第10話 がっこうへいこう

安息日の翌日。

朝早くに目が覚めて、思った以上にわくわくしている自分に少しおかしくなる。

ベッドで軽く伸びて上着を羽織ると窓のそばへ行きまだ朝焼け前の空を見つめる。


隣の部屋からコンコンとノックされ返事をすると、従者の二人が部屋へと入ってくる。

「おはようございます、サリーシャ様。」

「おはようございます。」

二人とあいさつを交わすとてきぱきと朝の準備を整えてくれる。

温かいお湯で顔を洗って、服に着替える。いつもは私服の上に神殿の法衣?を羽織る形だが今日は違う。

白を基調としたノースリーブワンピースとブラウス、その上にケープといったいわゆる制服である。

ところどころ金の刺繍が入っているのは神殿の意向なのだと思う。

ボブより少し長いくらいの髪を後ろでハーフアップにして髪飾りをつけてもらう。

髪には力が宿るのでこれからはある程度までは切らずに伸ばすらしい。

前世でもあまり長い髪にしたことがないのでなんだかちょっと照れくさい。


フィーリアが朝食を運んできて、テーブルに並べられる。

祈りの言葉を言ったあと、いつもの朝食をとる。

食事を終え、支度を整えて転移の間まで案内される。

台車のようなものに木箱をいくつか乗せてフィーリア達も一緒に部屋へと入る。

ここまでわくわくしすぎて、今までより何倍も早く時間が過ぎた。


「聖女様の健やかな成長をお祈りいたします、どうかお気をつけていってらっしゃいませ。」


アンガスがそう頭を下げると転移の間に不思議な光が灯る。

最初の時はすごく怖くて目を開けていられなかったけど、今回は転送の光をしっかりと見つめていた。

淡く光ったと思うとその光に包まれ、ふわりと浮いたような感覚になる。

そして数秒もたたない間にゆっくりと地面の感覚が足に伝わってくる。

淡い光が収まり、あたりを見渡すとレンガで作られたような部屋に転送されていることが分かった。

窓もなくランタンの光だけで照らされていて、神殿とは違い薄暗い印象を受けた。

黒い服を着た大人の人が会釈をする。

「ようこそ、お越しくださいました。こちらへどうぞ。」

といって、扉を開けて案内してくれる。

出た先は階段になっていたので、地下の予想は当たっていた。

地下から出るとレンガと石で作られた大きな建物の中に出たことがわかった。

廊下の天井も高く、明り取りのための窓には薄い水色っぽいガラスもはめ込まれていた。

案内されるまま歩き、大きな扉の部屋へと到着する。

コンコンとノックをしてはいると、執務室のような作りの部屋にソファーとテーブルがあり、壁には一面の本棚にびっしりと本が詰まっていた。


「ようこそ、王立学園アスティスタへ。」

深々とお辞儀をされ、慌てそちらの方を向くと妙齢の女性が優しく微笑んでいた。

「学園の説明をいたしますので、どうぞおかけになってください。」

フィーリアにエスコートされソファーへと腰を掛ける。

その間に従者の二人は何やらドアの前に人と話をして荷物をもって出て行ってしまった。

目の前にソファーに女性が移動してくると、深々と再度お辞儀をされる。

「私はこの学園の理事長をしております、ティアランテと申します。聖女様には頭を上げてお話をすることをお許しください。」

「はい。」

「ありがとうございます。改めまして、ようこそお越しくださいました。従者の方には先に居室を整えておくよう申し付けておりますのでご安心ください。」

そういうとティアランテは向かい側のソファーへと腰を掛ける。

「さて、こちらの王立学園ですが、様々な身分の方が通い学び成長するための学園となっております。学園の中では身分関係なく、平等に過ごしていただきます。聖女様におかれましてもそちらは変わりません。聖女様であるという身分も隠していただきます。」

「はい。」


なんと、とてもいいことを聞いた。

ここでは聖女としてではなく、一生徒として色々学べるってことなんだね。

聖女だってだけで避けられたらどうしようと思っていたのでとても安心した。


「そして10年この学園で学んでいただく過程で冒険者の資格も取ってもらいます。これは全国を旅するために必要なため、必ずお忘れなきようお願いいたします。」

「わかりました。」

「この学園の特徴の一つとして、兄弟姉妹制度がございます。1年時の時に6年時の人と姉妹のように過ごし、この学園での生活をサポートしてもらいます。もちろん、聖女様が6年時になった際には1年時の子を迎え入れていただきます。」

「はい。」


ん?姉妹制度??えっとあれかな、六年生が新一年生のお世話とかするあれ?あれにも苦い思い出があるんだよなぁ……、一年の時は嫌がられて六年の時は泣かれたっけな……。


「寮は一人一部屋と、侍女がいる場合はその部屋も用意されます。そのほか細かいことは後程入学式のあとにご説明いたします。」

「はい。」

「身分を隠すということで、ご気分を害されてしまうかもしれませんが、規則となっておりますのでどうかご了承ください。」

「いえ、こちらこそ丁寧にありがとうございます。」

にこっと笑うと、理事長はほっとしたような顔になる。

きっと王族とか身分の高い人とかこういう話をされると機嫌が悪くなるんだろうなぁ……お疲れ様です。

私は身分隠せるなんて最高です。

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