第3話 五日間だけの時間

この世界の一巡りは六日で成り立っている。

安息日を始まりの0日と数え、平日が五日続き、また神の元へ還るとされている。

安息日は神殿以外はお休みとなり、家族と新たな巡りにむけ心と体を休めるのである。

一巡りが五回繰り返され、一節いわゆる一か月となる。

この世界にも四季はあり私が住んでいるルイードという町は比較的穏やかな気候で、寒い時期に雪に覆われるということもあまりない。

時折雪が積もることはあるが積もった日には子供たちが大はしゃぎをして雪遊びをするくらいには穏やかな気候である。


司教は一巡り後と言っていた…つまり次の安息日にはお迎えが来てしまう。

私は今できることで後悔を残さないようするつもりだ。


…それにしてもおなかすいたなぁ…昨日晩御飯食べ損ねちゃったからなぁ…


朝目が覚めてもぞもぞと布団の中で動いていると姉が目を覚ましたのか、頭を撫でてくれる。


「おはよう、サラ。昨日はよく寝れた?何も食べずに寝たからおなかすいたでしょ?」

「おはよう、お姉ちゃん。もうおなかペコペコ…おなかすいてめがさめちゃった。」


布団の中でこそこそと話してると、優しい声が答える。


「あら、じゃあ朝ごはんにしなくちゃね。おはよう、リア、サラ。」


リアは姉の愛称、リリアーナが姉の名前だ。

三人で布団から抜け出し朝食の準備を始める。


子どもは十歳になると見習いとして仕事を始める。姉は母と同じ職種の服飾縫製の仕事を選んだようだ、朝食の後は母と一緒に仕事に行くのだろう。

子どもたちは六歳から十歳になるまでは、家の手伝いをしながら将来何がしたいか考える時期でもある。

ほとんどの場合は両親と同じ仕事に就くこともあるが、まれに冒険者になる子も現れる。


おいしそうなにおいにつられ父と兄も起きてくる。起きた兄は食卓を整えてくれているようだ。

みんなが席に着くと食事が始まる。

野菜のスープと黒パン、たまにチーズや果物がでることもあるが、今日は残念ながら無いようだ。

一般家庭はこの食事がスタンダードで、私は母が作るこのスープが大好きだ。

前世のように調味料が潤沢とは言えない世界だが、天然のハーブやスパイスで優しい味に仕上げてある。


和やかに食事を終えると、父と母と姉は仕事に出かける準備を始める。

今日は兄も父についていくようで、私は一人で過ごすこととなってしまう。


―今日は友達とたくさん遊んで悔いのないようにしなきゃ。


そう決めると、家の鍵を閉め広場へ遊びに出かける。

広場には昨日神殿であった子もちらほらいて遠巻きにひそひそされているのがわかる。

…いいもん、なれてるもん。


少し寂し気持ちになりつつあたりを見渡していると、遠くから駆け寄ってくる子たちが見える。


「姐さーん!!ききましたよー!!」

「遠くに行っちゃうって本当ですか?」

「姐さんがいないなんて、そんな…おれどうすれば…」

わぁっと囲まれ口々に昨日のことを言う。

「姐さんって呼ばないでって言ってるでしょ?まったく…遠くに行くのは本当よ、次の安息日にはお迎えが来ちゃうの。」

その言葉を聞いて周りの子たちがうなだれる。

誤解がないように言っておくけど、この子たちは年上だし舎弟にした覚えなんて一切ない。決して!違うから!


「あ、いたいた。サラ~、もう大丈夫?痛いところとかない?」

「アリー…もう大丈夫、痛いところなんて全然ないよ。」

「それならよかった…、でも…遠くに行っちゃうのはほんとなんだね…。」

悲しそうにアリーが視線を落とすが、ぱっと顔を上げて私の手を握る。

「ならたくさん、うんっと楽しい思い出作らなきゃ!いつでも帰ってきたくなるように!」

「うん!!」


この笑顔に私もつられて笑顔になる。

今日も、明日もうんっと遊ばなきゃ!

広場にいたお友達と一緒に今日は何をしようか?という話で盛り上がり、この日は一日暗くなるまでいっぱい遊び倒したのである。

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