問題山積み、手術&リハビリ編

第10話 吠えない。そして外に出しても、動かない、狛犬のような犬

動物病院の受診を控え、すだちは左脚を引きずりながらよたよたと

私の後をついて回るようになりました。

私がパソコンの前にいるときは、傍らのカーペットで体を丸めて寝ています。

そして、私が布団で伏せっているときは、私にお尻をくっつけて、すぅすぅと寝息を立てています。

父と母のことは遠巻きに観察している様子です。


食欲があるのは良いのですが、トイレはなかなか覚えてくれません。

それでも食後を狙って、ケージの中にシーツを敷き詰めて、排せつをするまで

「ワンツー、ワンツー」と声掛けをします。

そして、排せつをしたら大げさにほめる、というのを繰り返します。

そうやってトイレの場所を覚えさせる躾を根気よく続けていくことに決めました。


通販サイトで買った首輪が届いたのですが、すだちに着けさせてみると、とひどく嫌がります。

今まで首輪をつけたことがないのかもしれません。

そこで、念のため買った、ハーネスに変えてみたのですが、これもやっぱり嫌なようです。


そもそも散歩の経験がないのかもしれません。


そして、相変わらず、吠えません。

すだちをケージに入れて、私がお風呂などに入ったり、距離をとると、くぅーんという甘えたような鳴き声は出すものの、犬らしい、吠え声は一切出さないのです。


母と相談して、早朝、人がいないとき、小さな公園(公園というよりただの緑地に近いかもしれない)に軽装備で連れていき、そっとすだちを地面におろしてみました。


冬の朝。北風がびゅうびゅう吹く中。

すだち、見事に固まりました。


地面の匂いや草の匂いを嗅ぐしぐさすら見せず、ただひたすら狛犬のようにカチコチに固まってしまっています。

私たちはリードをたるませて「歩こう!」とか、「おいで!」とか声をかけるのですが、はた目から見ると、玩具の犬人形にリードをつけて声をかけているような滑稽な光景に見えるかもしれませんね。


「この子、絶対、散歩したことないよね……」

「うん……。っていうより、外に出してもらったことすらないのかも。普通、匂いぐらいは嗅ぐよね……」


私と母は目配せしあいました。


他の犬や野良猫が通りがかっても、反応は全くありません。


せっかく外に出たというのに、つぶらなすだちの目を覗き込むとそこには、怯えの色でいっぱいです。


これは、前途多難だな……と思いました。

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