第69話:レオ VS カンガルー

 ――ドゴオオオオンッ!


 レオの右前足の振り下ろしと、カンガルーの右ストレートがぶつかり合う。あまりの強さに衝撃波が周囲の壁や天井を震わせた。

 パラパラと小さな瓦礫が落ちてくる中、俺たちは視線を逸らすことなくレオとカンガルーの一騎打ちを見つめている。


「……これは、小型魔獣同士の戦いなのか?」

「……レオは分かっていたけど、あの魔獣もすごくない?」

「……いやいや、普通にすごいから! あれ、俺たちじゃ勝てないだろ!」


 二匹の戦いを前に、ガズンさんたちは驚愕を隠せないでいる。オルフェンさんに至っては、はっきりと「勝てない」と言ってしまっているほどだ。

 だけど、この戦いを目の当たりにしたら仕方ないかもしれない。

 戦いに関しては素人の俺だけど、二匹の戦いが今まで見てきた中でも、別の次元にあることはなんとなく分かる気がする。

 それほどに激しく、力強い戦いが繰り広げられているのだ。


「ガルアアアアッ!」

『ギルルララアアアアッ!』


 お互いの肉体がぶつかり合うたびに衝撃波が広がり、パラパラと瓦礫が落ちているので、俺は洞窟が崩壊しないのかという不安を抱いてきた。


「……この洞窟、大丈夫ですかね?」

「……分からん」

「……ですよね~」


 うーん、これは困った。

 レオならすぐに倒してくれると思っていただけに、カンガルーがこれだけ強いのは予想外だ。

 ルナが手を貸せばすぐに終わるんだろうけど、それだとカンガルーを従魔にすることはできないだろう。

 無理やり従わせることもできるとは思うけど……それは俺がしたくなかった。

 魔獣とはいえ、従魔になれば一緒に暮らしていく家族になるからだ。

 ……俺は、ブリード家のように、従魔を道具として扱いたくはなかった。


「ガルアアアアッ!」


 俺の思いが通じたのか、レオは俺から魔力を吸収し始めた。

 しかし、ギガントベアと戦った時とは違い、巨大化することはなく、小さな体に膨大な魔力を蓄えているように感じられた。


『ギルル?』

「ガルルゥゥ…………ガルアッ!」

『ギラ!?』


 俺の視界から、レオの姿が掻き消えた。

 直後、カンガルーからも驚きの鳴き声が聞こえてきたかと思えば、その後ろの壁が大きく爆ぜた。


『ギララ!?』


 驚きのまま振り返ったカンガルーだったが、その時にはすでに目の前の地面が壁と同じように爆ぜた。そして――


「ガルアアアアッ!!」

『ギラグラアアアアァァッ!?』


 レオの高速頭突きがカンガルーの腹部にめり込み、カンガルーはそのまま吹き飛ばされた。

 ものすごい勢いで背中から壁に叩きつけられると、壁が大きく崩れてしまい、地面に倒れたカンガルーを埋めてしまった。


「あぁっ!? た、助けなきゃ!!」


 このあと従魔にする予定のカンガルーである、生き埋めになってそのまま死んでしまったら大変だ!


「ガズンさん、行きましょう!」

「え? あ、あぁ、分かった!」


 俺が声を掛けて駆け出すと、ガズンさんたちは困惑声を漏らしながらもついてきてくれた。

 ……まあ、そうか。魔獣を助けるだなんて、普通はしないもんな。

 だけど、俺からすれば大事な家族になるかもしれない相手なのだから、俺の行動も当然だと思ってもらいたい。


「ミーミー!」


 そこへルナが駆け出すと、鋭く爪を振り抜いて瓦礫を一瞬のうちに細切れにしてしまった。


「ル、ルナ!?」


 それは大丈夫なのかと、カンガルーは無事なのかと心配になって声を上げてしまったが、瓦礫があった場所に目を向けると、そこにはルナの爪では傷一つついていないカンガルーの姿があった。

 とはいえ、先ほどまでレオと激闘を繰り広げていたのだから、当然無傷というわけにはいかない。


「大丈夫か!」

『……ギ、ギルル、ララァ』

「早く契約してくれ! そしたら少しは回復するはずだ!」

『…………ギララァァ』


 弱々しくも右腕を上げてくれたカンガルーの手を握り、俺は従魔契約を行った。


「……ギ、ギララ? ギッルルアアアアッ!!」

「うわあっ!?」


 従魔契約をして俺の魔力を取り入れたからか、先ほどまで倒れていたカンガルーは元気よく起き上がると、そのままの勢いで飛び上がった。


「ガルア! ガルララ!」

「ギラ!? ……ギ、ギララ?」

「え? あ、あぁ、大丈夫だよ」


 俺が驚いたのを見たレオがカンガルーに注意すると、カンガルーはハッとした表情になって頭を下げてきた。


「ガウ! ガウララ!」

「ギララ! ギルララ!」


 ……な、なんだろう、この二匹。レオが注意をして、カンガルーが何度も頭を下げながら「はい、はい」と返事をしている。

 先輩後輩の関係みたいなやつか?


「ま、まあ、レオ? まだ従魔契約したばかりだし、おいおいな?」

「ガウ? ……ガウガウ」


 仕方ないなぁ、みたいな感じで首を振るの、なんか面白いんですが。


「ギララ! ギルギララ!」

「ガウア? ……ガウガウ!」

「ミーミー?」

「ギルルララ!」

「ミミー!」


 これ、先輩後輩というよりかは、師弟みたいな関係せいかも?

 だって、カンガルーがレオのことを『師匠』、ルナのことを『姉御』と呼んでいるからだ。


「ギララ! ギルララ!」

「え? 名前を付けてくれって?」

「ギルア!」


 名前かぁ……従魔になったことで確認できたんだけど、このカンガルー……種族ではなく、ネームドと出てきた。

 名前はブレイクチャンピオン……破壊の優勝者? めちゃくちゃ怖いんだが?


「……ギラ?」


 とはいえ、小さいカンガルーがコテンと首を傾げている姿はとても可愛い。

 ならば当然だが、名前も真剣に考えなければならないよね。

 うーん……カンガルー……ブレイクチャンピオン……どっちから名前を取ろうかなぁ。


「…………ガルオンってどうだ?」

「ギララ? ……ギッルラー!!」


 お、どうやら喜んでくれたようだ。


「これからよろしくな、ガルオン!」

「ギルラー!」

「ガウガウ!」

「ミーミー!」

「ギラッ!!」


 ……俺への返事よりも、レオとルナへの返事の方が切れがいいのは、聞かなかったことにしようかな、うん。

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