第8話 すだち、初めての夜
亡くなってしまった愛犬マロンは、母の腕枕で寝る犬でした。
毎晩、母の布団に潜り込み、母が伸ばした腕に顎を載せてくぅくぅ寝息をたてているマロンの姿はとても愛らしく記憶に残っています。
新しく迎えた、すだちは私たち家族三人の様子をじっと伺っていました。
犬の世界は序列がある……と聞いたことがあります。
私たち家族に序列をつけるなら、一位は間違いなく父か母の一騎打ちですが
すだちは意外にも私を選んだようでした。
私がお手洗いにいくと左脚を引きずりながら、ついていきます。
お風呂に入ると、摺り硝子のドアの向こう側に茶色い影。
バスマットの上にうずくまって、私がお風呂から出てくるのを待っているのです
「忠犬ハチ公みたいねえ」
母が言います。
すだちを引き取るのを決めたのは私なので、それをわかっているのでしょうか。
だとしたら、すごく賢い子です。
初めての夜、すだちは私の部屋へやってきて、お布団に入ってきました。
そして、さすがに腕枕ではありませんが、私の足元に体を寄せて、ころんと横になります。
正直、寝ている間に蹴っ飛ばしてしまわないか、私は心配でしたが、すだちはおかまいなし。
私はすだちの身体に手を伸ばします。
温かく柔らかいその体には血が通っています。
マロンと過ごした、最期の夜。
あの子はひたすら冷たく、硬く、カチコチになっていて、その感触がそれだけでもう、痛かった。
それでもあの子を抱いて寝ました。冷たくなったマロンを間に挟んで母と私で川の字になって。
すだちは6歳。長生きしてくれたとしてもあと10年ぐらいしか一緒にいられない。
また、あの冷たさを、やりきれなさを感じる日がくるのだ。
そう思うと堪らない気持ちがしました。
母は、私とすだちの様子を見ながら、ひとりで自分の寝室に入っていきました。
マロンが亡くなってから毎日母が泣きながら寝ているのは知っていました。
今日も、泣くのだろうか。
すだちの体温と重みを足元に感じながら私は眠りに落ちていきました。
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