420.聖戦と救済
リゼは話を近くで聞いていて(ブルガテド帝国で大きく話題になったことの調査はあれよね、ロプタスの巫女を作り出すための実験をしていたから、それがバレたか否かの確認でしょうね……戻ってこないデイラ聖教国の神官たちがいるから、何かあったのかということを調査しているのだと思う。あと帰らなかったブルガテドやゼフティアの方々はロプタスの生贄にされたのでしょうね……)と理解した。また、それから少し南方未開地での待遇について探検家の男が話していたが、南方未開地は法皇によって支配されており、入れるのは聖騎士と法皇に従う業者のみであることだ。また、街の人々への暴力は正しい信仰を身に着けさせるために必要であるため、積極的に行うべきだと法皇が方針を聖騎士たちに伝えており、日常的に行われていたとのことである。
冒険者はさらに話を続けるようだ。
「そういえば、デイラ聖教国には明確に脅威としている国があるようです。南方未開地のデイラ聖教国が支配している地域には先住民というか……元々住んでいる人たちがいたそうです。聖騎士たちは先住民と言っていました。その人たちのほとんどは捕えられて大抵は強制労働をさせられていたようですが、あるタイミングで全員が連れて行かれて帰ってこなかったらしいです。だいぶ昔のことのようですけどね。私も死んでしまった高齢のデイラ聖教国人から聞きました。その方も伝え聞いた話らしいですが。その先住民たちは南方未開地のさらに南の方にある国と交易をしていたらしく、一部はそちら方面に逃げていったようですね。そして、逃げた人々はその国で受け入れられて一定の地位を築くようになります。その者たちはかつての故郷を取り戻したいと考えているようで、デイラ聖教国としてはその国が攻めてきた時に対抗できるように南側の砦には聖騎士をそれなりに配置しているようです。その国はデルナリ国などと奴隷貿易をしているようでして、奴隷がデルナリ国を通じてケラヴノス帝国に売られているという話も聞いたことがあります。よって、先住民が交易していたというその国もあまり良い国ではないでしょうね」
その国についてリゼは知っている。超上級ダンジョンがある国であり、いつかは行かなければならない国だ。どうやら過去の経緯もあり、デイラ聖教国とは敵対関係にあるようである。
それからも彼はこの十年で知り得たデイラ聖教国についての話を沢山してくれた。彼は外国人であるため、デイラ聖教国人と違って第三者的な視点でデイラ聖教国についてを見ることが出来ており、かなり参考になったのか皇帝は感謝しているようだ。
近くにいたルミアはつらそうにしている。リゼは「大丈夫ですか……?」と声をかけると、ルミアは溜息をついてリゼにだけ聞こえるように話してきた。
「あのさ、私ってロプタスの巫女にならなかったらきっと何の疑問もなく普通に暮らしていたと思うんだよね。でも、裏では何もしていない人たちが働かされていて……その元凶が法皇……私の祖父だと思うとなんともね……」
「ルミアの家って代々法皇なのですか?」
「少なくともここ五百年くらいはそうだと思う」
「そうですか……でも、なかなか気づくことが難しいと思います。南方未開地に行かなければこういうことが行われているとはわからないですし……気付いたその日に救出に行ったので、なんと言えばよいのかわからないのですが、正しいことをしたのかと思います……!」
リゼが言葉をかけるとルミアは「うん……ロプタスを倒したらあの国をきちんとした普通の国にしたいと感じた……」と呟いていた。過激な人物が多いデイラ聖教国を変えていくのは難しいかもしれないが、普通の庶民も当然いるはずだ。そういったところから少しずつ変えていくしかないだろう。
救出された人々は順番に体を流しに行き、また大広間に戻ってきていた。彼らは長年水を浴びることさえ許されていなかったようで、非常に満足げな表情をしている。その中で皇帝に話がある人物がいた。二年前に連れて来られたというデイラ聖教国のその人物は皇帝に本土の実態を話すようで、リゼたちも話を聞くことにする。
「ブルガテド帝国の皇帝陛下、デイラ聖教国についてどれくらいの知識をお持ちか分かりませんが、本土の実態についてお話します。結論から申しますと、一部の権力を持った者たちが好きなように支配しています。まず私は教師です。子どもたちに教養をつけさせるための学校がありまして、穏やかな日々を送っていました。しかし、ある時、比較的金持ちの子が試験で良くない結果でしたので、その話を面談でしましてね。どうやらその話が彼らの気に触ったのでしょう。光の神ルーフ様への教義も教えることになるのですが、その教え方に問題があると次の日に聖騎士がやってきまして、そのまま拘束されてあそこにつれて行かれました。つまり、一部の金持ちが聖騎士とつながっていて、気に入らない人物については罪をこじつけで作って南方未開地へ送り込むということもあるのです。南方未開地送りと我々は呼んでいますが、送るか否かは聖騎士と一部の神官に権限があります」
「情報感謝である。デイラ聖教国の一般的な民衆は光の神ルーフ様を信仰していると思うが、他の神々や他の国についてどのように思っているのだ? 何を教えているのか教えてもらいたい」
話を聞いた皇帝が質問した。
「おっしゃるとおりです。ルーフ様を信仰していますね。他の神々については……醜い者たちに信仰されている神々という扱いで、神そのものに対しての敵対意識のようなものはありません。そこら辺については最初期の教典では何も書かれていなかったのですが、教典は神託があればその内容と法皇による解釈が加筆されていきますし、年月が経つうちに様々な見直しがされていくものです。よって、現状の教典にはお話させていただいたような記述がございます。ミリア大帝国からゼフティア王国が独立し、ブルガテド帝国が独立して大規模な戦争になった際に『神が作り出した命を争いにより無駄にするのが人間である』という神託がありました。これは時の法皇によって、『戦争を起こす者たち、その者たちの信仰は偽物である。ルーフ様以外の神々は争いを好む醜き人間によって、都合よく信仰されている悲しき神々だ。我々はそんな世を正しい方向へと正さなければならない。どのような手段を用いようとも達成する必要があり、これは聖戦である。見込みのない者たちの救済は不可能であり、その生命を出来る限り早くこの世から消滅させていかなければならない。これも聖戦の一部と認識せよ』という解釈がなされ、教典に記載されています。また、ロプタス様が顕現されてからは、『ロプタス様への生贄は過ちをおかしている人間が救済される唯一の方法である。救済を受けるべき者はロプタス様に捧げるのだ』という一節も追加されております。つまりですね、突き詰めていくと……他国の者を殺すのは聖戦で、誰であろうとロプタス様の生贄にすることは救済であり、人間にとっての最高の栄誉であるということになりますね。教会も派閥によってその解釈が若干異なりますが……。基本的にこういった内容を民衆は信じています。しかし、私は南方未開地に送られて、結局のところ法皇たちも神託を都合よく解釈しており、聖戦やら救済やらと言って自分たちの行いを正当化しているのではないかと疑問を持ちました。南方未開地での拷問はひどかったですから。私はルーフ様を深く信じていたにも関わらず、暴力の数々を受けましたからね……。明らかに教典の記述に反しています。結局、都合よく解釈して自分たちは権力を持ち、富を蓄えていると結論付けました。これも南方未開地に送られなければ分からなかったでしょうし、本土の者たちは聖戦や救済について信じています。となると、他国の皆様はあの国には近づくべきではないです。聖戦と称して一般的な民衆から刺されたりする可能性がありますし、拉致されてロプタス様の生贄になる可能性もあります。南方未開地送りにされた人々は、教会などについて疑問を持ち、二度とデイラ聖教国には戻りたくないと思っていますよ。あそこは法皇や神官、聖騎士、一部の金持ち以外にとっては地獄そのものですから」
長々と語ってくれたが、デイラ聖教国では人々が常に一定の恐怖心を抱きながら過ごしているようである。また、神託については時の法皇が教典にその内容と解釈を追記して行く形のようで、デイラ聖教国がなすことは全て問題がないことにされているようだ。リゼとしては(これはロプタス討伐は一筋縄ではいかないでしょうね……)と思うのだった。そこまでの道のりが険しいからだ。いきなり民衆に襲われるような可能性があることになる。
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