MMEI-0084 プラネットチャイルド1
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添付資料:ブラダ山脈の環境変化 山脈探査ブラダ支団
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2X24年8月24日 14:02頃
特異地点C近辺を震源とする揺れが発生。散発的に複数回、何かが地面に衝突している。結果、特異地点Cが消失した。
特異地点Cのあった場所は、山が切り取られたようになっているが、押しつぶされた古い木や骨が残っていることがわかった。この一連の原因が何なのかを調査する必要がある。
一方で、すぐ近くの特異地点Bの地形も変化した。状況を鑑みるに、突如として地面が隆起したとみられる。その際、特異地点BC間で地滑りのような現象も起こっている。この原因と、相互関係の調査も進めなくてはならない。
現時点では、ブラダ山脈で稀に起こる環境変化だと考えられている。
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ブラダ山脈の一角が突如として変形した。そのような報告が挙がった。
元々モンスター娘の生態調査のために、定点カメラを置いていたが、その一部が壊れてしまっているようだった。録画を確認する限りでは、どうも山が動いているようだが。
激しい地響きのせいで、音も映像も不明瞭だ。設置したカメラの位置情報を特定して、現地に赴くべきだろう。
しかし、モンスター娘の通りそうな場所に設置していたから、壊れていないカメラに該当の一角が写っていないのは残念だった。
せっかくカメラの位置情報を記録しているのだから、作戦地域の遠景も撮影しておくべきだった。これは自分の失敗と考えて次に活かさなくてはな。
「元木主任、準備出来ました。」
「ご苦労である。では行こうか。」
ブラダ山脈は扉内の大陸のほとんど中央に位置する。ここに拠点を置ければ、どれだけ探査が楽になっただろうか、探査団を筆頭にして悲願とされていたが、あまりに過酷なため潰えた。
中心に大陸でもっとも高い山があり、そこから5つの山地が伸びている。真上から見れば巨大な五芒星を描けるだろう。
それほど巨大な山脈であるが、低地は豊かで危険は少ない。谷の底には特有の環境が育まれており、地球上では見ない分類の生物がいる。
しかし、少しでも山を登ると途端に牙をむいて来て、決して凍り付かないのに異常に寒い空気が心臓を止めに来る。モンスター調査団が言うには、時を操って概念をも止める者がいる。だから凍らないのに寒いのだと言う。
真偽のほどは定かではないが、確かに何者かの意志を感じる事があり、どのような場所においても、人間が一所に集まると山が崩れて襲い掛かる。それが探査団の悲願が潰えた理由なのだ。
「このあたりのはずです。」
「うむ。大体あの空中のあたりだな。」
切り取られたかのように山の一部が消えた場所。探査支部が言うには特異地点Cだ。特異地点というのは、探査団の定めるところの「変な場所」だ。環境というよりは、その地形そのものに特異性の見られる場所である。ブラダ山脈の特異地点とは、まるで山が移動しているかのような場所を差す。
「本当に信じられません。データが間違えているのだと思いたい。」
山が移動するなど考えたくもない事なので、どこの研究者もそう言う。自分のやった仕事を信じられないと言うのだからよっぽどだ。しかし、それぞれの団体が持つ情報を突き合わせると、事実である。
それをどうしても信じたくないのは、この山がもし、今のベースキャンプまで移動するような事があったら、全滅だからだ。ここまで大きい山脈で、活火山でもないのに何等かの活動がある。それだけで脅威なのだ。
元木主任は特異地点Cについての情報を吟味した。全てほぼ同じ時間に破壊されており、山が動いたのは事実だ。ただ、沈んだり飛び出たりといった方法では説明がつかない。それなら瞬時にここまで破壊されることはないし、されるとして潰れた木等が説明できない。
「特異地点Bについての情報は?」
問われた津田職員は完結に概要を答える事にした。手元の資料を元木主任に渡す。
「はい。そちらもカメラが破壊されています。」
特異地点Bは地形が隆起したと聞いている場所だが、そちらもカメラや機材が全く同時に壊れていた。それほどの衝撃があったようなのに、木などはそのまま生えているという。いかに根を張ろうとも、とても横になるのを耐えられると思えないが。
「次はitDPSかジャイロでも搭載するか。設置時の記録だけでは勿体ないな。」
元々定点カメラを設置するときに、地点情報を手打ちで記録していた。だから何らかの理由でズレるという事はあり得ないのだが、代わりに何かあったときに、どう動いたのかがわからない。映像よりも信頼度の高い通信で座標位置を確認出来ると便利なのだ。
「そうですね。最近は資金も潤沢になってきたようですから。」
実験配信班のおかげで、従来の5倍の資金を得られるようになっていた。生態調査部の初期調査の重要性から来るものではあるが、それ以上に国内からの目が多く向くようになったので、装備を整えて安全性を向上させたいのだと思う。
「ははは。折角増やしてもらっても、我らの班では使わんのだよな。」
強行観察班や応用実験部と違い、なるべく危険を避けてじっと観測する仕事だ。防御ではなく回避に重きを置いていて、装備は軽量かつ訓練は欠かさない。資金の使い道はもっぱら設備管理部への投資だった。
「ドローンのおかげで本当に荷物が減りましたよね!」
「うむ。助かっているし、もっと良くなってもらいたい。」
金食い虫で倹約を強いられている設備管理部であるが、他の現場実働部署からの評価は限りなく高い。
「今度、定点間の巡回ドローンを作るそうだ。撮影AIが実用範囲になり、残す課題は電力問題のみだから、解決のための一環として定点の充電スポットを計画するらしい。」
電柱で送電網を作っていけば実現は可能だが、規模としては一調査団の権限の範疇を超えている。やるとすれば世界プロジェクトとなるだろう。
「私としては応援したいですねー。」
などと、調査団の躍進を話しつつも元木主任は情報の精査を進めていた。
「特異地点Bに向かおう。ここで得られる情報は得た。」
「はいっ!」
特異地点Bは言われなければ分からないほど普通の山だ。ただ、隆起したという報告の通り、破壊されたカメラの座標は下を差す。その割に機材の破片などが見つからないのが不気味だ。
「地面が隆起したという話を信じるとして、どのように盛り上がったのか。」
地面が空へ向けて真っすぐ隆起したのか、それとも膨らんだのか。色々と考え方はあると思うが、元木にはどれも正解に見えなかった。
「私は信じられませんね。そもそも映像にある植生と違います。」
津田の言う植生の違いとは、特異地点BCに生える木の違いだ。元木も言われてから気づいたが、尾根を隔てて環境が違うはずだ。今の特異地点Bには、特異地点Cの木が生えている。それも一面にだ。
「山がそのまま移動しているという仮説を信じざるを得ないな。」
「しかし、特異地点に見られるような一部の地点のみですよ?」
津田が言いたいのは、山が移動しているという説への反対ではなく、純粋に山が移動する位置がある程度決まっている事への疑問だった。別に困るわけではないが、なぜなのか気になる事だ。
「そういう環境変化だと捉えれば話は早いだろうが、乱暴すぎるか。」
元木としてはモンスターに関する話で無ければ興味はないが、元々調査していた地域なため、何が起こったかの報告が必要になる。もう少し腰を入れて調査しなくてはならない。
「あーあー、国木田君、首尾はどうかね。」
「通信オーケイ。ドローンによる空撮は滞りなく。」
国木田職員はベースキャンプに残っている。ドローンを運用する分には現地へ赴く必要がないし、通信を中継しつつ現地部隊の動向を監視することで、通信途絶や危険が発生した時の初期動作が早く行える。
「探査支部の報告通り、特異地点BCの間にある尾根の部分が削れてます。」
特異地点BCを隔てる尾根の存在は、やはり鍵となるようだ。元木は空撮の映像を催促しつつ、更に情報を聞き出そうとする。
「地滑りと言う話だったが。それかね?」
「確かに両側が削れてますが、重いものにぶつかったように見えますけどね。」
送られてきた映像を確認すると、国木田の疑問もわからないでもない。尾根のそれも一部分がてっぺんから抉られているようだ。地滑りという表現より、もっと適切な表現があるはず。
「子供の頃に砂場で作った城を跨いで、蹴とばした時を思い出します。勢いよくいったので、こんな感じで削れたっけかな。」
津田の話を聞いた元木は、勢いよく顔を上げた。
「津田君!それかもしれない!」
「わあ!失礼しました!」
元木が突然大声を上げたので、津田は思わず謝罪した。ちょっとしてからお互いに落ち着いて、笑いあった。
「我が思うに、これはモンスター娘だな。」
「つまり調査対象というわけですね!」
二人のやる気が上がった。まだ、その姿さえ捉えられていないが、必ず尻尾を掴みたい。
「さあ、まずは定点カメラの置きなおしだ。それと、尾根にも置こう。」
「次に山が移動する時には巡回ドローンができているといいですね!」
元木たちは今できる事として、定点カメラの設置と記録を行った。今回の調査内容の報告ついでに、itDPS搭載のカメラ開発も陳情しよう。
それと、鍵になると踏んだ尾根にもカメラを設置したし、それらを一望できる高い位置にもドローンでカメラを設置した。
「本当にドローンは便利だなあ。」
二人は期限ぎりぎりまで映像記録を確認し、腕のような部位を発見した。元々特異地点Cの地形が女性的であるという報告が各団体からされており、ブラダ山脈の特異地点BC事件の報告は、モンスター娘に関わると結論された。
情報処理部としてはカメラ破壊の被害程度を報告されるだけで良かったが、思わぬところからモンスター娘の可能性が出てきたため、調査を続行する判断を下すことになったのだが、MMEI-0009の失敗を繰り返すわけにもいかなかった。
そこで、調査が長期にわたってしまう可能性を飲み込んだ上で、試験的にフェーズの同時進行を開始することになった。モンスター娘かどうかを見極めながら、調査と実験を並行して行うのだ。
各部署の同意の元で実行するかを決定する事にしたので、一応、職員が理不尽な思いをしないような配慮はされたのだった。
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生態調査部定点観測班元木和則
調査結果報告書
識別名 : 未定
生息地 : ブラダ山脈
サイズクラス : 超大型
ウェイトクラス : 超重量
スピードクラス : 超鈍足
ムーブメントクラス : 未定義※観測できず
フェロシティレベル : 未定義※観測できず
フレンドレベル : ※省略する※
フィーンドレベル : 未定義※観測できず
特異能力 : 未定
特徴 :
対象は、山ほど大きなモンスターと推測される。映像記録から、木よりも太い腕と見られる部位が見つかっている。また、もともと特異地点Cの不思議な地形は、人の形に似ていて、二つの丘の存在がモンスター娘である可能性を示唆している。
生態 :
対象は、現時点ではブラダ山脈の特異地点BC間を移動すると考えられている。その理由や、食性等は未だに不明だが、生涯のほとんどを睡眠状態で過ごしていると思われる。
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