Memory.3「再会」

 親友・真人の手によって助けられた唯。真人の提案で避難所に逃げ込むも、すぐに感染者の襲撃に遭い、唯と真人は真人の両親に庇われながら、避難所を脱出する。

 そこから逃げた先の病院前で、感染者に追われていた"もう一人の親友"秋山アキヤマ サキと再会。

 その直後、聞き覚えのある声が聞こえて...


 -相模原市 赤十字病院前-

「いつになってもお前達をまとめるのは苦労する。」

 私達の目の前にいた感染者数名が左右に避けると、声の主が仮面を外しながら姿を見せた。

「...ユニフィア。」

「こうして話すのは初めてだな。三人共。」

 三人とユニフィアは、約3年前にRoaderというコミュニケーションアプリで、PLAYERSと呼ばれる、当時最大の規模を誇っていたグループの副主と主の間柄で、親友でもあった。

 だが、"ある事件"が発生し、その原因が唯にあると言った咲が唯と喧嘩。

 それによって二人唯と咲の関係が悪化。ほぼ絶縁状態となった。

「やっぱり、お前だったのか。アーフィ。」

「その名前で呼ぶな。真人。」

 当時と変わらない冷たい声を発しながら、真人を睨むユニフィア。

「『ユニフィア』って名前を聞いた時、真っ先にあなたじゃないかって思った。」

「まさか本当にあなたとは思わなかったけど...」

「あんなに優しかったあなたが、何でこんなことしてるの?」

 私は混乱した頭で必死にユニフィアを問い詰めた。

「『何で?』か。」

「放送で言った通り、世界を統一する為だ。」

 ユニフィアの答えに、私は更に質問した。

「じゃあ、何で世界を統一しようとしてるの?」

「お前達の為だ。」

 私の質問に、ユニフィアはすぐさま答えた。

 私には意味が分からなかった。

 もし彼の言葉が本当なら、私達を救う為にお母さんを、真人と咲の両親を、日本全体を巻き込んだ。そしてこれから、世界をも巻き込む。

 そう考えた時、『どうにかして彼を止めなければいけない。』と、そう強く思った。

 その為に、とりあえず彼の真意を探ることにした。

「仮に私達の為だとしても、こんなやり方...嬉しくない。」

「それに、あなたの事だから私達を集めた事にも理由があるんでしょ?」

 ユニフィアはうっすり笑みを浮かべて話しだした。

「あぁ。」

「唯。お前はこの力の詳細を知ってるよな?」

 ユニフィアは黒い炎のようなものを手に浮かべて、私に聞いてきた。

「あなたの他人格タジンカクの、アークの力でしょ。」

「正解だ。」

 ユニフィアは続けて話した。

「俺はこのアークの力があれば、世界を統一できると思っている。」

「この力は無限の可能性を秘めているからな。」

「だがアーク曰く、俺の抱える闇じゃこれ以上進化出来ないらしいんだ。」

「だから、他の人にアークの力を与えて、心に抱える闇で進化させようと思ったんだが...」

「どこに行っても、俺が"求める種"になる奴が居なくてなぁ。」

「だから、悲惨な過去を持ち、希死念慮に苛まれるお前達なら、進化させてくれるんじゃないかと思って、集めさせてもらった。」

 あまりに酷い理由に、『私達を助けるため』という先程の話が嘘のように思えた。

「そして、俺の予想は的中した。」

「お前達はアークムーンの光を受けても、こいつらのようになっていない。」

 ユニフィアは私達を囲んでいる感染者に目を配った。

「アークムーン?」

「あの月のことだ。」

真人が首を傾げると、ユニフィアは黒い雲の隙間から見える赤く染まった月を指差した。

「あの月はアークの力を纏っていて、求める種を選別するためのものだ。」

「そして、空一面に広がっている黒い雲がアークラウド。」

「昼夜問わず、アークムーンの光を地上へ届けるために広げてある。」

「普通の人間なら、この光を浴びたらこいつらのようになる。」

「こいつらはアークの力に、心に抱えている闇が抗えず、飲まれて操られているんだ。」

「そういうやつらを俺は寄生体って呼んでる。」

「簡単にいえば、アークの力と心の闇を天秤にかけた時に、アークの力の方に傾いた奴らだ。」

「逆に心の闇の方に傾いた俺やお前達は通常体。」

「個人差はあるが、アークの力をある程度自由に扱える。」

一通り話を聞いた真人が口を開いた。

「でも、俺達はアークの力を持ってない。」

「そう、だからこうするんだ。」

 人間とは思えない速さで真人との間合いを一気に詰めるユニフィア。そして

「ぐっ...!?」

 さっき手に浮かべていた黒い炎のようなものを、真人の胸にねじ込んだ。

 すると真人は頭を押さえて苦しみ出した。

「あぁぁ...なんだこれ...うあぁぁ...!」

 荒い息遣いをしながら、頭と胸を抑えてその場でのた打ち回る真人。

「何が起きているか分からないだろう?」

「教えてやろう。」

 両手を広げ、真人にねじ込んだ黒い炎を浮かべて、すぐに私と咲にねじ込んだ。

 その瞬間、真人に何が起きたのか分かった。

 ねじ込まれたのは恐らく、意思の無いアークの種。

 私は理解すると共に、両手で頭を抑えて両膝を地面に着けた。

 アークが記憶していると思われる、ユニフィアの記憶や負の感情が、激しい頭痛と共に一気に流れ込んでくる。

『役立たず。』『迷惑なんだよ。』『邪魔。』『嫌い。』

『 産まなきゃよかった。 』『 死ね。 』『 消えろ! 』

【平和】【悪意のない世界】【平等】【滅亡】

 それは、ユニフィアがアークを生み出した原因とも言える『記憶』と【思想】だった。

 私はどんどん増していく頭痛に耐えかねて、その場に倒れこんだ。

 そして、自分の腕が黒く染まっていく様子を見ながら、ユニフィアの声を聞いた。

「ごめんな。」

 私はそれを最後に、気を失った。


「さてと...」

ユニフィアは紫色の炎を手の平に浮かべた。

「ターゲットのアーク化に成功した。ノアに運んでおいてくれ。場所は...」

ユニフィアが仲間に現在地を知らせようとした。その時。

「誰だ!!」

建物の屋上から何者かが飛来し、三人を回収して走り去った。

「何者かにターゲットを奪われた!三人を担ぐ力、あの走力、おそらく通常体だ!」

「至急応援を寄こせ!」

 声を荒げ、そう叫ぶユニフィアは、直後に紫色の炎を消し、仮面を被り直してすぐに後を追った。


Next memory「救う手と守る手」

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