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広報部から
かわいいお人形さんになったスパイシーVビーンズちゃんでした♪ この後はアンちゃんと一緒に人馴れ訓練をしてもらいます! いつかまた、皆さんにかわいがってもらえますようにv(^^)
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