第29話:アニータの屋敷と歓迎会

 それからの話はトントン拍子に進んでいった。

 アニータさんの屋敷は、俺の屋敷の隣に建てられることになった。

 俺が領主として魔導具の開発を依頼する際、それがやりやすいようにという配慮……ということなのだが、本当はナイルさんの屋敷も近く、すぐにティナさんに会えるから、というのが本当の理由な気がする。

 アニータさんにとって、ティナさんの存在は本当に大きかったのだろう。

 だからこそ彼女のことを天使だと口にして、可愛がっていたに違いない。

 それをティナさんが嫌がっていれば話は別だが、特に気にしている様子もなかったので、屋敷の場所はすぐに決定した。

 ただ、実際に屋敷を建てるとなった時が大変だった。特に、コーワンさんが。


「間取りはこんな感じでお願いします! 特にこちらの部屋の壁は頑丈に! 魔導具の開発に使用する部屋なので! 後々、こちらの部屋は喚起がしっかりとできるように! 素材の保管庫にするので!」

「お、おぉ……おぉ?」


 研究者だからだろうか、こだわりが非常に強かったのだ。

 家を建てる時にはアニータさんも現場入りしており、あれやこれやとコーワンさんとミニゴレたちに指示まで出していた。

 あれはもう、現場監督だよね、うん。


「リ、リドル! 注文が多すぎるぞ! なんとかしろ!」

「えぇ! お、俺ですか!?」


 あまりにも注文や指示が頻発し、ついにコーワンさんから助けを求められるまでになってしまった。

 とはいえ、俺は建築に関しては素人だ。助けるも何も、口を挟むことすら難しい。

 普通の人であれば妥協案を出せないかと説得できるが、研究者であるアニータさんには言い難い。


「うーん…………あ」


 しばらく思案したあと、俺はアニータさんに声を掛けた。


「ねえ、アニータさん。簡易小屋でも開発をしたり、素材を保管していたんですか?」

「もちろんです! 私の魔法鞄はまだまだ研究途中で、容量もそこまで大きくないからね!」

「それであれば、簡易小屋の造りを見本としてコーワンさんに見てもらった方が、分かりやすいと思いませんか?」

「あぁ! なるほど、その手があったわね!」


 俺の提案にアニータさんはポンと両手を叩いた。


「……な、なんだ? その、簡易小屋ってのは?」


 簡易小屋を知らないコーワンさんがそう口にしたので、見てもらった方が早いと思い、そのままアニータさんへお願いしていく。


「こっちのスペースが空いているので、簡易小屋を出してもらえますか?」

「了解よ! すみませーん! ちょっと離れててくださーい!」


 コーワンさんや手伝いに来ていた男手たちが、なんだなんだと声をあげながら離れていく。

 そこへアニータさんが魔法鞄から取り出したミニチュア化している簡易小屋を置くと、屋根の部分を軽く押し込んだ。


 ――ググググッ!


 すると、徐々に簡易小屋が大きくなっていき、俺が最初に見た大きさの小屋まで巨大化した。


「……な……なななな、なんじゃこりゃああああっ!?」

「何って、簡易小屋よ!」

「いや! 当然みたいに言うんじゃねえよ! おい、リドル! 何なんだ、こいつは!?」

「魔導具師です」

「そりゃ分かってんだよ! こんな魔導具、見たことも聞いたこともねえぞ!」


 奇遇ですね、コーワンさん。俺もここに来て、初めて見たり聞いたりしましたよ。


「まあまあ、コーワンさん。とにかく今は、中に入って造りを確認した方がいいと思いますよ。仕事が終わったあとのお酒は美味しいんじゃないですか?」


 俺がお酒を飲む口実になるのではないかと口にすると、コーワンさんは顎に手を当てながら考え込み、ニヤリと笑う。


「……歓迎会、やるか!」

「いやいや、一人で飲んでくださいよ! みんなを巻き込まないでください!」

「その方がみんなとも顔合わせができるし、いいじゃねえかよ! そんじゃあ中を見せてもらうぜ!」

「あの! ちょっと、コーワンさん!?」


 すでに歓迎会をやる気満々なコーワンさんは、アニータさんと一緒にさっさと小屋の中に入っていってしまった。

 ……え? これ、マジで歓迎会を催さないといけない感じですか?


「はぁ。これはナイルさんに相談だな」


 この場をコーワンさんとアニータさんに任せて、俺はそのままナイルさんの屋敷へと向かう。


「おや? どうしたんだい、リドル君?」


 ちょうどナイルさんも在宅しており、コーワンさんの無茶な発言を聞いてもらった。すると――


「なるほど、歓迎会か。いいじゃないかな?」

「……え、いいんですか?」


 まさかの許可が出てしまい、俺は思わず問い返してしまった。


「今までの村の状況だと無理があったがね。今はリドル君のおかげで、生活もだいぶ楽になった。私はね、リドル君。今まで楽しいことがほとんどなかった村人たちに、多くの楽しみを与えたいと思っているんだよ」


 ナイルさんの考えを聞き、それならばと俺も思うようになった。


「まあ、コーワンの場合はお酒を楽しく飲みたいだけなんだろうけどね」

「……はは! 確かに、そうかもしれませんね」


 最後は冗談交じりにナイルさんがそう口にしたので、俺も苦笑しながら答えた。


 ――その後、簡易小屋を参考にした石造りのアニータさんの屋敷が完成し、夜には歓迎会が行われた。

 最初こそ緊張していたアニータさんも、徐々にではあるが緊張感がほぐれていき、最後の方は笑顔も見られるようになっていた。

 提案してきたのがコーワンさんだってことが少しだけ面白くもあった歓迎会は、大成功に終わったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る