第31話 教会の窮地と王子の野望 ※エリック王子視点
またしても、教会の大神官が俺のもとを訪れてきた。今度は何を訴えるつもりなのだろうか。
追い返してやりたいが、奴らにはまだわずかに利用価値がある。協会との関係が思うように築けていない今、教会との関係を切るのは悪手。もう少しだけ利用してやるつもりだ。そして、完全に要らなくなったら捨てる。そういう考えがあった。
応接室に通された大神官は、俺を前にして泣きそうな顔をしている。
「エリック王子様、大変なのです! 協会が、あの協会が……!」
「協会がどうしたと言うのだ。はっきり言え」
やっぱり面倒だな。そんな気持ちを隠しながら促す。お前は、何が言いたいのか。すると大神官は、おずおずと口を開いた。
「かつては取るに足らないと思っていた協会が、あっという間に力をつけてしまいました。今や我々教会にとって、脅威になっているのです!」
「そうらしいな。話は聞いている」
協会が成長していることは、俺も知っている。民衆の間での評判は上々だそうだ。俺のところにも、協会の実力を褒める報告が数多く届いている。
「特に困るのが、教会から出ていった者たちが活躍していることです! あいつら、教会に居た頃はそんな力なんてなかったはずなのに! 能力がないと思ったから外へ出したのにっ! きっと教会に居た頃は、手を抜いていたんです! せっかく教会で育ててやったというのに、なんて卑怯な奴らなんだ!」
大神官の声は、悔しさに震えていた。ただ、大声で喚く声はやっぱりイライラするな。その怒りを俺に向けるなよ。
「あの恩知らずな人材を、何とか取り戻したいのです。エリック王子様、お力添えをお願いできませんでしょうか」
懇願するような口調。だが、俺には見え見えだ。大神官には、自分たちの力だけでは協会に対抗できないという弱さが滲み出ている。王子である俺の権力を存分に利用しようとしているな。王子である、この俺を。
内心ではイライラが募るが、俺は平静を装って大神官の話に耳を傾けるフリを続ける。早く終わらないか。
「教会と王家は切っても切れない関係です。これからも助けてもらいたいのです! 昔の教会が王家を助けたときのように」
王家は教会に助けられたという歴史がある。だが、それは遥か昔の話。そんな過去を持ち出して助けてくれと言うなんて。助けるのが当然だと思っているような大神官の態度に、堪忍袋の緒が切れそうになった。
俺はもう、お前たちを半ば見限っているというのに。そのことにまるで気付いていないのか。
それを突きつけてやりたい衝動にかられる。だが、俺は必死に感情を抑え、ぐっと口をつぐんだ。
「エリック様?」
「……ああ、わかった。検討しておこう」
「ありがとうございますっ!」
大神官の話を適当に聞き流し、彼を追い返した。
厄介者が去って、部屋に残った俺は静かに考え込む。
これから先、教会を頼りにするのは、やはりダメそうだな。教会の力は、どんどん落ちている。それに比べて、協会の成長具合は素晴らしいものだ。
俺は、協会との関係を優先するべきだと改めて認識した。
そのとき、ふと王国のルールを思い出した。
聖女は王族と結婚する。
そんなルールだ。
協会にもこのルールを適用させて、協会トップを聖女と認めさせる。そうすれば、俺との結婚を義務付けられるかもしれない。
協会との絆を強められる。関係者になり、影響力を得る。そうすれば、協会の力を行使できるかもしれない。そんな考えが浮かんだ。
協会の連中もきっと、王族という大きな権力に関わりたいと考えているはず。向こう側にもメリットのある話。
「……よし」
俺は決意し、側近を呼び寄せた。思いついたから、すぐに行動する。これは上手くいきそうだと感じたから、なるべく早く実行に移すべきだろう。
「国のルールを作り変える。まずは、協会トップを説得しろ」
言われるがままに頷く側近に、俺は続ける。
「すべてが計画通りに運べば、協会のトップと結婚することも可能になる。そうなるように話し合いを進めろ?」
「はっ、かしこまりました」
側近が恭しく礼をして退出する。
「ふっ」
窓の外を見つめながら、俺はゆっくりと微笑んだ。
窮地に立たされた教会に代わる、新しい俺の協力者。これで、協会を俺の手の内に収められるというわけだ。
王の座に近づくための、確かな一歩となるはずだ。
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