第11話 すだち、動物病院を初受診
やっと、待ちに待った動物病院の受診日がやってきました。
すだちをキャリーケースにいれて、都営線とバスを乗り継ぎ、C動物病院に向かいます。
話は過去に戻りますが、実は引っ越しに伴って、先住犬マロンの動物病院をお世話になっていたC動物病院より引越先に近いD動物病院へ変えた経緯がありました。
でも、D動物病院は私からすれば、あまり信頼できないところでした。
(診てもらっていたのに、マロンが亡くなってしまったから……という、結果から不信感が募りすぎているかもしれませんが。マロンが亡くなる三日前に診せたのに異常を見つけてもらえませんでした。最期に高額な医療費を取られたのも納得はいってません)
遠くてもやはりC動物病院にお願いしたい。と私は思い、不便でもC動物病院をすだちのかかりつけ医にしようと決めました。
C動物病院はちょっと変わった動物病院です。
口は悪いし飼い主を叱ることでも有名な、でも腕は確かな熱血な名物先生がいて、ネットでの評価は高評価、低評価真っ二つに割れている病院です。
私はマロンがキシリトールガムを誤飲してしまったときも、腎臓の機能が落ちたときも、何度も名物先生に助けてもらったので信頼しています。
本当に……なぜ遠くなったからと……通うのが大変だからと言ってマロンのかかりつけをあの頃の私たちはD動物病院に変えてしまったのか。
後悔しかありません。
……話がそれました。
C動物病院の待合室には沢山の飼い主さんと犬、それに猫で溢れていました。
待合室に入ってぱっと目に入ったのはとても高齢であろうゴールデンレトリバー。飼い主さんに銀色のコームで毛を漉かれながら大人しく膝の上に寝ています。重いでしょうに飼い主さんはその子の頭を撫でながらいとおしそうに見つめています。
……なんだか泣きたくなるような光景でした。
受付を済ませ、順番を待ちます。
この動物病院では牽引も行っているので、動物たちのぎゃおお、という鳴き声が時折待合室にまで響き渡ります。
痛いけれど、治療だからね。頑張って、と心の中でエールを送ります。
やがて、すだちの順番が来て、私は診察室に入りました。
すだちを引き取った経緯を話し、足を引きずっているので調べてほしいこと。それに、避妊手術と、その際に麻酔をするなら一緒にひどい歯石をとってほしいこと、などを伝えます。
先生は「ひでぇ話だなあ」と目に涙を浮かべています。
「この子、全然筋肉ないよ。全く運動してなかった証拠だね。そして、6歳って聞いたけど嘘だね。この歯をみればわかる。8歳ぐらいだと思うよ」
ガン、と頭を殴られたようなショックを受けました。
すだちは実は8歳!? なら、一緒にいられる時間はもっと少なくなる……。
「引き取るのに金を払えって言われたろ」
はい、活動していくための寄付金、という名目で……と私はおそるおそる伝えます。
「引き取るのに7万近くはらった?! 典型的な詐欺団体だね。犬猫で金儲けしようっていう連中、いるんだよなあ……保護犬は金になるって目をつけられているんだよな」
はああ、しょうがねぇなあと言いながら先生はすだちを診ていきます。
「レントゲンとるよ。あと便の検査と血液検査」
はい、と助手さんが応え、すだちを連れて行きました。
「あと、なんかある?」
私は、あ、と気づきました。
「肛門腺を絞ってほしいです。あと足の爪がちょっと伸びているので切ってもらいたいです」
「あいよ」
レントゲンを撮ったあと、すだちの肛門腺を助手さんが絞ると、びゅうッとすごい勢いで沢山の汚液が助手さんの腕のあたりまで飛び出てきました。
「うわあ、よく破裂しなかったもんだ」
先生は腕組みをして、むつかしい顔ですだちの顔を撫でました。
「お前さん、頑張ったんだなあ」
すだちはぶるぶる震えながらも先生と助手さんに身を任せていました。
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