第7話 新しい生活

「んっ」


 目が覚めた。とても気持ちのいい目覚めだった。背を伸ばしながらベッドから降りて、カーテンを開ける。外は晴れていて、窓から眩しい朝日が差し込んでいた。


 神殿に居た頃とは全く違う、新鮮な朝の時間。あそこに居た時はお世話係が居て、1人にはなれなかったからね。


 しばらく朝の景色を楽しんでから、身支度を整える。お腹が空いていたので、朝食の準備をしましょう。これも、私にとっては新鮮な行動。神殿に居た時は、他の人に準備してもらっていた。


 そんなことをしている暇があったら、聖女の仕事を処理しろと命じられていたわ。あれで、朝から憂鬱だった。だけど今は、何もない。


 まだ誰も、起きてはいないみたいね。昨晩は、私だけ先に休ませてもらったから。もしかしたら、あの後に私抜きで色々と話し合いをしていたのかもしれない。


 後で、話し合いがあったのか聞いてみましょう。


 食糧庫を確認してみると十分な食材があったので、手早く朝食を作ることが出来そうだ。


「うん。上手くいった。美味しそうな朝食の完成」


 今まで料理をする機会はなかったけど、知識はある。チャレンジしてみたら意外と手際よく調理出来たと思う。みんなの分の朝食も用意して。


「ノエラ様ッ!?」

「おはよう、エミリー」

「あ、えっと。おはようございます。これ、全部ノエラ様がお作りになったのですか?」


 起きてきたエミリーに朝の挨拶する。彼女は、テーブルの上に置いた完成した料理を見て驚いていた。


 もしかしたら、彼女も朝食を作ってくれようとしていたのかも。私が先に用意していた。


「ええ、そうよ。簡単なものしか出来なかったけど」

「いいえ、とても美味しそうです!」


 目を輝かせて、私の作った料理を見つめるエミリー。彼女の反応を見て、見た目は大丈夫そうだと安心する。味にも自信があるけれど、どうでしょう。他の人の評価を知りたい。食べてもらいたい。


「おはようございます、ノエラ様」

「おはよう、ナディーヌ」


 次に起きてきたのはナディーヌ。今朝も、いつもの鋭い雰囲気を纏っている。そんな彼女も、私の作った料理に驚いているようだ。


「私たちの分まで、用意してくださったのですか?」

「もちろん、これから仲間として協力していかないといけないのだから。一緒に食べましょう」

「ありがとうございます」


 これから私たちは仲間だから。だから、なるべく同じ立場で協力しながら生活していきたい。聖女と騎士の関係ではなく、ノエラとナディーヌとして。




 そして、最後に起きてきたのがジャメル。彼は珍しく、気の抜けたような寝ぼけた表情。そんなジャメルの表情を見るのは初めてね。神殿に居た頃は、いつも険しくて難しそうな表情をしていたから。


「聖女ノエラ。おはよう、ございます」

「おはよう、ジャメル。さぁ、席に座ってちょうだい」

「……はい」


 表情と同じく、いつもより鈍い返事のジャメル。彼も席に座った。


 それから私たちは、一緒に食事をする。彼らと一緒に食事するのは初めての事だ。弟子のエミリーとは何度か一緒に食べたことがある。けれども、大神官のジャメルや騎士のナディーヌとは同じ席に座る機会がこれまでなかった。聖女という立場だったから、許されなかった。


 でも今の私は、聖女じゃない。こうやって、仲間と一緒に食事を楽しむことが出来る。


 今日は朝から新鮮なことばかり。そんな新鮮さを感じながら、私はみんなと食事を楽しむ。これから先は、この光景が当たり前になっていくのだろうか。


 そうなってくれたら、嬉しいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る