第5話 移動と初めての野営

馬車の窓から流れる景色をぼーっと眺める。

特別待遇…だとは思う、馬車の中は魔法で快適な温度にされているし座っている椅子も柔らかくお尻も痛くない。

座席は私には少し高く、足元には踏み台が用意されている。

お世話係の女性が馬車の中にいて、時折目が合うとにこりと笑ってくれる。

おそらく神殿の人なのだろう、白い衣に繊細な水色の刺繍が施された衣に身を包んでいる。

外には銀色の鎧をきた騎士が何人か並走している。

一糸乱れず…とはこういうものなのだろうと感心した。

ここ最近あまり寝れていなかったからか、馬車の揺れが眠りを誘う。

もう何度目かわからないあくびをかみ殺して、うとうとと眠りにつく。


どれくらい時間がたったのか、ふと目が覚めると体が痛くないようにクッションが置かれ柔らかなブランケットがかけられている。

窓をふと見ると、まだ明るいが日が傾きかけているのがわかる。


「サリーシャ様、お気分はいかがですか?」


女性が話しかけてくれる。


「おはようございます。だいぶすっきりしました」

「それはようございました。」


にこりと微笑むとてきぱきとブランケットをたたんでくれる。


「そろそろ野営をいたします。街道沿いとはいえ、夜は危険です。決して私や騎士様から離れぬようお気を付けください。」


しばらく走ると緩やかにと速度が下がる。完全に停止すると、外から騎士が声をかけてくれる。


「サリーシャ様、こちらて本日は野営をいたします。天幕を用意いたしますので今しばらくお待ちください。」

「は、はい。」


野営…キャンプなんて小学校の宿泊研修以来だ、ちょっとわくわくしてしまう自分がいる。

心がソワソワとするのを抑え、窓から野営の準備を眺める。

騎士たちは手慣れているのか、てきぱきと役割を分担して準備をしていく。

焚火がたかれ天幕が立てられる、準備が整ったのか、馬車の外から声がかかる。

騎士の方に手を引かれ馬車の外に出る。

促されるまま天幕へ向かうと、その中はもう部屋と変わりがなかった。

こんな荷物どこに積んでいたのだろう?床は板張りにラグが引かれておりベッドが二つ設置されており、テーブルや椅子明り取りのためのランプもおかれていた。

テントにごろ寝を想像していただけに少しだけ、ほんのちょっぴり残念な気持ちになる。

騎士の人が天幕を出ていくと、女性が部屋の隅に置かれた箱を開けて何やら準備をしている。


「あの…一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「はい、何なりと。」

「お名前を聞いてもいいですか?」

「まぁ、そんな…私の名など尊いサリーシャ様のお耳入れるなど、滅相もございません。」

「私が呼びにくいのです…教えていただけますか?」


少し困ったように微笑み応える


「フィーリアと申します。さぁ、こちらをお召しになってください。」


フィーリアが広げて見せてくれたものは白いさらりとした生地にきれいな金色の刺繍が施されたきれいな服だった。


「あ、あの。でも私…家族からもらったお洋服で大丈夫です。」

「いえ、こちらは神殿に入る際の正装となります。明日には到着しますので朝にはこちらに着替えていただきます。その前にお試しいただきたいのです。」


あぁ、試着して丈が合うか見たいのか…そう自分なりに解釈をして今着ている服を脱ごうとするとフィーリアが慌てて止める。


「サリーシャ様、お着替えは私にお任せください。そしてこれからもご自分でお着替えなさらぬようお気を付けください。」

「なぜでしょう?お着替えくらい私でもできます。」

「高貴なお方はご自分でお着替えにならないものです。」


はっきりと言われてしまうと従わざるを得ない。


……聖女めんどくさい。


言われるがまま、されるがままフィーリアに着替えさせてもらう。

さらりとした生地はとても気持ちよく、少しひんやりとした。

手慣れた様子で小難しそうな服を着せつけていく。イメージとしては着物を着せられている感覚で、ひもや帯でまとめられていく。


「よくお似合いです。」


鏡がないので何とも言えないが驚くほどぴったりのサイズだった。

くるりと一回りすると、さらっと布が動く。

フィーリアに一つ咳ばらいをされ、これもダメなのかと苦笑いをする。

もう一度さっきまで来ていた服に着替えるさせられると、テーブルに促され温かいお茶を淹れてくれる。

お茶はとてもおいしく、一口飲むとおなかがすいていることに気が付く。

そういえばお昼も食べていない。


「あ、あの夕食は…」

「安息日ですので、本日はお食事はいたしません。」


つまり毎週末は断食ってことですか!?

もう聖女やめたい…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る