第2話 決意と絆

聖女とは―

この世界に一人だけ存在する尊い存在。奇跡の力を持ち世界を安寧にに導くといわれている。



突然のことに理解が追い付かないままの私に司教は話を続ける。


「家族と別れる時間も必要でしょう、一巡り後にまたお迎えに参ります。どうか、この世界をお救いください。」


そう話を終えると司教は部屋を去っていった。

その場に残された私たちはただただ、静かに下を向くしかなかった。


「おうちに帰りましょうか?」


母にそう促され、私たちも部屋を後にする。

重い足取りの帰り道は、誰も口を開かず母の時々すすり泣くような声が聞こえるだけだった。


「おかえりなさい!遅かっ…何かあったの?」


いつも笑顔の母の表情を見て姉は何かを察し、ダイニングの椅子を引いて母を座らせる。

しん…と静まり返った空間で私はぽつりとつぶやく。


「私、聖女なんだって。」


その一言をきっかけに母は私を抱き、泣き崩れる。

姉も目に涙を浮かべ私と母に抱き付く。

父も悲痛な表情を浮かべ、兄は耐えきれず壁の方を向く、時々嗚咽が聞こえてくるのはかっこつけたがりの兄っぽいなと思いつつ二人の温かさと重さに私まで涙が出てくる。


「こんな小さな子が…親元を離れるなんて……。」


より一層母が抱く力が強くなる。

どうして私なの?静かにただ平穏に暮らしたいだけなのに……


どれくらいの時間がたったのだろう、ひとしきり泣いたところで母の腕が緩む。

泣きはらした顔は覚悟を決めた笑顔になっており、頭を愛おしそうに撫でる。


「おなかすいたでしょう?お昼も食べずに、時間だけが過ぎちゃったわ。」


そういうと母は台所の方へと向かう。

姉と私も自然と母の後を追い、いつものようにお手伝いをする。

作業をする音だけが響き、おいしそうなにおいが部屋の中に充満していく。

誰ともなく食事を運び席に着く。

温かい湯気が上がる食事に母から手を付ける。


「さめちゃう前にたべちゃいましょう?」


にこりと微笑む顔はいつもの優しい笑顔だった。

食事を済ませたあたりで母が私の方に向き、暖かな手で私の手を優しく包み込みながらゆっくりと口を開く。


「サラ、あなたには小さなころから不思議な力を感じでいたの。同じ年頃の子よりも落ち着いていて、手の付けられないやんちゃの男の子にも優しく接することができ、お友達の中心にいることが多かったわね。聖女と聞いて驚きはしなかったけど、親元から離れなければならないとわかりとても悲しくなったわ。けど、一生会えないってわけじゃないの。立派にお役目を務めてらっしゃい。」


まっすぐに優しい視線をぶつけられ、またこみあげてくるものがあったけどぐっと我慢した。

こくりとうなずくと、ふわりとまた優しく抱きしめられる。


「愛しのサリーシャ…あなたはいつまでも私たちの子よ…。」


我慢できず母の腕の中でわんわんと泣いた。



・・・・・・・・・・・・・・・


こんなに泣いたのはいつぶりくらいだろう、気が付いたら泣きつかれて寝てしまっていたようで、あたりはすっかり暗くなっていた。

私を中心に家族が一緒に寝ていた。姉は私の手を握り泣きはらした目をしている。


あったかいな…ずっとここで暮らせたらどれだけ幸せだったのかな…


そっと寝床から抜け出すと、玄関を開け家の前に座り込む。

私には前世の記憶がある。

前世では17歳、高校に通いそこそこ充実した日々を送っていた。

ただ、普通の人とは違ってヤのつく自由なお仕事をしている家庭に生まれた。

いつも騒々しい環境で育ち周りには血気盛んな人が大勢いた、友達は幼稚園の時以来いなかった。

私が死んだときも、たまたま抗争が激化しているときで、家族そろって車に乗っているときに事故にあった。

だから生まれ変わったと気が付いたときは絶対平凡に穏やかに幸せになってやろうと心に決めていた。

なのに、聖女だからって親元を離れて暮らせって筋が通らないってもんよ。

考えたらだんだんと腹が立ってきた。


夜空を見上げ、澄んだ空気を胸いっぱい吸い込むとゆっくりと吐き出す。


「よし。聖女やってやろうじゃないの!そんできっちり落とし前つけさせてやる!」


そう心に決めて握りこぶしを夜空に掲げる。


「見てなさいよ神様、その面拝みにいってやるんだから!!」


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