第29話 成長する協会、育つ絆
協会への依頼が激増している。協会のことを頼りにしてくれる市民がさらに増えたのだ。
今日も朝から、たくさんの依頼状が届いていた。協会メンバーの担当者が依頼内容を一つ一つ確認しながら、振り分けをしていく。
「こっちは、南区の水道が壊れたっていう依頼。それと、これは」
「あ、ノエラ様。これ、お願いします」
「ん? どれどれ」
担当者が私を呼び止めて、1通の依頼状を差し出してきた。子猫を探してほしいという内容だ。
「ノエラ様にお願いするような仕事じゃないのですが、至急とのことで」
「わかったわ。すぐに行ってくるね」
「お願いします!」
私は他の仕事をするついでに街を駆け巡りながら、子猫の気配を探る。聖女の力を使えば、気配を探るのは簡単。
おそらく、この子だろうという気配を察知。そこへ行ってみると、ちいさな鳴き声が聞こえてきた。路地裏の木箱に、グレーの子猫が1匹。この子ね。
「ああ、良かった。無事だったのね」
子猫を抱き上げて依頼主の家へと急ぐ。玄関先に出てきた少女は、目を輝かせて言った。
「ありがとうございます、お姉ちゃん! ミィが帰ってきて嬉しいな」
「ふふ、もう逃げ出さないようにね」
教会はもちろん、冒険者ギルドもこんなちっぽけな依頼は断ってしまうでしょう。でも協会は、どんな小さな困り事でも真摯に受け止める。それが私たちのやり方。
そんな依頼を無事に達成して、他の仕事も終わらせてから協会に戻った。こうしてあっという間に1日が終わっていく。でも、私たち協会の評判は確実に高まっていた。
以前なら、市民たちは教会に頼ることが主だった。だけど今では、みんな真っ先に協会を頼ってくる。道端で鍛冶屋の親父さんに会えば、こう話しかけられる。
「ノエラちゃんのとこ、仕事が早くて助かるよ。この間も、うちの看板を直してくれてな」
「また、困ったことがあれば依頼を出してね」
八百屋のおばさんからは、野菜をたくさんもらった。
「あんたら、ほんと頑張ってるね。これ、新鮮なキャベツだからたくさん食べな」
「ありがとうございます。いただきます」
評判が評判を呼び、私たちへの信頼はどんどん高まっていく。
そんな中、私はエミリーと一緒に、協会の新入りメンバーの指導にも力を入れていた。
「ほら、両手を胸の前で合わせて。そうよ、気持ちを整えて集中するの」
「は、はい! ノエラ様、こうですね」
私は聖女としての力を存分に発揮し、新入りメンバーたちに基礎を叩き込んでいった。彼女たちも育って、依頼を楽にこなせるように。
「みんな、集中力が大事よ。精神を統一して、魔力を手の中に集めるの」
「こ、こんな感じでしょうか?」
「そうそう。その調子よ」
みんなの手から、かすかに光が漏れる。いい調子だ。
「次は、これを覚えて。こうやって魔力を込めると……」
私が手本を見せながら解説する。すると、みんなも真似をする。意欲も高く、どんどん成長していく。
「ノエラ様、私にもできました! ほら、ちゃんと光ってます!」
「えぇ、良くできました。このペースなら、すぐ一人前になれそうね」
「頑張ります!」
新入りたちも、みるみる腕を上げていく。この中には、私を超える才能を持つ者もいるかもしれない。とても楽しみ。
それに、依頼をこなしていく中で、自然とメンバー同士の絆も深まっていく。
「ねえねえ、先輩。あの魔法の詠唱、教えてくださいよ」
「ああ、あれか。コツは息を止めることなんだ。ほら、こうやって……」
協会メンバーの先輩が後輩に魔法を教える姿をよく見かける。私も嬉しくなって、じっくり見てしまう。教会に居た頃は、ああやって教え合う姿を見るのは稀だった。あれに比べたら、良い組織に育ってくれている。
「あ、ノエラ様。この間は的確なアドバイスをありがとうございました。おかげで、村の人たちを救えました」
「ううん、それはあなた達が頑張ったおかげよ。これからも、みんなで協力していきましょう」
「「はい!」」
活動を経て、協会の仲間たちの心の距離もぐっと近づいていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます