第68話:武闘家な小型魔獣
『……ギルウウゥゥゥゥ』
唸り声を上げている小型魔獣は、見た目は完全なるカンガルーだ。カンガルーの小型バージョンだ。
あのモフモフを思いっきりモフモフしたいなと考えながらも、一ヶ所だけものすごーく気になる部分がある。
「……頭に、はちまき?」
「……魔獣なのに?」
「……どういうこと?」
そう、はちまきを頭に巻いているのだ。
そりゃあガズンさんも、オルフェンさんも、ミシャさんも困惑するよな。俺だってそうだもの。
レオとルナは……普通だ。魔獣には魔獣にしか分からないことがあるのかもしれないな。
「はっ! そ、それよりも! なあ、お前! 俺の従魔に――」
『ギルアアアアッ!』
従魔になってほしいと声を掛けようとしたのだが、カンガルーは威嚇の鳴き声を上げてきた。
今まではすんなりと従魔契約をすることができたのだが、今回はそうはいかないようだ。
「ガウ! ガウガウ!」
「ミーミミー!」
『ギルル! ギルルウウゥゥゥゥ!!』
レオとルナが説得を試みても、カンガルーは威嚇するばかりで応じてくれない。
このまま戦闘になるかと思ったのだろう、ガズンさんたちは臨戦態勢を整えていた。
『ギル! ギルルルル!』
「……ガウ?」
『ギルル! ギルールルー!!』
「……ミミミー?」
……ん? なんだろう、急にレオとルナが困惑し始めたんだが?
「どうしたんだ、レオ、ルナ?」
俺が問い掛けると、二匹はカンガルーから視線を外してこちらを見た。
「ガウガウ、ガウー」
「ミミーミミミー」
「え? 一対一で戦えだって?」
『ギルルララ!』
このカンガルー、腕組みしながらその通りだと言わんばかりに胸を張ってやがる。
「……そ、それじゃあ、一対一で戦って、俺たちが勝ったら従魔になってくれるか?」
『ギルラ!』
屈伸をしながら、めっちゃ頷いてるわ。
もしかしてこのカンガルー、戦闘狂か?
「一対一か。それなら、誰が戦うんだ?」
「俺たちの中で言えば、ガズンじゃね?」
「それとも、レオかルナのどちらかとか?」
まあ、そうなるよな。
俺としてはレオとルナのどちらかに任せる方がいいと思っている。
実力は言わずもがな、二匹には思いっきり活躍してもらおうと言ったばかりだからだ。
「やれるか、レオ、ルナ?」
「ガウガウ!」
「ミーミー!」
やる気満々だな。
となると、あとはどちらに戦ってもらうかなんだが……。
「ガウ! ガウガウ! ガウガウー!」
「レオが戦いたいって?」
「ガウ!」
どうやら相当暴れたいようだけど、ルナはいいのだろうか。
「ルナはそれでもいいのか?」
「ミーミミー」
仕方がないからと、言いたそうだ。
でもまあ、ルナも納得しているなら問題ないか。
「分かった。ガズンさんたちもいいですか?」
「こちらも問題はない」
ルナだけでなく、ガズンさんたちからも許可を得られたことで、俺はレオに任せることにした。
「ガウガウ!」
『ギルララ!』
レオが前に出ながら声を掛けると、カンガルーも大きく頷いてからシャドーボクシングをしつつ前に出てきた。
……これ、魔獣同士の戦いだよな? なんていうか、正式な試合みたいになっていないか?
「あの、ガズンさん? 魔獣同士の戦いって、こんな感じなんですか?」
「そんなわけないだろう。このような光景は、俺も初めて見た」
「ですよねー」
ぽかんとした表情で答えてくれたガズンさんに、俺も呆れたように返事をした。
その間にもレオとカンガルーは、一定の距離を保ったまま比較的広い空間の中央で相対する。
「ガウ! ガウガウ!」
「え、開始の合図をしてくれって?」
「ガウ!」
『ギルラ!』
……これ、マジで試合じゃん。
まあ、レオが言うんだから、俺がやるしかないか。
「そ、それじゃあ行くぞ? 試合――始め!」
始めの合図とともに、レオとカンガルーが同時に駆け出した。
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