第9話 百均の物でダンジョンボスに挑んでみた!
「へーい! よっちゃん! 今日は撮影すっぞ!」
優雅にモーニングコーヒーを飲んでいる最中、突然ミユが部屋に入って来た。
私はそれに驚きコーヒーを吹き出した。
「ちょw汚いw床コーヒーまみれじゃんw」
「ミユが急に入ってくるからでしょ!...で、動画録るって今回はどんな内容なの?」
前回と前々回は酷い目にあったもありヨウコは嫌そうな顔をした。
「今日はダンジョン動画の醍醐味かつ視聴者の誰もが待ち望んでいる『ダンジョンボスとの戦いだ!』」
「だ、ダンジョンボス!?」
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ユウキ、ユメ、私、ミユの順番でダンジョンの奥地へと向かっていた。
ヤシロはお留守番。
「ダンジョンボスと戦うって言うけど、何処にいるのかわかるの?」
「もう少し歩いたらわかる」
確かユウキとユメはダンジョンボスがいる所を探す為にしばらく探索していたって言ってだけど、見つけたんだ。ユウキに言われた通り歩いていると周りの樹が不自然に曲がっているのがわかった。
まるで樹のトンネルのようだ。
雰囲気でなんとなくわかる...この先にダンジョンボスがいると言うことが。
しばらくすると樹のトンネルは徐々に広がり大広間のようなものが見えてきた。
大広間の中心には黒い『何か』があった。
私は凝視するとその黒い何かは毛に覆われている事に気がつき、それが生き物だとわかった。
気がついたと同時に黒い毛玉はうごめき立ち上がるように上へて伸び、その姿があからさまになった。
それは私達が動物園とかで見る熊よりもはるかに巨大で両足の爪は光が反射しナイフ等といった刃物のように鋭いのがわかった。
目は赤くひかりこちらをギロッと睨み鈍く重い咆哮でこちらを威嚇した。
『オレ ノ ネムリ ヲ サマタゲル ノハ キサマラ カ』
そうハッキリ言ったような威圧感に私は後退りした。
ユメもその咆哮にびっくりして「ヒィ!!」と悲鳴をあげた。
ミユは「おお」と圧巻されながらもカメラを回し続けていた。
「あれがここのダンジョンボス...『デビルベアー』だ」
デビルベアー...名前からしてめちゃくちゃ強そう...勝てるのだろうか?
いや...良い動画をとる為にも勝たなければならない! 頑張って倒さないと!
「よーし! それじゃあ、みんな頑張って行こう!」
自分自身とみんなを鼓舞するように掛け声を出しデビルベアーのところへ向かった。
「おっ! やる気充分だねよっちゃん、それじゃあ頑張ってね~」
ミユは応援してくれた事もありやる気に満ちた私は「うおお!!」と雄叫びを上げて走り出した...ん? なんかおかしくない?
私は違和感を感じた...そう、まずはミユの発言だ、まるでやる気のあるのは私だけみたいな言い方、加えて音...静かだ、静かすぎない? 私の足音しか聞こえない気g
ヨウコは後ろを振り向くといるはずのユウキとユメの姿はなく、トンネル内でヨウコを見ている感じで立っていた。
「ええええ!? な、なんで!? 一緒に討伐するんじゃねぇの!?」
そう叫ぶと3人はキョトンとしていた。
「いやこっちなんだけど! その表情をするのはこっちなんだけど! なんでそこでスタンバってる!?」
「おい、そんな事より前見ろよな前」
まるであしらうかのような言い方に腹をたてながら前を見ると、デビルベアーが前足を上げ今にも襲おうとした。
「ぎにゃあああ!?」
いや待て! このままではただ無惨に殺られるだけじゃないか、そんなの動画的に良いのか!? きっと視聴者のみんなは私がダンジョンボスを倒す事に期待している!
「う、うおおおおお!! 」
ヨウコは自棄糞になりデビルベアーの頭に目掛けて包丁を降り下げた。
包丁は頭の中心を捉え『ガギンッ』と金属同士がぶつかるような音が鳴り響いた。
『パキン』
包丁の刃が真っ二つに折れた。
「折れたあぁぁぁぁ!?」
「当たり前だろ! 普通の熊でも頭蓋骨は分厚く固いんだからデビルベアーはもっと固いに決まってるだろうが!」
「んなも知るかぁぁ!!」
ヨウコは怒鳴ると同時にデビルベアーの爪が胸元から腹にかけて切り裂かれ内臓と血を地面にぶちまけた。
YOU ARE DEAD!!
「ねぇミユちゃん」
「ん?」
「もしかしてヨウコちゃんに今日の動画の趣旨伝えて無いの?」
ユメはそう聞くとミユは黙り込み、しばらくすると「テヘッ☆」と言いユウキとユメはドン引きした。
「...とりあえずあいつ回収だな」
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「何で誰も来ないんだよ!!」←蘇生薬で復活した
怒りが大爆発するヨウコをミユが「ごめんwごめんw」と笑いながら宥めた。
謝罪する気無くない?
「実は今日の動画の趣旨、よっちゃんだけでダンジョンボスに挑んでもらおうかと」
一瞬何を言っているのかわからなかった。
私...1人で? あんな頼りない包丁で?
「ふ、ふざけんな!! こんなんでどう戦うんだよ!」
するとミユは「そう言うと思いまして」と言いながらバッグをあさりだした。
「も、もしかして!? ついに私にもちゃんとした武器をくれr」
ミユがバッグから取り出したのは、ナイフ、フォーク、スプーンがセットになった物を渡された。
よく見るとラベルのような物に100円と書かれ、私の頭は宇宙になった。
「え...ナニコレ?」
「100均で買った、食器セット」
「いや...それはわかるんだけど...なんでこれを渡したのって聞いてるの」
そう訪ねるとミユはニヤニヤと笑った。
「今日の動画内容は『百均の物でダンジョンボスに挑んでみた!』です」
私の宇宙はビッグバンした。
「は...はぁ? 何言ってんのお前!? 無理に決まってるじゃん! 包丁でも倒せなかったのにこんな陳腐なものなんか!」
「だからこそ面白いんだよ!」
「いやいやいやいや、苦労しながらも協力して討伐した方が良いに決まってるじゃん!」
そう...汗水垂らして討伐した姿...めちゃくちゃかっこいいに決まってる!
「いやそんな動画そこら中にあるし...それにうちの視聴者は無防な挑戦に挑むよっちゃんの姿を見たいのがほとんどだし」
「つまりそれって私に『死ねッ』て言ってるのか!?」
ミユは満面な笑みで『わかってるじゃん』と答えた。
「おかしいよ...こんなのおかしいだろ! 普通はモンスター討伐の動画が盛り上がるんじゃないの!?」
「確かに盛り上がるけど、経営側からしたら最悪なんだよねw」
「え? ドユコト?」
「ほら、前に話したしょ? 冒険者の大半はモンスターを倒したいだって」
そう言えばそんな話ししたような...
「そのモンスターを倒すってのはダンジョンボスの事を指してるだよ、つまりダンジョンボスが倒されたらうちのダンジョンの魅力が半減されてお客が減っちゃうんだよ」
「なるほど...え、ちょっと待って、つまりあのデビルベアーは倒したらダメなの!?」
「そうだよ」
「それ...やらせじゃん」
「まぁまぁw そんな事気にしな~い気にしな~い」
ミユはそう言いながら私の背を押し大広間に出た。
「それじゃあ頑張ってね♪」
「ちょっと! まだやるって言ってn」
反論しようとしたが私の周りが何かの影て暗くなった事に気がついた。
影が伸びる方に目線ー向けるとデビルベアーが立っていた。
「ぎゃああああ!!」
YOU ARE DEAD!!
「ちょっとちょっと、全然食器セットを扱えてないじゃん」
「うるせぇ、あんなの対応できるわけないだろ」←蘇生薬で復活した[2回目]
「取り出す事すらできないとか...ちゃんとしろよ」
「簡単に言うな! そんな事を言うならユウキがやってみなよ!」
「この動画はお前がメインなんだから私達がでしゃばる訳にはいかないだろ?」
微笑みながらそう言うユウキに怒りが混み上がるヨウコだった。
「ごめんねヨウコちゃん、本当は変わりたいんだけど...」
ユメは優しいな...
「で、ゆめっぴ...本音は?」
「僕じゃなくて本当に良かった」
前言撤回、なんかみんなミユに染まってきてない?
「ほらほらよっちゃん、リベンジしちゃいなよ」
再びミユに押し出された私はデビルベアーの前に出た。
するとデビルベアーは何度も来る私にしびれを切らしたのか再び砲口した。
『マタ オマエ カ イイカゲンニ シロ』
「うるせぇ!! 私だっていい加減にしろよって言いたいよ! このままなす統べなく殺られるのは気にくわねぇ! これでブッ倒してやらぁ!」
ヨウコはナイフとフォークを取り出し飛び付いた。
『ポキン』
ナイフとフォークは板チョコのようにへし折れた。
「デスヨネー」
YOU ARE DEAD!!
「いやー流石だよよっちゃんw 勇敢に挑む様は感動的だよw」
「絶対にそんな事思ってないでしょ...めっちゃへらへらしてるじゃん」←蘇生薬で復活した[3回目]
「よし次はこれにしようぜ」
こいつ無視しやがった。
ミユが次に出したのは、ゴルフやテニス、サッカー等のボールだった。
「ナイフとフォークはわかるけど...ボールとかどうやって戦えって言うんだよ!」
「気合いと根性! 明日に向かってキックオフ!」
「サッカー限定かよ! ああもうこうなりゃ自棄糞だぁ!」
ヨウコはサッカーボールを思い切り蹴りデビルベアーの頭をヒットさせた。
YOU ARE DEAD!!
「ふと思ったんだけど、どうやって私の死体を回収してるの?」←蘇生薬で復活した[4回目]
「ああ、それはこの『よっちゃん回収マシーン』で回収してるんだよ」
ミユが取り出したのは長い棒状に糸とその先にフックのような針が付いた物を出した。
どう見ても釣竿である。
「あと何でみんなは襲われないの? そんで、あいつは定位置に戻って待機してるの?」
「何でかは知らんけど、テリトリーに入らなかったり、攻撃しようとしなかったら襲ってこないんだよ」
え...何そのシステム、あいつもかなり不便じゃん。
ユウキが言うにはダンジョンボスはだいたいあんな感じらしい。
次に渡されたのはすりこぎ棒や物干し竿と言った棒を渡された。
これなら何とかなるんじゃない? と思うのはだいぶ麻痺してきたんじゃないかと思う。
『イヤ ナンデ マタ オマエ ナンダヨ? セメテ ウシロ ノ ツヨソウナ ヤツニ シロヨ』
「いや私もそう思ったけど、動画の企画がそうなってるから仕方ないんだよ」
『タイヘンナンダナ オマエ』
「そっちこそこんなに付き合ってもらって大変でしょ」
「よっちゃんさっきから何1人でぶつぶつしゃべってるんだろ」
「も、もしかして死にすぎておかしくなったんじゃ?」
ミユは「それはあり得るww」とゲラゲラ笑った。
一方ユウキは気難しい表情をしていた。
(あいつ...もしかして)
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「いや~全然勝てないから逆に燃えるよね!」←蘇生薬で復活した[5回目]
「おっ 流石はよっちゃん! この調子でどんどん行こう!」
ミユはそう言いながら次の道具を出そうとした。
「なぁヨウコちょっといいか?」
「ん? どうしたのユウキ?」
ユウキの表情はどこか動揺しているように見えて私は少し不安に感じた。
「お前まさか『モンスターの声』がわかるのか?」
よくわからない質問に私の頭を疑問に溢れた。
私は恐る恐る「え...うん」と答えるとその場の全員が「「「え!?」」」と目を見開きこちらを振り向いた。
わ、私...なんか変な事言ったかな?
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