第30話:子供たちのために

 アニータさんが引っ越してきてから、七日が経とうとしている。

 最初の頃は頻繁に顔を出し、困っていることがないかと声を掛けていたのだが、最近になると村の女性陣が顔を出しており、しっかりとコミュニケーションも取れているようだ。

 ティナさんも毎日のように顔を出しているので、俺はお役御免でいいだろう。

 まあ、女性の屋敷に何度も顔を出すのも気が引けるからね。


「というわけで、今日は散歩をしたいと思います!」

「ガウガウ!」

「ミーミー!」


 散歩を目的として村の中を歩くのは久しぶりだ。

 レオとルナも散歩と聞いて喜んでいるので、まだまだ見捨てられていないらしい。

 ……ここ最近は、レオとルナのために何かをするってことができたなかったからなぁ。しばらくは従魔たちのために何かをしてやりたい。


「時間があれば、グースやゴンコ、ミニゴレたちのところに顔を出してもいいかもしれないな」


 最近は村の中での行動が多かったので、みんなと顔を合わせられていない。

 こっちで生活をしてもいいのだが、どうにも昔からの寝床がお気に入りのようで、困るようなことがなければそこで暮らしたいというのが、みんなの主張だった。

 それで俺たちが困ることもないし、必要なことがあればこちらから会いに行けるので、特に気にしていなかった。

 そんなことを考えながら歩いていると、村の子供たちが声を掛けてきた。


「あ! レオとルナだー!」

「ガウ!」

「ミー!」

「きょうもかわいいねー」


 うんうん、そうだろう。レオとルナはいつでも、どこでも可愛いのだ。


「ガウー?」

「ミー?」

「ん? みんなと遊びたいって?」

「「え! いいの!」」


 レオとルナの言葉を俺がそのまま口にすると、子供たちはキラキラした瞳でこちらを見てきた。

 散歩の予定だったが、レオとルナが遊びたいと思っているなら、その気持ちを優先させるべきだろう。


「いいよ。行っておいで、レオ、ルナ」

「ガウ! ガウガウー!」

「ミーミミー!」

「「ありがとう! りょうしゅさま!」」


 レオとルナからも、そして子供たちからもお礼を言われた俺は、二匹を見送った。

 向かった先は村の中央にある広場で、宴を行った場所もそこだ。

 普段はベンチがいくつか置かれており、村のみんなの憩いの場のようになっている。


「……だけど、子供たちが遊ぶには、物足りない気もするんだよなぁ」


 中央広場にはベンチこそあれど、子供たちが遊べるような遊具はない。というか、ベンチ以外は何もないのだ。

 宴などを行う場所なので、中央広場に遊具を置くわけにはいかないけど、別の場所に子供たちが遊べるようなものを置いてもいいんじゃないかと思い始めてしまう。


「……公園、必要じゃないか?」


 今までは大人の目線に立って改善を行ってきたが、子供の目線に立ってみると、村の中に娯楽がほとんどないことに気がついた。

 このあと、本当なら従魔たちのところへ顔を出す予定だったのだが、公園設置がより優先されるべきかもしれないと思い、俺は踵を返してナイルさんの屋敷へ向かう。

 それに、公園を造るってなれば、間違いなくみんなのところに行くことになるんだ。

 仕事のついでで申し訳ないけど、それで許してもらおう。今度はちゃんと会いに行くからな。

 そうしてナイルさんの屋敷に到着し、俺は声を掛ける。


「すみませーん! リドルですけど、ナイルさんはいらっしゃいますかー!」


 しばらくして、中から足音が聞こえてきた。


「あらあら、ごめんなさいね、リドル君。夫は今、コーワンさんのところに行っているのよ」

「リドルさん! こんにちは!」

「こんにちは。ルミナさん、ティナさん。タイミングが悪かったですね」


 ナイルさんは外出しており、ルミナさんが申し訳なさそうに教えてくれた。


「もしかして、また何か村のための改善案を思いついたんですか?」


 そして、ルミナさんはニコリと笑いながらそう口にした。


「村のためと言いますか、村の子供たちのためになるかも? って感じの改善案ですね」

「え! 私たちのため! 聞きたい! ねえ、お母さん! 聞きたいー!」


 俺が子供たちと言ったからか、ティナさんがものすごい食いつきを見せた。


「そうねぇ、私も気になるわ。夫もすぐ戻ってくると思いますし、リドル君が良ければ先に話を聞かせてくれないかしら?」

「いいでしょ、リドルさん!」


 ルミナさんの洋服を引っ張りながら聞いてくるティナさんを見て、これは話をしないと納得してくれそうにないと思った俺は、苦笑しながら頷いた。


「分かったよ。もしもナイルさんから許可が出たら、ティナさんにも聞きたいことが出るだろうしね」

「やったー!」

「それじゃあ中に入ってちょうだい。すぐにお茶を持ってくるわね」

「ありがとうございます。それじゃあ、失礼します」


 大喜びのティナさんに手を引かれながら屋敷にあがり、そのままリビングの椅子に腰掛ける。

 隣にはティナさんが腰掛け、お茶を運んできてくれたルミナさんが向かい側に座った。


「実は今回持ってきた改善案は、子供たちのために公園を造ったらどうかって話をしに来たんです」


 そこで俺は、子供たちが体を動かし、楽しく遊べるような公園を造りたいという話をしていく。

 子どもたちは今のままでも満足しているかもしれないが、これもやはり、慣れかもしれない。

 それに、今のうちから体をたくさん動かしていれば、将来的にも運動能力が高くなるのではないかと、勝手に期待しているというのもあったりする。

 今を改善するのはもちろんだが、子供たちが大きくなった頃のことを考えた、未来に向けての改善があってもいいんじゃないかと思ったのだ。


「公園! なんだか面白そう!」

「えぇ、そうね! 私もとってもいいと思うわ!」


 すると、ティナさんとルミナさんからの反応はとてもよく、これはナイルさんを説得するのにも助けになるとホッと胸を撫で下ろす。


「ただいまー。おや、来ていたんだね、リドル君」


 そこへナイルさんが帰ってきた。


「お邪魔しています、ナイルさん。実は相談があって――どわっ!?」

「お父さん! 公園、造ろうよ!」

「子供たちのためにも必要だわ!」

「え、いや、おい! ど、どういうことなんだい、これは!?」


 俺が説明する前に、ティナさんとルミナさんがナイルさんへ詰め寄って許可を求めていた。

 ティナさんは分かるけど……ルミナさんまで?

 そんなことを考えながらも、このままではナイルさんが可哀そうだと思い、俺は改めてナイルさんにも公園造りについてを説明していった。

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