第6話:未開地の村
ティナさんを助けた場所から三〇分ほど森の方へ進んでいくと、突如として拓けた場所に到着した。
そこには木造の建物がいくつも並んでおり、ここがティナさんが暮らしている村なのだと一目で分かった。
「ティナ!」
「お父さん!」
村の入口に近づいていくと、茶髪の男性がティナさんの名前を呼び、彼女は駆け出していく。
「よかった、無事だったのね!」
「ごめんなさい、お母さん!」
どうやら名前を呼んだ男性と、ティナさんが抱き着いた女性が両親のようだ。
……これが本当の、父さんと母さんなんだろうな。
「あの人たちが助けてくれたんです」
「え?」
ティナさんがそう口にして入口の所に立っていた俺たちを指さすと、両親は驚いたように視線を向けた。
「初めまして。俺はリドル・ブリードと申します」
「私は流れの商人でルッツと申します」
「ルッツさんに、リドル……ブ、ブリード!?」
「もしかして、この地の領主様のご子息様でしょうか!?」
「え? 領主様の、ご子息様?」
父親が驚きの声をあげ、母親が確認を取る。
まさか領主の息子だとは思っていなかっただろうティナさんは、困惑顔で俺と両親の間で視線を彷徨わせていた。
「えっと、少し前まではそうでした」
「……ど、どういうことでしょうか?」
「俺はブリード家を追放されたんです。そして、この未開地の領主として任命されました」
……うん、そうだよね。いきなり子供が領主になりましただなんて言っても、ぽかーんとしちゃうよね。気持ちは分かるよ、うんうん。
「驚くのも無理はないと思います。ですが……いきなりやってきて申し訳ないのですが、どこか落ち着いて話ができる場所はあるでしょうか? 実はもうくたくたでして」
苦笑しながらそう口にすると、ティナさんが両親の方を向いて口を開く。
「お願い、お父さん! 私を助けてくれた人なの! デスベアーを倒してくれたんだよ!」
「なっ! ……わ、分かりました。では、私たちの屋敷へお越しください」
「ありがとうございます!」
どうやら村の人から見ても、デスベアーは強い魔獣なのかもしれない。
何やら疑いの眼差しを受けながら、俺たちはティナさんたちについていく。
村の中に入ると、村人たちからも視線を集めており、どこか居心地はよくない。
注がれている視線が……なんというか、ブリード家の屋敷がある街の領民からの視線と同じなのだ。
正直これは、歓迎されていないんだろうなぁ。
「お待たせいたしました。こちらになります」
ティナさんたちの屋敷も、他の建物と変わらず木造のものだ。
大きな街ではあまり見ないが、俺はこういった木造の建物の方が、温かみがあってホッとするんだよな。
なんていうか、日本の田舎に帰ってきたような、そんな感じになってしまう。
「おじゃまいたします」
ティナさんたちが屋敷に入ると、続いて俺がレオとルナを抱き上げて入り、最後にルッツさんが入っていく。
玄関を上がった目の前がリビングになっており、ティナさんと母親が椅子を引いてくれたので、俺とルッツさんがそちらに腰掛ける。
「まずは、娘のティナを助けていただき、誠にありがとうございます」
「いえ、当然のことをしただけですから」
俺がそう答えると、父親はどうにも納得しがたい顔を浮かべている。
「……私は村の村長をしております、ナイルと申します」
「ナイルの妻で、ルミナです」
なんと、ティナさんの両親は、この村の村長だったのか。
「それで、領主様のご子息……ではありませんでしたね。新領主様が、この村になんのご用でしょうか?」
村長としては、いきなり新領主が現れたら警戒するだろう。
もしも新領主が横暴な人間であれば、何を言われるか分からないのだから当然だ。
「……隠すことでもないのではっきり言いますが、俺はブリード家を追放された身です。なので、ナイルさんが警戒するのも分かります」
「いえ、その、警戒などでは……」
「気にしないでください。俺がナイルさんの立場だったら、同じように警戒すると思いますから」
苦笑しながらそう伝えると、ナイルさんは申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
「俺がこの地に来た理由ですが、単純にどのような場所なのか、それをこの目で見たかったからです。まあ、行く場所がなかったというのもありますけどね」
「……あの、領主様?」
するとここでルミナさんが声を掛けてきた。
「お二人とも、俺のことはリドルでいいですよ」
「それは……いいえ、分かりました。リドルさんは、本当にブリード家を追放されたのですか?」
「はい。俺が授かったスキルが小型オンリーテイムだったから、追放されてしまいました」
今の時代では当たり前だと、俺も諦めており、納得してしまっている。
ここでナイルさんたちからも蔑みの目を向けられてしまったら……俺は、どうしたらいいんだろうか。
この地で領主としてやっていけるのだろうか。
「……え? それが理由って、どういうことでしょうか?」
「そうだよな。スキルが理由だというのも、私たちにはよく分かりません」
「だよね! それにレオとルナ、とっても強かったんだよ! 二匹がデスベアーを倒したんだからね!」
「「……え?」」
あー、うん。そうですよね、驚きますよね、分かります。俺も驚きましたから。
「えっと、実は数年前からブリード領地では……といいますか、全国的にスキルの強弱でその人を見定めるような風潮ができてまして、それで俺は切り捨てられたんです。小型しかテイムできないテイマーは役立たずだと言われてね」
「ですがスキルは神から与えられたものであり、スキルを活かして生活をするのが我々人の務めなのでは?」
「……その考え方が、今もなお残っていてくれていることに、俺は感激しています」
少なくても、俺がこの地でやっていける可能性は出てきたということだ。
「ですが……」
だが、そう思ったのも束の間、ナイルさんが真剣な面持ちでこちらを見つめ、口を開いた。
「私たちは、あなたをすぐに新領主だと認めるわけにはまいりません」
まっすぐに見つめられながら、俺ははっきりとそう言われてしまった。
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