421.南方未開地では
デイラ聖教国における教典について話してくれた教師の男の話では他の人々も二度と戻りたくないと思ってるようであるが、家族の心配をしている人たちも数人はいるようだ。そういった人々の家族は計画的に救出しに行くことにするということが皇帝やファールとの話で基本方針と定まったが、危険思想の持ち主もいるかもしれないので、よくよく吟味しなければならないということになる。その家族たちの生活や逃げたいと思っているか否かを調査していく必要があるのだが、リゼが映像ウィンドウで見るしかないため、時間がかかるということは皇帝が濁して説明をして該当者に納得してもらった。逃げたくないのであれば、無理やり連れてくることも出来ないし、逃がそうとした人物が訪れてきたことを教会などに伝えられてしまう可能性もあるため注意をしなければならない。
リゼは大広間の隅に移動し、ルミアやエルーシアと共に現地の映像を見てみることにした。最初の街はすでに聖騎士が目を覚ましているようだが、呆然と立ち尽くしているようだ。土の家はまだ燃えており、人々は消えているが足跡はなく、訳が分からないといったところである。
「一体、奴らはどこに消えたんだ」
「奴らって? モンスターのことか? それともゴミどものことか?」
「いや、それはな――」
「お前たち、落ち着け。気にするべきは両方だが、何を騒ごうが消えたという事実は変わらないし、どうしようもない。しかし、状況を鑑みると……あのモンスターたちは土の中から出てきたようであるし、ゴミ共は引きずり込まれたのかもしれんな」
聖騎士たちは神妙に会話をしていた。すると隊長も目を覚ましたのか起き上がると辺りを歩き回ってから口を開く。いつの間にか聖騎士は彼の近くに集合している。
「確かに土の中に連れて行かれた可能性はある……。奴らはロプタス様への生贄だったというのに、それが消えたとなれば我々がその代わりとならなければなるまい。三十人だったか。我々では人数的に足りないがな……」
「隊長、承知いたしました!」
「ロプタス様のためであれば、喜んで身を捧げましょうぞ。これからどうされますか?」
「まずは港へ向かうぞ。この償いをしなければならないが、まずは即座に報告をしなければ。今後の流れは報告してみないとわからんが、街の再建をした後にロプタス様の生贄となるかもしれないし、すぐに生贄になるかもしれない。そこは法皇猊下のご意向次第だ。直接の謁見は叶わないため、神官様にまずは報告である」
そこで聖騎士が「隊長! 二名ほど脱走しました、いかがされますか!?」と叫んでくる。
隊長は「捕らえろ!」と追うように指示をすると聖騎士たちは武器を持ち直し、逃亡した二名を追いかけ始めるのだった。逃亡した二名は崩壊した石の壁を何とか乗り越えてスキルや魔法を使って追いかけてくる聖騎士に攻撃をしながら走り続ける。しかし、隊長が光属性魔法を使って片足を貫くと動けなくなった。すると隊長は「逃げたということは、何か知っているのか、貴様らは」と聞くが二人は「死にたくない!」というだけで埒が明かなかった。隊長は確実に逃げられないようにするつもりなのか、無事な方の足にも光属性魔法を詠唱して貫くと、忌々しげに口を開く。
「今回のことはこやつらが何か関与しているかもしれない。お前たち、こやつらの武器を取り上げ、甲冑を外し、拘束しておけ。しかし……街はモンスターが破壊し、生贄たちについてもモンスターが殺して地中に引きずり込んだとして、こやつらがどのようにそんなことに関与できるのかという疑問は残るな……。いや、冷静に考えると、どう考えても関与は不可能だ。あれは人がどうこう出来るものではない。ということはこやつらは単純に恐怖から逃亡を図っただけか。ロプタス様の生贄になるのが嫌だということだな? この不届き者めが!!」
隊長は手下が彼らの武器を奪い、甲冑を外したところで腹に蹴りを入れた。そして、「お前、たちの、ような、くずが、聖騎士とは、な! この、罪人、が!」と蹴り続ける。それから「はぁ……はぁ……」と荒い呼吸を深呼吸をして整えると笑い出した。
「貴様らもあの生贄たちと同じように今後は扱われるだろう。自分たちも散々してきていたのだから、信仰心が薄い者どもがどうなるかは分かるだろう? 罪人は正しく教育しなければなるまい」
「う……どうか、お助けを……」
「お願いします…………」
「たわけが! お前たちの家族も同じように罪人とする! ルーフ様を裏切ろうとした者はその家族も報いを受けるのだ」
二人の聖騎士は涙を流しているようだが、隊長は「弱き者は光を求めない」と光の神ルーフによる神託を呟いた後、「教典にはこうある。弱き者は光を求めない。つまり、ルーフ様を求めない。それは正すべき罪人であり、そのような者を生み、育てた者たちや罪人と共に育った兄弟も等しく罪人なのである」と法皇が加筆した教典を大声で話すと他の聖騎士たちは拍手をする。それから逃げ出そうとした罪人たちの両手を鎖で縛り付けると、引きずりながら港を目指し始めた。
リゼとルミアは「あっ……」と顔を見合わせた。その後、他の街も見てみるが同じような状況である。隊長らしき人物はロプタスの生贄になるべきだと話していた。
ただし、最後の街は砦側の聖騎士と街側の聖騎士で責任をなすりつけるような口論が起き、武器を構え、対峙している。一触即発な状況だ。しかし、若い聖騎士の一人が「神が作り出した命を争いにより無駄にするのが人間である」と光の神ルーフがかつて出した神託を呟くと瞬時に争いが終了した。彼らは剣を構えた自分を殴りつけたあとに、「救済を!」と叫び歓声を上げている。どうやらロプタスの生贄になりたいようだ。
するとルミアが溜息を付く。
「リゼ、この人たち……話が一切通じなさそうだね……」
「ですね……」
「私も子供の頃は教典の話とかを聞かされたけど、怖いね……。あの頃は良く分かってなかったけど、絶対におかしいと思う。少なくとも法皇が追記する解釈的なところとか、神託の内容と全然違ったりするし。あ、ちなみにゲイルにはメッセージを送ってみたんだけど、南方未開地に関することは知らないって。神官によっても南方未開地に関わっているタイプとそうではないタイプがいるらしいよ」
「恐らくは法皇という方に近しい一部の方だけなのでしょうね。ちょっと想像以上にデイラ聖教国って危ない国なのかなと思いましたね……」
二人はあまりにも理解出来ない人たちであり、言葉が出てこなくなってしまったが、特にバレていないということが分かり、ヘルムートに報告した。
「実はな、ルミアは知っていると思うが……以前はデイラ聖教国にわしの部下を一部入りこませて情報収集をさせていたことがある。酒場を切り盛りさせてな。しかし、南方未開地については詳細が一切不明であった。よって、今回のことは実態調査的な側面でも非常に貴重な情報を得ることが出来たし、ランドル子爵には感謝しかない。それに、部下を撤退させてからはあの国の情報が殆ど入ってこなかった。だが、色々と話しを聞いて今も昔も本土側は変わらないということが良くわかった。また今度ゆっくり話そうではないか」
流石に皇帝であるヘルムートがずっと城を留守にするわけにもいかないため、彼は少し感慨深げに話したのち、城に帰っていく。デイラ聖教国にファールやその仲間を配置していたことは把握していた情報だ。彼らがルミアやその妹を救出した映像は以前に見たことがある。
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