第7話 聖都リスティアーナ
自室で一息ついていると、ワゴンを押したフィーリアがやってくる。
どうやら温かいお茶を用意してくれたみたいだった。
テーブルにテキパキと並べられる。
冷めないうちにと口をつけると懐かしい香りと味がした。
こちらに来て初めて紅茶を飲んだ。
くぴくぴと飲み干すと、お代わりを注いでくれる。
「お気に召されたようで、なによりです。ミルクを入れてもおいしいですよ。」
「おねがいします!」
にこりと笑ってカップに注いでくれる。
ほっとする味に先ほどまでに悲しい気持ちが薄れていく。
「もうすぐ昼食ですので、準備ができ次第お持ちいたしますね。」
「ここで食べるのですか?」
「位が高い方は、会食以外はお部屋で召し上がります。位の高い方から食事をし、そのあと次の位の人が下げ渡された物を召し上がります。また次の位の人と、そうして皆が食事を済ませていきます。」
「た、食べ残しを食べるのですか?」
「あぁ、そうですね…とてもたくさんの料理を作り位の高い方からお召し上がりになり、食べ残したものというより順番に召しあがるといった感じでございます。」
それを聞いてほっと胸をなでおろす。
残飯のような食事をしているのかと思っていたのでドキドキとした。
「私は、本日サリーシャ様のお世話を仰せつかっております。お食事の間はそばにお仕えいたします。」
「それはとてもほっとします。一人で広い部屋にいるのはとてもさみしいですから。」
「あら、それはとてもうれしいお言葉です。ありがとうございます。」
フィーリアは見た目は18歳前後っぽいのだが、とても落ち着きがあるためそれ以上に見えてしまう。
コンコンと扉をノックする音がして、フィーリアが扉をあけると食事を乗せたワゴンをもった水色の衣をつけた男性がやってくる。
その男性からワゴンを受け取ると、人さじずつフィーリアが口をつける。
あれは私でも知ってる、毒見だ。
毒なんて盛られるんだ…
ひやりとした感覚が背中を伝うのが分かった。
すべてを嚥下したあと、フィーリアに異常がないため安全と判断され食事の用意がされる。
ミルクを使ったシチュー、ハム、チーズ、パン、フルーツといったものが並んでいく。
「サリーシャ様、これからはこちら祈りの言葉を唱えてからお食事を召し上がってください。『水と大地と太陽の恵みに感謝し、いただきます。』です。」
そういえば、今朝食事の時にそんなことをフィーリアが言っていた記憶がある。
それに倣い手を組み。
「水と大地と太陽の恵みに感謝し、いただきます。」
食事はどれもおいしかったが、なんだかとっても味気なかった。
家族とわいわい食べていたころを思い出し、少しだけしょんぼりしてしまう。
食事を終え、食後のお茶を淹れながらフィーリアが言う。
「この後司祭様から今後のお話があります。一息つきましたらご足労をお願いいたします。」
そういわれ、私はお茶を飲み干した後別の部屋へと案内される。
廊下も真っ白でとても掃除が行き届いている。
すれ違う人はみんな頭をさげて一歩さがっていた。
目的の部屋に到着すると、ドアの前に騎士にフィーリアが何かを話しドアを開けてもらう。
シンプルだが執務室?のような場所に帽子の大きなおじさんが席を立って待っていてくれた。
「お初にお目にかかります、司祭のアンガスと申します。頭を上げて話すことをお許しください。」
「は、はい。」
「ありがとうございます。」
そういうと、顔を上げ一番フカフカそうなソファへと私を促す。
フィーリアに手を添えてもらい席に着くと、目の前の席にアンガスは座る。
「では、まず今いるこの街をご説明します。こちらは聖都リスティアーナ、世界に対し中立である唯一の都市となっております。他の国の説明も追々いたしますが、まずサリーシャ様には学校へ通っていただくことになります。」
「学校ですか。」
「はい、まずは世界の成り立ちから様々な国、語学、神聖術等あらゆる分野を学んでいただきます。」
「はい。」
「10年と長い期間ですが、そちらへ通われて初めて聖女としてのお仕事をしていただくこととなります。」
「聖女のお仕事とは、具体的に何をすればいいのですか?」
「聖女教育も含め学んでいただきますが、世界平和のために各地を巡業していただくのが主なお仕事となります。」
「わ、わぁ…大変ですね」
「とても尊いお仕事ですよ。」
にこりと言われ何も言い返せなくなる。
でも学校はとても助かる、この世界の事はあの町の事しか知らない。
もっと知っておきたいことはたくさんある。
「私、頑張ります。」
すこしドヤっと胸を張ると、フィーリアに咳き込まれた。
これもダメですか…
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