第4話 思い出と別れ

楽しい時間はあっという間で、その反面別れがつらくなる。

明日なんてこなきゃいいのに……、そう思うとなかなか夜は寝付けない。

寝なくたって朝は来るのに、毎日夜になると泣いていた。

声を声を殺して泣いているとそっと姉が後ろから抱きしめてくれた。

その温かさで眠りにつく……


安息日前日の夜、食卓がいつもより豪華だった。

卵料理も、大ぶりなウインナーも、蒸かしたお芋も、おいしそうな果物も、そして一番好きな母の作ったスープも並んだ。


「今日はサラの好きなものいっぱい作っちゃった。」


そう自慢げに母は言う。

姉も手伝ってくれたのだろう、腕を組んでうんうんと横でうなづいている。

父と兄も早く帰ってきていたようで夕食の準備をしている。


「さぁ、たくさん用意したわ。おなか一杯食べましょう。」


父のためにワインまで用意しており、飲んだ父はとても上機嫌だ。

大きなウインナーをほおばると口いっぱいに肉汁があふれる。

ほくほくのお芋には塩気のあるバターもかかっている。

母の作ったスープが絶品で心まで温かくなる。


「あぁ、こうして家族で食事をとるのは幸せだな……。」

すこし頬が赤らんだ父がそう零す。

「えぇ、幸せですね。」

母が幸せそうに微笑む。


家族誰もが同じことを思っていたかもしれない。

―明日なんてこなきゃいいのに。


食事も終わり、父が改めて私を呼ぶ。


「サラ、明日から違う世界での生活が待っている、苦しく辛い時もあるだろう…だがこの家の、この家族のことは決して忘れないでほしい。もし、どうしてもだめな時は逃げても構わない。たとえ全世界が敵に回ろうとも、否定されようとも、この家族だけは味方だ。どこへだって逃げて生きてやる。」


力強く、まっすぐに見つめられ、私は頷くことしかできなかった。


「サラ、これは私たちからのプレゼントよ。」


母は大きな袋から何着かの服を出してくれる。

今すぐ着れるもの、今より少し大きいもの。


「必要ないかもしれないけど、こんなことしかできないから…ね?」

「そうよ、私も一緒に作ったのよ。着ないなんて許さないんだからね。」


二人は仕事の合間を縫って私の服を仕立ててくれていた。

ぎゅうっと服を抱きしめて、うれしくて、寂しくて泣きそうになる。


「これは俺たちから。」


兄から小さな箱を手渡され、そっと開けてみる。

木でできたかわいらしいブローチが入ってあった。


「父さんみたいにうまくはできないけど…手伝ってもらいながら作ったんだ。」


兄はそう言って照れくさそうにそっぽを向く。


「みんな、ありがとう。」

服と小さな箱を胸に抱き、その言葉を言うのが精いっぱいだった。

これ以上声を発すると泣いてしまいそうで、わがままを言ってしまいそうで限界だった。


その日は家族みんなで一緒の寝床に入り、みんなと一緒に眠りについた。



次の日、私は母と姉がくれたワンピースに腕を通し、父と兄がくれたブローチを胸元に付け準備をした。


「忘れ物はない?」


母は何度も確認をしてくれる。


「大丈夫よ、お母さん。みんなからもらったものは全部つめたわ。」


そんな談笑をしていたら、程なくして玄関の扉がたたかれる。


「…はい。」


静かに父が答え扉をひらく。


「聖女サリーシャ様をお迎えに参りました。」


騎士のような恰好をした人が片腕を前に組み頭を下げる。

父も母もそれに倣い頭を下げる。


「ご安心ください、我々聖騎士団の名に懸けお嬢様を決して傷つけたりいたしません。」

「えぇ、くれぐれもよろしくお願いいたします。


少しピリッとした空気が流れ、私は騎士の人に促され外に出る。


「それじゃぁ、みんな。行ってきます。」


父譲りの強い笑顔でにこりと微笑み、家を出る。


外には小さな白い馬車が待機していた。

荷物を乗せ、私を乗せ馬車は進む。


初めての馬車はすごく寂しく苦い思い出となった。

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