第7話 名前をつけてあげよう

すぐに動物病院の予約をとり、明々後日には診てもらえる算段がつき、私たち家族は、ほっと一息つきました。


父がマロンに作っていたように肉と野菜と米で手作りごはんを作ると、その子は、がつがつとすごい勢いでぺろりと軽くたいらげました。


「お腹空いていたのかな」


私たちは顔を見合わせます。


新しくうちの子になったその子は、歯を磨かれ、耳掃除を施され、お腹いっぱいになり……


私たち家族が集っているテーブルのそばでくるんと丸くなり、すぅすぅと寝息をたてはじめました。


「かわいいねぇ」


母が涙ぐみながら言います。


「うん、かわいいねぇ」

「かわいい」


私が繰り返し、父もうなずきます。


「どんな環境にいたんだろうね……きっと、ひどいところだよね」

「幸せにしてあげたいね」


保護団体Aから渡された封筒にはその子の健康診断書が入っていました。

フィラリアは陰性。パルボにもかかってはいない。

狂犬病注射とワクチンは接種済み。

フィラリア予防、ダニ予防は二回ずつ行っている。

2017年生まれ。


ただ、体重は3.1kgと書かれていて現実に測った2kgという体重とは大分乖離がありました。

保護されたあとほとんどご飯を食べていなかったのかもしれません。

避妊手術もされていません。

左足の記述は「左脚挙上するが触診上異常なしのため、経過観察。左股関節伸展制限あり」とだけありました。


「この子に名前を付けてあげなきゃね」


私がそう言うと両親は頷きました。


「候補とか、ある?」


父は「真世とママで迎えることを決めたんだから二人で決めていいよ」と言いました。


私はうーん、と考え。


「ビバルディとかどう?」


と、提案しました。


昔飼っていたアンディ繋がりの名前です。


「却下」「センス0」


二人から厳しい声があがります。


「じゃあ、モンブラン」


今度はマロン繋がりで提案したのですが、二人に黙殺されました。

私に名付けのセンスは皆無のようです。


母が


「すだち、ってどう?」


と、言いました。


「すだちちゃんかぁ。いいかもね」


父を見るとうんうんと頷いています。

どうやら賛成のようです。


「すだち」


母が愛し気に名前を呼び、ふわふわのその子の頭をなでると、眠っていたその子は、うっすら目を開け、嬉しそうに尻尾を揺らしました。


「わかるんだ、自分の名前だって」


「すだちー」


私も呼び掛けて、その子……いえ、すだちの顔を覗き込みます。

すだちは目を細めて、私の手をぺろぺろ舐めました。


久しぶりの、その温かな犬のベロの感触に私は涙が出そうになりました。


マロンの遺影の前には、父が用意した陰膳がまだ湯気を立てていました。

毎日花を飾ることも考えたのですが、食いしん坊のマロンには、ごはんを毎日供えてあげるほうがいいよね、と、毎日、小皿にフードやおやつをあげていたのです。


今日はすだちのごはんのおすそ分け。ひさしぶりの父の手作りご飯。


マロン。


マロンが虹の橋へいって、すぐに、すだちを迎えたこと、怒ってるかな。

でも、マロンの分もこの子を幸せにしたいんだ。

わたし達を許してね。

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