第五話 人間辞めますか?それとも魔物になりますか?

 魔王城―魔物を統べる王たる魔王が住まう城という事で、おどろおどろしいイメージがあったが、ピンクを基調とした実にファンシーな感じのお城である。


「魔王様!こいつがモルモルカの夫になる奴だニャ!名前は…そういえばお前の名前ってなんていうのかニャ?」


 確かに俺ってこの世界に来てから一度も名乗ってない気がする。


「向田テツと申します」


「ムコウダテツ?」


「あ、テツが名前なので、テツって呼んでください」


「分かったのニャ!というわけで、このテツがモルモルカの夫なのですニャ」


 ここまでのイメージで魔王というと、頭に角を生やしていかにも魔王ですって感じのイメージを持たれるだろうが、この世界の魔王はどうも違うようだ。

 言うなれば一国の初心なお姫様って感じのイメージだ。ピンク色の髪の毛を縦ロールさせている感じだが、体型に関してはいわゆるぽっちゃり系と言った感じだろう。


「モルちゃんおめでとう。本当に嬉しいよ!」


 魔王様が泣き出してしまった。本当にこれは魔王なのだろうか?


「ありがとうございますなのニャ、魔王様!」


 俺はこんな魔王の元、どうして人間との争いが起こるのかが不思議でならなかったので一つ質問してみた。


「一つお尋ねしたい事がございますが、よろしいでしょうか魔王様」


「は、はい、なんでしょうか?」


「大変失礼な事かもしれませんが、私の目には魔王様は魔物の王というよりも、人間の国の王女様のように見えるのですが、どうして今そのような地位におられるのでしょうか?ましてや人間の敵の王となれば尚の事」


「確かに私は人間です。そして今は無き西の国、グレンダルマ王国の第二王女でした」


 見たまんまな感じだった。


「しかし、我が国グレンダルマは60年前の紛争によって現パンゲア王国によって滅ぼされたことをきっかけに、宛てもなく放浪している私を魔物たちが助けてくれたのです」


 魔王様改め、元グレンダルマ王国の第二王女“ポッチャリーニ=ボインダー”様は、ある日を境に魔物の言葉や考えている事が分かるようになると同時に、自分の意志を魔物たちに伝える事も出来るようになったという。

 その日から肉体的な老いも止まり、若い時の姿のままなのだという。


 魔物と意志を通わすようになってからはこの地に定住していると、自然と魔物が集まってきて、人間達からは第二の魔王と呼ばれるようになったのだという。そして魔物の中からも魔王と呼ばれるようになったのだとか。


「正直、私は人間との争いは望みません。しかし、人間は魔物の事を必要以上に恐れ、討伐という名目で多くの者たちを殺してきました。今回パンゲア王国に攻めるように命じたのも、我々の住まう森へ開拓と表して、侵攻してきたからです。だからこそ、要らぬ争いを避ける為に抑止力の意味で王都へと攻めたのです」


 まあ確かにあの国王のやる事だからとなんとなく納得がいってしまった。


「私も人間ですし、皆と意志の疎通が出来るようになるまでは魔物とは恐怖の対象ではありました。実際に人間の憎しみや憎悪を元に生まれて来た魔物に関しては凶暴性が高いですし。しかし、それ以外のモルモルカのような知性がある魔物に関しては人間と共存の道があると考えております。実際にテツ様はモルモルカと夫婦になるという今迄に無かった偉業を成し遂げておりますし。」


 本意である事ではないし、今現在も納得の言っている状況ではないのだが…。とりあえずはそういう事にしておいた方が都合が良さそうだ。


「そこで一つテツ様にお願いしたい事がございます」


 どうも面倒な事になりそうな予感…


「テツ様には人間と魔物の懸け橋になっていただけないでしょうか」


 予感的中!


「魔物の中には対話が可能な者たちもいるということを、人間の立場から人間たちに伝える事が出来れば、これ以上の無益な争いを続ける必要はないと思うのです」


 確かに、この世界の人々は魔物とは無条件に自分たちを襲ってくる存在って認識な訳だし、それを改めれば“討伐”なんて事を考えなくとも済むと思う。

 しかし、俺の住んでいた世界でもそうだが、今この魔王様の話を聞く限りだと、人間同士の争いも存在している以上、全くの別種族同士が争わなくなる理由が無いようにも思える。

 どの世界でも人間の欲とはおぞましいという事だな。


「厳しい事を言わせてもらうと、それはあくまでも魔王様の理想論の話であって、それを反対する人間も当然いると思います。そういった人間を納得させるのは厄介な事かと思います。実際に人間の国同士の争いで追われる身になった魔王様ならば尚の事そのことは理解されていると思いますが」


 魔王様は急に顔俯かせた。


「はい、私は人間という種の醜さ、そして欲深さをこの身を持って実感しております。だからこそ、この世界を渦巻く争いの連鎖を終わらせたいのです」


 60年以上も生きてても、中身は初心な王女様のままって感じかな…


「だから魔王様はモルモルカたち四天王を鍛えて、魔物たちの軍隊を作ったのニャ!」


 ん?それってどういうこと?


「理想論だけでは何かを実現する事は叶いません。だからこそ、私はいえ、我は魔王としてこちらの提案を聞き入れない人間を抹殺し、共に歩んでいける人間だけを残そうと決断したのです!」


 おっと!急に風向きが変わってきたぞ。そして魔王様の表情もピンクい雰囲気の城に合わないものになってきている…


「昔、我が国で召喚した異世界の者が仰っていた言葉がございます」


 ゴクリ…


「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギスと…」


 紛れもない魔王だこの人!魔王の素質満載だぁ!!


「ちなみにホトトギスとは何のことかは分かりませんが」


 ヤバイぞ。ここはさっきのパンゲア王国って所とは違った意味でヤバイ場所だぞ。一刻も早く逃げなければ更に面倒な事になりかねん。どうすれば…どうすれば…。

 あ、そうだ!!


「あの、このような時に大変恐縮なのですが、おトイレに行ってもよろしいでしょうか?」


「あら、長話になってしまってごめんなさい。もちろん、生理現象を我慢するのは身体に悪いですから、どうぞお行きになって下さい」


 俺はトイレの場所を案内され、トイレの窓から逃走し、魔王城から逃げ出した。


 とりあえず、今回はエッチな事一切無という悲しい状況に俺は涙した。

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