第6話

 次の日の朝、三笠は蒼空に近所にあるカフェでの朝食を提案した。

「カフェですか?」

「うん、どうかな。たまに、そこで朝食を摂ってから仕事に行ったりするんだよ。テイクアウトしていくこともあるけどね」

「カフェで朝食は食べたことないかもです」

「そうなの?じゃあ、どう?行ってみる?フードも美味しいよ」

 優しく三笠が微笑むと、蒼空はコクリと頷いた。

「じゃ、行こうか!」

 二人は歩いて十分ほどのカフェを訪れた。

そこはチェーン店ではなく落ち着いた雰囲気の個人店だが、明るい印象がある店舗だ。こじんまりとした店内であるものの、十分に落ち着ける。

「雰囲気、良さそうですね」

 店内に入るなり、蒼空が呟いた。

「だろ?この雰囲気が好きなんだ」

 その後に、コーヒーとホットドッグを購入して二人で食べる。

「あ、美味しい」

 出会って初めて、蒼空が目を輝かせた。その様子に、三笠はつい見惚れてしまった。

「どうかしました?」

 蒼空はキョトンとしている。

「あぁいや。何でもないよ」

「何か、いいですね。こういう時間も。俺には、こんな時間なかったから……」

 そう言う蒼空を見て、三笠の胸は少し辛くなった。目の前の男は、これまでどんな人生を歩んできたのか……。

「これからは、たまに一緒に来よう。誰かと一緒に食べる方が楽しいよ、きっと」

 今後、蒼空のことを色々と知っていきたいと思った。だから、一緒の時間を過ごしたいとも思う。

「そうですね……。でも、できるだけ早く仕事と部屋をみつけますね。三笠さんに、あまり迷惑かけられませんから……」

「言わなかったっけ?いつまでいてもらっても構わないって」

「でも……」

「急ぐ必要はないからさ。ね?」

「はい……」

 蒼空は肩を竦めた。

 その後二人は食事を済ませ、一旦蒼空を部屋に送り届けた。

「悪いけど、俺は仕事に行かなくちゃならない。君はここで好きに過ごしていいよ」

「出会ってあまり経ってないのに……僕のこと、置いておいて平気なんですか?」

「あはは。取り調べではちょっと勢いで疑って、失礼なことをしたけれど……刑事だし、人を見る目はあるつもりだよ。だから、君は信じられる人だと思ってる」

 真っ直ぐに蒼空の目を見つめると、彼の頬にはほのかに朱が差した。

「……分かりました。じゃあ、大人しくしています」

「うん。帰りは分からないけど、多分遅くなると思う。何かあったら、連絡して」

 昨夜のうちに、蒼空とは携帯電話の番号を交換していたのだ。

「はい。行ってらっしゃい」

 そう言われて、三笠は悪くない気がした。誰かに送り出してもらえる日が来るとは、思わなかったから。「うん」と笑顔を残して、三笠は仕事へと向かった。

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