第7話:領主として認められるように
「そんな、お父さん!?」
ナイルさんの意見に反論しようとしたのは、ティナさんだった。
しかしナイルさんは首を横に振り、自信の意見をまっすぐに伝えてくる。
「ブリード家はこの地を未開地と認定し、私たちへの支援を一切行ってくれませんでした。あなたもそうだとは言い切れませんが、すぐにブリード家の人間を信用しろというのは、虫が良すぎるのではないですか?」
ナイルさんの主張は、至極当然なものだと俺も思う。
父さんは自身の利益のことしか考えない人だし、先ほど伝えたようにスキルに関しての考え方も現代よりになっている。
スキルの強弱があれば、利益をもたらす強弱もあるわけで、利益が出るか分からない、もしかするとマイナスしか産まないだろう未開地への支援を、一番最初に斬り捨てた可能性だってあるのだ。
「その通りだと思います」
「リドル様には申し訳ありませんが、私たちは私たちの力で生きていきたいと考えております」
「待ってください!」
ナイルさんの主張を尊重したい気持ちもあるが、このまま引き下がってしまっては、この地に来た意味がなくなってしまう。
どうせ最初からマイナスの印象であれば、できることを全力で取り組みたい。
「数日で構いません、俺をこの村に泊めていただけませんか? その間でナイルさんの信頼を得られるようであれば、領主としてではなく、一人の村人として移住を許してもらえないでしょうか?」
「……領主としてではなく、一人の村人として、ですか?」
「はい。俺は領主としての意識で行動します。だけど、皆さんは俺のことを領主だと思わなくて構いません」
「……ど、どういうことでしょうか?」
困惑気味のナイルさんとルミナさんへ、俺は自分の考えを告げていく。
「俺は領主として、この村が今以上の生活をできるようにしたいと考えているので、そのつもりで行動します。もちろん、何かをやりたいと思ったら必ずナイルさんに相談します」
「まあ、勝手にやられるよりはありがたいが……申し訳ないが、君に何ができるというんだい?」
「お父さん!」
ナイルさんの厳しい意見にティナさんが声を荒らげるが、俺は右手を上げて彼女を制した。
「いいんです、ティナさん。ナイルさんの意見は当たり前のものですから」
「で、でも……」
この子は本当に優しい女の子なんだな。
見ず知らずの俺のために、両親に大声をあげてくれているんだから。
「ナイルさんの信頼を得られなければ、すぐにこの村を出ていきます。数日で構いません、どうかお願いします!」
そう口にした俺は頭を下げ、そのまま勢いでおでこをテーブルにぶつけてしまう。
だが、顔を上げるつもりはない。ここで断られてしまえば、全ての行動が無意味になってしまうからだ。
「お父さん……」
「…………分かりました、リドル様」
「あ、ありがとうございます!!」
ナイルさんから許可が得られたことで一度顔を上げ、お礼を口にしてもう一度頭を下げる。
「か、顔を上げてください!」
「そうですよ! 認めないとは言いましたが、あなたは領主様なのでしょう!」
「頭を下げることで少しでも信頼を得られるなら、俺の頭なら何度だって下げられます! 本当にありがとうございます!!」
これは俺の、心からの本心だ。
ブリード家だから頭を下げない? 利益にならないから支援をしない? そんな意味のないプライドが、多くのところで失敗をもたらすのだ。
「……はぁ。まだ認めてはおりません。ですが、領主様が簡単に頭を下げてしまっては、その地の価値を下げることになってしまいますよ」
「あ……」
ため息交じりにナイルさんが説明をしてくれたけど……うん、確かにその通りだ。
「ですが、私たちの信頼は多少、得られたのではないでしょうか」
「……え?」
「そうですね、あなた」
叱責かと思ったが、それだけではなかった。
……はは。俺の頭も、少しは役に立ってくれたんだな。
「滞在中は、こちらの屋敷で寝泊まりしてください。リドル様も、ルッツ様も」
「い、いいんですか?」
「私もよろしいので?」
「もちろんです。ですがまあ、豪勢なおもてなしなどはできませんが」
そう口にしたナイルさんは苦笑する。
するとルッツさんが軽くリビングを眺め始めた。
「……もしや、食糧事情が苦しいのでしょうか?」
「はは、仰る通りです。森の中には豊富にあるのでしょうが、強力な魔獣も多く、私たちもなかなか採取に入れないのです」
「この子にも森には入るなとあれほど言っていたのですが……ティナを助けていただき、本当にありがとうございました」
頭を掻きながらそう口にしたナイルさんのあとに、ルミナさんが改めてティナさんを助けたことへのお礼を伝えてくれた。
「よろしければ、こちらへ向かう道中で確保していた食糧をいくつかお譲りいたしましょうか?」
「嬉しいご提案ですが、それは結構です」
「おや? どうしてですか?」
ルッツさんの提案はすぐに断られ、それに対して彼は疑問を口にした。
「私たちだけが譲ってもらうわけにはまいりません。もしルッツさんが他の村人にもと考えていたとしても、まだまだ信頼を得られていないでしょう?」
「……こちらから提案しても、断わられては意味がない、ということですね?」
「その通りです」
村長だからといって、自分たちだけが贅沢をするわけにはいかないとナイルさんは考えているのだろう。
……こういう人が領主にもなるべきなんだろうな。父さんと違って。
「そうなると、最初に改善するべきは食糧事情ですね。特に、村の中で生産できればなお良し、といった感じですか」
「まあ、その通りではあるのですが……それも正直、厳しいかと」
ナイルさんが言うのだから、本当にそうなのだろう。
「森以外の土地のほとんどが乾燥していまして、作物を育てようにも発芽すらしてくれないのです」
「そうなんですね」
ルミナさんの説明を受けて、俺は思案する。
俺にこの地の土をどうこうすることは、正直難しい。
しかし、俺にはスキルがある。頼りになる、小型オンリーテイムというスキルが。
「一度、森に入りたいと思います」
俺はとあることを思いつき、ナイルさんたちへそう口にした。
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