第31話:集まる意見

「なるほど、そういうことだったか。もちろん、許可するよ」


 説明を聞いたナイルさんは、即答で許可を出してくれた。


「ありがとうございます、ナイルさん!」

「さすがはあなただわ」

「やったね、リドルさん!」


 ナイルさんの答えに、ルミナさんとティナさんが歓喜の声をあげた。


「なんだ、私が許可を出さないと思っていたのかい?」


 二人の喜びようを見たナイルさんは、苦笑しながらそう口にした。


「しかし、中央広場から子供たちの姿が見えなくなるのは勿体ないな」

「どういうことですか?」


 中央広場では宴を行ったりもする。

 さすがにそこに公園を造るのはダメかと思い、造る場所は中央広場以外だと伝えたのだが、マズかっただろうか?


「いやね、あそこは私の上の世代が一休みする場所になっていて、子供たちが元気よく遊んでいる姿を見るのを楽しみにしている人もいたんだ。だから、そんな子どもたちの姿が見えなくなるのは、寂しいなと思ってしまってね」

「そうだったんですね……」


 そういう楽しみがあったとは知らなかった俺は、思案顔になってしまう。

 子供たちのためだと思っていた行動が、お爺さんやお婆さんたちの楽しみを奪ってしまう結果になるのなら、考え直す必要がある。


「……ねえ、あなた。公園を造るなら、やっぱり中央広場の方がいいんじゃないかしら?」

「うむ、私もそう思っていたんだ」


 するとルミナさんが中央広場への公園建設を提案し、ナイルさんも頷いている。


「でも、いいんですか? 宴を行ったり、みんなが集まったりする場所ですよね?」

「そこは大人がどうにかすればいいだけの話でしょう?」

「その通りだ。私たちの上の世代、下の世代の楽しみを奪ってまで、中央広場を残す必要もないだろう」

「いいの! やったー! うふふ、実は私も中央広場に公園があったらいいなー、って思ってたんだー!」


 ……みんな、いい人たちだな。

 自分たちの損得ではなく、周りが楽しめるような行動を心得ている。

 みんながそれでいいと言うのであれば、中央広場に公園を造るというのが一番だと思い始めた。


「だけど、そうすると他の人たちの意見も重要になってきますね」

「そうだね。こればっかりは、私たちだけで決めていいことではない」

「それなら私たちで、村の人たちに意見を聞いてきましょう!」

「はいはーい! 私は友達に聞いてくるー!」


 そこから話はトントン拍子に進み、ナイルさんがコーワンさんや男性陣、それにお爺さんやお婆さん世代に声を掛け、ルミナさんが女性陣に、そしてティナさんが子供たちに意見を聞くことになった。


「あれ? そうなると、俺は何をしましょうか?」


 すぐにやることがなくなってしまったため、俺は思わず口に出してしまった。


「もしよかったら、ティナと一緒に、子供たちにどんな公園を造ったらいいかを聞いてみてくれないか?」

「子供たちに? ……なるほど、確かに大事な役目ですね!」


 俺の見た目は間違いなく子供だけれど、思考は前世の大人のままになっている。

 そのため、子供目線に立った公園造りができるかどうか分からない。

 子供たちに意見を聞ければ、きっと最高に子供たちのためになる公園を造ることができるに違いない。


「分かりました! 行こう、ティナさん!」

「うん!」

「私たちも動こうか、ルミナ」

「そうですね、あなた」


 こうして俺たちは、それぞれが担当の世代への聞き込みを行うべく、屋敷をあとにした。


 俺とティナさんは、屋敷を出てすぐに中央広場にやってきた。

 レオとルナと別れた場所であり、戻ってきていないことを考えると、まだ子供たちと遊んでいると思ったからだ。


「あ! いたよ! おーい!」


 するとティナさんが最初にレオとルナ、子供たちを見つけて声をあげると、そのまま駆け出していく。

 俺も駆け出そうとしたのだが、その前に視界にはベンチに腰掛け、柔和な笑みを浮かべているお爺さんやお婆さんの姿が映る。

 ……ナイルさんが言っていたのは、この風景だったんだな。


「ガウガウ!」

「ミーミー!」

「うわっ! ……はは、楽しんでるか。レオ、ルナ」


 俺の姿を見つけたからだろうか、レオとルナが勢いよく飛び込んできた。

 尻もちをつきそうになったがギリギリで耐え、俺は笑みを浮かべながら二匹を撫でまわす。


「リドルさーん! こっち、こっちー!」

「分かった! 今行くよ!」


 ティナさんに手招きされ、俺はレオとルナを地面に下ろすと、一緒になって駆け寄っていく。


「どうしたの、リドルさん!」

「もうおわりなの?」

「まだまだ遊んでいてもいいよ」

「「本当!」」

「でも、その前にみんなに話を聞きたいんだ」


 まだ遊べると聞いた子供たちは嬉しそうに声をあげたが、そこで俺は公園の話を聞いてみた。


「実は、子供たちがたくさん遊べる公園を造ろうと思っているんだ」

「そうなの!」

「そうだよ。それで、中央広場に造るか、それ以外の場所に造るか、みんなの意見も聞きたいなって思ったんだ」


 まずは造る場所について、子供たちの意見を聞いてみた。


「ここがいい!」

「おじいちゃんやおばあちゃんもいるから! おはなしするのもたのしいんだよ!」

「そっか。ふふ、やっぱりそうだよね」


 子供たちの意見はとても素直なもので、それがお爺さんやお婆さんとの交流にも繋がっていると知り、嬉しくなってしまう。


「そうだよね、ありがとう。それじゃあ今度は、どんな遊具があったら遊びたいかな?」


 子供たちの意見は中央広場に公園を造るだとして、今度は遊具について聞いてみた。だが――


「んー……わかんない」

「おいかけっこ、たのしいもんね」


 ……そうか。そもそも、子供たちは村から出たことがないわけで、遊具と聞かれてもどんなものがあるのか分からないのだ。

 そうなると、大人が子供の目線に立って考えなければならないかもしれないな。


「どうしたんだい、リドルさん?」


 俺たちが子供たちに意見を聞いていると、ベンチに座っていたお爺さんやお婆さんが集まってきてくれた。

 これはちょうどいいと、俺はこの場にいる人たちにも意見を聞くことにした。


「ナイルさんから同じような質問をされると思うんですが――」


 そう前置きしたうえで、公園を造る場所についてと、どんな遊具があったら子供たちが喜びそうかを聞いてみた。


「場所はここにあってくれた方が、わしらはいいかねぇ」

「うんうん。子供たちが元気よく遊んでいる姿は、元気を貰えるのさ」

「遊具はみんなで遊べるようなものがいいと思うよ。一人で遊ぶのは寂しいからねぇ」


 お爺さんやお婆さんたちからもたくさんの意見を聞けた俺は、それらを記憶に叩き込んでいく。


「ねえねえ、リドルさん」


 すると今度は子供の一人が声を掛けてきた。


「どうしたんだい?」

「わたし、レオやルナといっしょにあそべるゆうぐがほしい!」

「あ! わたしも! みんなといっしょがいいな!」

「ガウガウ!」

「ミーミー!」


 従魔たちも一緒に遊べる遊具か。

 ……それは、素晴らしい意見じゃないか!


「そうだね! ありがとう、みんな! 最高の意見が聞けたよ!」


 こうして俺は、ティナさんと共に他の子供たちにも声を掛け、たくさんの意見を集めて回った。

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