第6話 デジャブと転移

空腹であまり寝れない夜を過ごし、コロコロと鳴るおなかをさすりながら朝を迎える。フィーリアは先に起きていたのかお湯を桶に準備してくれていた。


「おはようございます、その様子だとあまり眠れなかったようですね。お顔を洗われますか?」


ほわりと温かい桶と柔らかそうな布をサイドテーブルに置いてくれる。

お言葉に甘えてお湯で顔を洗うと布で顔を拭くと、そのままテキパキと正装に着替えさせられていく。

着替えが終わるとふわりとおいしそうな香りが天幕に充満する。

暖かそうなスープと、白いパンがテーブルに用意される。

ペコペコだったおなかがクウゥっと鳴る。

ふふっと笑われ、席に促される。


「いただきます!」

「水と大地と太陽の恵みに感謝し、いただきます。」


昨日の朝ごはんから何も食べていないおなかに優しめの具が小さく切られたスープ。

ふわふわと柔らかいパンはこちらに来て初めて食べた。

空腹の体に温かいスープが染み渡る。


「はふ…ごちそうさまでした。」


おなかが満たされると体温が上がったようにぽかぽかしてくる。

食後に温かいお茶が出てくる。

そのお茶を飲みながらふぅと一息ついていると、食事の片づけをフィーリアが始める。

天幕を片付けるためフィーリアと馬車に移動する。


「本日は領都の神殿へ向かいます。半日ほどで到着いたしますので、それまでゆっくりとなさってください。」


準備が済むとまた馬車に揺られるだけの旅になる。

どうして揺れる車内は昔から眠くなるのだろう…昨晩あまり寝れなかったこともあり、またゆらゆらと夢の中へと落ちていく。


誰かに声を掛けられ目を覚ますと領都へ到着していた。


「そろそろ神殿へ到着いたします。」


フィーリアにそういわれると、軽く服を整えられる。

到着した神殿は町にあるものとは比べ物にならないほど大きかった。

馬車のまま入れる門もあり、馬車のまま中へと入っていく。

広場のようなところへ到着すると、馬車のドアが開きまた騎士の人にエスコートされ降りていく。

大人の人がずらりと両脇に並び頭を下げ出迎えてくれる。

ふと前世の記憶にある、お出迎えみたいだと思ってしまう。

一番大きな帽子の人に近づくと挨拶をされる。


「聖女様、はるばるお越しいただきありがとうございます。さぁ転移の間の準備は整っております、こちらへ。」


頭を下げたまま立ち上がると、廊下を先導して歩いてくれる。

転移?ってことはさらに移動ってことでいいのかな?

生前アニメとか小説に触れてきていなかったためいまいちピンとこない。

そういうのが好きな人が確かいたような気がするけど、年も違ったのであまり話したことはなかった。

たぶんあれだ、魔法学校に行くための駅に移動するあれ?みたいなやつかな?と思っていると、転移の間と言われた場所に到着する。

その場所は淡く光る複雑な模様が床に描かれた部屋だった。

不思議な青のような紫のような黄色のようなキラキラと光る模様はどこか神秘的で、目を奪われる。


「聖女様、こちらへ。」


その模様の真ん中に立つよう言われると、フィーリアにエスコートされ進む。


「では、はじめます。」


そういわれると、先ほどまで淡く光っていた模様に輝きが増す。

思わずフィーリアの手をぎゅっと握ると、優しくい握り返りてくれた。


「怖いようなら目を閉じていてください。」


フィーリアの言葉通り目をぎゅとつぶる。

ふわっと体が浮いたような感覚が少しの間続いた後、地面にゆっくりと足が付く。


「もう目を開けても大丈夫でございますよ。」


恐る恐る目を開けると先ほどとはちょっと違う部屋に着いたようだった。

頭を下げた大人たちがぐるりと周りを囲んでいる。


「聖女様、無事のご到着お喜び申し上げます。」


ここでも一番大きな帽子の人が声をかける。


「移動でお疲れでしょう、お部屋にご案内いたします。」


扉をあけると先ほどとは違う廊下にびっくりする。

転移、やっぱり違う場所に移動する方法らしい。


ここは魔法があるファンタジーな世界だとつくづく思わされる。


通された部屋は今まで家族で暮らしていた時より広い部屋で、大きなベッドや机、テーブルにソファまである。

部屋の中に扉が二つあり、一つはクローゼットのような作りになってた。

もう一つは普通の少しこじんまりとした部屋が付いていた。


「こちらの部屋に専属の侍女が住むことになっております。」


フィーリアから説明をうけるとそのドアは閉められてしまう。

ここで今日から暮らすのかと思うと、またすこし寂しい気持ちで胸がいっぱいになる。

生きていれば会えないわけじゃないと自分に言い聞かせ、泣くのをぐっとこらえた。

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