聖女は聖人じゃなきゃいけませんか!?
たいやきさん
第1話 聖女降臨
人生で長い長い一日といえば、みんなはどんな日を思い浮かべるのだろう。
結婚式?我が子の誕生?受験?
私は、自分が死ぬ瞬間だと知っている。
走馬灯のように思い出が駆け巡るとか、そういう美しいものではなく、熱くて、苦しくて、痛くて、怖くて……
あぁ、もう助からない…と自覚をしてからじわじわと体が冷えていく感覚。
押しつぶされた体に力は入らず、きっと火の手も上がっているのだろう、チリチリと熱い。
声も出せず、こんなところで終わるのは嫌だと涙だけがでる。
もっと幸せになりたかった、ごく普通の人生を歩みたかった、死ぬのは怖い……
何もできず意識を手放していく。
あぁ…次の人生は幸せに暮らせますように…
◇---------------------◇
そう、私はどういうわけか前世の記憶というやつを持っている。
それに気が付いたのは、いわゆるモノゴコロというものがついてからだ。
母曰く、私は相当に夜泣きのひどい子だったらしい。
前世の記憶を夢に見ていたのかもしれない……
泣きじゃくる私を母がやさしく抱きしめ、母の顔を確認すると安心したのか胸に抱かれたまま眠りについていったそうだ。
そんな思い出話をしながら家族と朝食をとる。
なんだか気恥ずかしい思いをしつつ、二つ上の兄と四つ上の姉と両親に囲まれて幸せな日常を送る。
「もうっ、お母さん小さなころの話はやめてよー。」
ぷぅっとふくれて恥ずかしさをごまかしたが、この瞬間が私はとても好きだ。
決して裕福とは言えない家庭だが、温かく幸せな家庭。
今日はさらに特別な日でもある。
5歳までは神の子といわれ、いつ神様の元に還ってもおかしくはない世界で、6歳を迎えられたことを神様から祝福をしてもらう、そんな特別な日なのである。
朝食を終え、姉兄たちと片づけをしていたら玄関をノックする音がする。
「サラー、そろそろ神殿にいこー?」
明るい声と共にひょこっとオレンジ色の頭が覗く。
二つとなりに住む同い年の女の子、アイリーンだ。
サラと呼ばれたのは私、サリーシャ。通称サラだ。
平民は苗字を持たないので、名前と親しい間柄では愛称で呼び合う。
「あらあら、もうそんな時間?サラ神殿まではひとりで行ける?」
「大丈夫よ、お母さん。私もうそんな小さな子供じゃないわ。」
「おばさん、私も一緒にいきますから」
「アリーが一緒なら安心ね、私もお迎えにはいくから行ってらっしゃい。」
そう笑顔で頭を撫でられる、なんだか恥ずかしいがとても心地がいい。
いってきます。と家族に告げアリーと一緒に神殿へ向かう。
「神様のお告げってどんなこと言われるのかな?」
と、うれしいのかアリーのおしゃべりがずっと止まらない。
その話に相槌をうっていると神殿へと到着する。
神殿の前には同じ年頃の子たちが、各々嬉しそうに話をしている。
ゴーンという鐘の音と共に白く大きな神殿の扉が開かれ、わらわらと子どもたちは中へと入っていく。
礼拝堂の椅子にみんな行儀よく座らされ、大きな帽子をかぶった大人が前方中央へと進み小難しい話をする。
話を要約すると、親を助け、神を敬い、健やかに育つように。とのことだった。
話が終わると大きな本のようなものが鎖でつながれた木の台が台車に乗せられ中央までくる。
祝福はこの本の前で祈ることで終わる。
前世でもあったな、確かお宮参り?生まれてきたことを神様に報告するんだっけ?
そんなことを考えつつ順番に並ぶ。
祈りをささげた子に淡く金色の光がふわりとふりそそぐ。
なんだか神秘的な光景に見とれていたら、自分の番がやってきた。
大人の言葉を復唱して祈りをささげる。
「今日という日を神に感謝し、ここに祈りを捧げます。」
そう唱えた瞬間、虹色の光が私を包み込む。
「え?なにこれ…やだ、助けて!怖い!!」
先ほどまでとは違う光景にただただ、パニックになる。
ざわざわと大人たちが騒ぎ始める。
泣きじゃくる私を。大丈夫、大丈夫とアリーが優しく抱きしめてくれる。
優しい顔をしたお姉さんが奥の扉に連れて行ってくれて、水をのませてくれたところでやっと光が落ち着いた。
なぜかアリーは外に出るように言われ、小さな部屋に通される。
少し遅れて両親が部屋に迎えに来てくれて、ようやくほっとする。
コンコンとノックの音と共にさらに帽子の大きなおじいさんが入ってくる。
表情はとても穏やかで、優しそうな印象だった。
「サリーシャさんのご両親ですか?初めまして、私は司教のトゥーラッドと申します。お嬢様の事で申し上げたいことがあり、お呼びだていたしました。」
そういって司教は軽く会釈をする。
両親は慌てて頭をさげる。
「サラの事で、お話ですか?」
「えぇ…大変喜ばしいことなのですが、彼女は神に選ばれし子、聖女として祝福を受けました。」
「聖女…?ってなに?」
きょとんとする私とは反対に、複雑な表情を浮かべる両親
「ですから、彼女はこれから神殿で預かり聖女として暮らさなければなりません。」
え?いまなんて?
その言葉を聞いた母が息をのむ。父は母の肩を抱き反対の手で母の手を握る。
いや、まって。聖女ってあれよね?なんかすごい人なのよね?
てか平凡に暮らしたいんだけど?
これから私どうなるんですか!?
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