第70話:魔の森の異変

「そういえば、ガルオン。お前が通ってきた洞窟の奥はどうなっているんだ?」


 俺たちはリディアル側の方から探索を始めており、その奥からガルオンはやってきた。

 ということは、ガルオンはこの先に何があるのかを知っているということになる。


「ギルア? ギルル、ギルララララ!」

「えぇっ!? そうなのか!!」

「ギルラ!」


 ……嘘だろ、マジかよ! これはさすがに行くしかないだろう!


「どうしたんだ、リドル殿?」

「私たちにも分かるように説明してよー」

「そうだぜ、リドル!」


 おっと、そうだった。ガルオンの言葉は俺にしか分からないんだったな。


「この先には、海が広がる場所があるそうなんですよ!」

「「「……海~?」」」


 ……あ、あれ? なんだろう、あまり良い反応じゃない気がするんだが?


「海ってあれか? 塩っ辛い、でっかい湖ってやつだろ?」

「あんなの、意味ないよねー」

「実際に見たことはないが、そう聞いているな」

「えぇっ!? ……そっか、そんな認識なんですね」


 まさか塩っ辛い、でかい湖と言われるなんて……海もそんなこと、考えたことがないだろうな。


「海にはとても美味しい食材があるんです! 食材の宝庫なんですよ!」

「魚だろう? だけどあれって、そこまで美味いって聞いたことがないんだよなぁ」

「私もー。だからわざわざ食べに行こうとも思わなかったんだよねー」

「俺もそうだな。どうせ食べるなら、肉の方が食べ応えもあるからな」

「……そ、そんな」


 これはいずれ、洞窟の奥へと向かい、新鮮な海の幸を手に入れて、ガズンさんたちにごちそうする必要がありそうだな。


「それはそうと……いったん戻るか?」

「リドルに任せるぜ」

「私もー」

「俺が決めてもいいんですか?」


 俺に選択権が与えられたことで、思わず聞き返してしまう。


「こう言ってはなんだが、俺たちの中で一番体力がないのはリドル殿だろう。ならば、そちらに合わせるのが当然だと思ってな」

「なるほど」


 そう言われてみると、体が少々怠い気がしてきた。

 ここまでぶっ通しで動き続けてきたというのもあるだろうけど、一番はガルオンと従魔契約をしたことかもしれない。

 ガルオンがネームド魔獣だったからだろうか、契約時にごそっと魔力が抜き取られた感覚があったのだ。


「……一度、戻ってもいいですか?」


 ここで無理をして倒れてしまったら、それこそガズンさんたちに迷惑を掛けてしまう。

 そうならないためにも、今回は一度戻ることにした。……海は気になるけど。


「分かった。ならばさっそく戻るとしよう」

「珍しい鉱石とかはなかったねー」

「まあ、ミスリルや他の鉱石だけでも相当だけどな」

「「確かに」」


 ガズンさんたちからすればそうなのかもしれないけど、俺にとってはガルオンと出会えたことが何よりの成果である。

 小さくて、可愛くて、強い従魔なんて、なかなか出会えないだろうからね。


「戻ろうか。レオ、ルナ、ガルオン」

「ガウガウ!」

「ミーミー!」

「ギルララ!」


 こうして俺たちは、来た道を引き返していった。

 途中、ミニゴレとゴレミとも合流して、俺たちは洞窟を出た。しかし――


「ガルルルルゥゥ」

「ミイイィィィィ」

「ど、どうしたんだ、レオ、ルナ?」


 洞窟を出た直後から、レオとルナが唸り声を上げ始めた。


「……ギルルララァァ」

「え? 何か知っているのか、ガルオン?」


 直後、ガルオンが「来たか」という言葉を口にした。


「ギルラ、ギルララ、ギルララルルラ」

「ものすごく大きな気配が、こっちに迫ってきているだって!?」


 おいおい、嘘だろ? ものすごく大きな気配って、いったい何なんだよ!


「ガ、ガズンさん、分かりますか?」

「……いや、俺には感じられん。オルフェン、どうだ?」

「俺にも分からないな。ってことは、魔獣にしか分からない気配なのか、それともレオたちが俺よりも遠くの気配を感じ取れるってことだろうな」

「ねえ、リドル君。これって、大急ぎでリディアルに戻った方がいいんじゃないの?」


 最後にミシャさんがそう口にすると、俺はすぐに頷いた。

 だが、全員でそのまま戻るわけにはいかない。


「俺はレオとルナと一緒に、グースとゴンコを迎えに行きます。ガズンさんたちは、ミニゴレとゴレミ、ガルオンと一緒にリディアルに戻っていてください!」

「分かった。まだ遠いのかもしれないが、気をつけるんだぞ」

「はい!」


 洞窟の入り口でガズンさんたちと別れた俺は、レオとルナと一緒に駆け出した。

 向かう先はグースの縄張りである花畑と、ゴンコの縄張りである肥料を作ってくれている場所だ。

 最初に到着した先は花畑だったのだが、そこにはグースだけでなく、何故かゴンコも一緒にいてくれた。


「グース! ゴンコ!」

「モグ!!」

「ギギ!!」


 俺が声を掛けると、グースとゴンコはホッとしたような、嬉しそうな声で駆け寄ってきてくれた。


「もしかして、お前たちも気配を感じて一緒にいたのか?」

「モグモグ!」

「ギギギギ!」


 その通りのようだ。

 どうやら本当に、マズい事態が起きているのかもしれない。


「俺たちもリディアルに急ごう。グースとゴンコもいいな?」

「モグ!」

「ギギ!」


 二匹と合流した俺たちは、大急ぎでリディアルに向かい駆け出した。

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