長い入院生活の終わりに

 わたしが目覚めてからあっという間に約二ヶ月が経った。

 しのや渚と陸人、それから大分……いや老け込んでなさすぎて逆に不気味だったお父さんとお母さんに、わたしは無事再会することができた。

 ……できたのだけれど、その後すぐに頭が痛くなるような量の検査や容態観察、わたしは特に問題なかったと思うんだけれど、リハビリなどをみっちりとこなす事になってしまった。

 その期間もお父さんはお仕事、渚と陸人も学校があるから、家族と会ってゆっくり話せるのは土日や年末年始の冬休み期間だけになってしまった。

 だから、わたしは手持ち沙汰な時間でひたすら勉強をしていたり、支給されていた端末で十年の間で連載が終わってしまった漫画や小説を読み漁ったり、映画やアニメを見てぐうたらと過ごしていた。

 我ながらそれでいいのかと思ってはいたけれど、……わたしに伏せられていた情報を考慮しても、今のわたしの立場や、コールドスリープが想定以上に延びた原因は滅茶苦茶ややこしいみたいで。

 特に延びてしまった原因、最初は何故かはぐらかせられてしまっていたから、無理矢理先生やお父さん達に問いただして聞いたけれど、……正直、聞かないほうがいい酷い理由だった。

 ……少なくとも、わたしの治療が問題がなく終わってしまっている以上、癇癪を起こして事態をややこしくする権利はないから、ひとまず受け流せたけれど。

 そして次の問題はこの後生活を送るにあたって、わたしが小学校、中学校のどちらに復帰するのかという事。

 コールドスリープしたのが五年生の二月で、目覚めたのは十二月。

 わたしとお父さんたちも、お医者さんたちもこれにはすごく頭を抱えてしまったけれど、わたしの勉強になどに支障がなく、本人がいいなら……という事で、春からは中学校に入る事になった。

 修学旅行とか楽しみだったんだけどな、まあ、しのと一緒に行けないのは覚悟していたけれどさ。

 ……なーんて辛気臭い話はそこまでにして、今日わたしが踏み出すのは待ちに待った十年後の世界。


「姉さん? 忘れ物はない?」

「大丈夫。元々わたしのものは殆どないし。服とかも新しく用意してもらってるやつだから」


 わたしと陸人はなんだかんだで長い? 付き合いだった病室を去る準備をしているけれど、ようやく家に帰れるんだ。

 とはいえ、体感二、三ヶ月だからものすごく懐かしめるかは分からないけれど。それに引っ越しもしてるから元の我が家ではないんだけどさ。


「わたしが置いていったもの、渚やお母さんが手入れしてくれたんだよね」

「ああ。それでも、物よっては買い替えたり、やむを得ず片付けたりしたらしいけれど。テレビ周辺は……特に何もなさそうだな」

「うん。なんかニュースとかは怖くて全く見てないし、テレビも触ってないから、そのへ辺りに忘れ物とかはないと思うよ?」

「……ん? 姉さん⁉︎ もしかして目覚めてから、何もニュースを見てないのか⁉︎」


 陸人がいきなり大きな声で叫んだから、つい身構えてしまったけれど、……だって色々な情報を受け入れられるかが不安だったし、勉強用の資料で大体のことは把握しているはずだから、そんなに過剰な心配をすることはないはずなのに。


「だってさ、結局十年経っても昔と同じくスマホはスマホのままみたいだし、車が空を飛んだり、海の中を走り始めたわけじゃないんだから大体一緒じゃん?」

「それはそうかもしれないけれど……、まだ時間があるし、少しだけテレビを見てみたら?」


 そう言って静止する間もなく、陸人はテレビの電源をつける。

 そして流れた映像は……、十年前にも見たことがあるワイドショーだった。


「……うわあ、全然進化してない」

「催促した俺が言うのも筋違いだろうけれど、それは中々酷い反応だと思うよ、姉さん」

「二人とも〜? もう準備出来てる?」


 そのままつい陸人と一緒にテレビを見ようとしていた瞬間、迎えに来てくれたお母さんが部屋に入ってきた。


「……うん! じゃあちょっと早いけれど行こっか!」


 こうしてなんだかんだで長い付き合いになってしまった病室のベッドを後にするのは……特に寂しくない。

 陸人は率先して重ための荷物を持ってくれたから、わたしは最後にテレビを消して病室を後にする。


 ……でもテレビも十年の内に人気が落ちたのだろうか、随分とお粗末だなあ。

 ちょっと見えただけのワイドショーのテロップ。有名アイドルが恋人をいないことを詐称していたことが発覚して謝罪だなんて。

 普通に考えて逆でしょ、逆。これじゃ未来永劫お笑い草だよ。

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