第8話
「君と早く打ち解けたいなと思って。行きたいところない?」
なぜこんなに事を急(せ)くのか、自分でも分からない。しかし、蒼空という青年に興味を抱いたのは確かだ。
「特にないかも…」
「んー、じゃあさ、蒼空くんは何が好きなの?」
「……映画は、好きです」
「え、本当?俺も映画好きなんだ。特にホラーが好きでさ」
「あ、お、俺もです。俺もホラーが好きかも」
少しだけ、蒼空の目が輝いたような気がした。錯覚かもしれないけれど、確かに彼の感情は動いたはずだ。
「そうなの?じゃ、明日見にいかない?ちょうど面白そうなのやってるんだ」
「はい。じゃあ……分かりました」
蒼空は僅かに嬉しそうな顔を見せた。彼はあまり感情表現は上手い方ではないのかもしれない。三笠は、蒼空の笑顔をもっと見たいと思った。
次の日、見ようと思っていたホラー映画が午後から上映されたので、二人で鑑賞してきた。
「めちゃくちゃ怖かったね。俺の今まで見たホラー映画の中で一番怖かったかも」
「俺も一番怖かったです。今でも震えてしまいますね」
「うん。俺もまだ脚がガクガクだよ。途中でゾンビが女の人襲うところなんか、声上げそうになっちゃったよ」
「それ俺もです」
映画が終わった後に、二人で笑い合いながら歩いた。
街を歩いていると、視界にふと神社が目に入った。
「あれ、こんなところに神社なんてあったっけ」
「あ、そうですね。僕もこの道は通ったことありますけど、気付きませんでした」
「ホント?珍しいよな。街中に神社あるなんて」
人々が多く行き交う繁華街の一角に建つ神社。見てみると、結構な年月が経っていそうな佇まいをしている。長い間、街を行く人たちを見守ってきたのだろうか。
「ねぇ、神社に行ってみない?」
「え?」
「君のこれからが上手くいくように、拝んでいこうこれからが上手くいくように、お参りしよう」
「僕の、ですか?」
「うん!」
笑顔で三笠が頷くと、蒼空もコクリと頷いた。
その後、神社での作法に則り二人でお参りを済ませる。
「蒼空くんは何をお願いしたの?」
「そうですね……何とか、生きていければと願いました」
肉親を亡くし、一人になった蒼空。生きていくだけで精一杯なのだろう。
「大丈夫。これからはきっと運も上向くよ」
根拠があるわけではないが、蒼空と関わってみてそう思えた。
「あ、ありがとうございます。何か、そう言ってもらえるとそんな気がしてきますね」
「これから頑張って。俺も応援してるから」
「はい!」
蒼空は笑顔で頷いた。
「あ、そうだ。ちょっと待ってて」
「え?あ、はい」
キョトンとしている蒼空を置いて、三笠はお守り売り場へと向かった。お守り売り場には、安産祈願や交通安全など様々なお守りが並んでいる。迷った末に三笠が選んだのは、オーソドックスなお守りだった。
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