67.ダンスパーティー、そして

 ひとまず四人でお茶会会場を後にして、ダンスパーティーの会場付近まで移動する。

 途中、ローラと魔法の話などで盛り上がったところ、アデールとコーネリアは驚いていた。

 なんだかんだかなり打ち解けたため、名前は呼び捨てで呼び合うことにした。


「親にはうまく言っておきますので、気にしないでください!」

「わたくしもです。リゼに迷惑がかからないようにうまく話しておきます」

「私はルイ派を抜けて中立派になるように話してみて、あとは母に色々と聞いてみることにするわ!」


 三人は会場へと入っていった。


 リゼは入口でアンドレを待つ必要があるようで、待機する。

 どうやら全員が入場した後に注目を浴びながら入場する形式らしい。その演出を聞かされて、目眩がしてきた。

 入口で待っていると、会場入り前のエリアスが声をかけてくる。


「リゼ、後で話せますか?」

「もちろんです、エル。お久しぶりですね。あとこのブレスレット、ありがとうございました!」


 ブレスレッドを見せながら感謝を伝える。エリアスは嬉しそうな表情になる。

 なお、今回はネックレスをつけているため、レーシアなどはアイテムボックスの中だ。


「着けてくれているんですね。ありがとう」

「ダンジョン攻略でこのブレスレットが助けてくれました。感謝してもしきれません……!」

「とても嬉しいです。リゼの役に立ててよかったですよ。それではまた!」


 エリアスは足早に会場へと入っていくのだった。そんなエリアスを見送りつつ、リゼはこの後のダンスについて考える。


(えっと、この後、アンドレと踊るのよね……もうさっきのことで目立ちすぎているからなるようになれ……という気持ち……いまもチラチラと私を見ながらみんな入場していくし……)


 少ししてアンドレがリゼを迎えにくる。ヘルマンたちと話していて時間がかかったようだ。


「今日はダンスのお相手を受けてくれてありがとう。あれからひたすら練習したよ」

「実は私も三度目なので、ほとんど踊ったことがないです。なので、うまく踊れるかどうか……」

「大丈夫。ダンジョン攻略よりはきっと簡単だよ」


 アンドレがウインクしながら茶化してくる。


「ふふ、確かにそれもそうですね……!」

「そうだ。このティアラを…………うん、似合ってるね。それじゃ行こうか」

「えっ!」


 ティアラをつけられて驚くリゼであるが全員の入場がすんだようだ。一度ここで扉が閉められた。

 なお、ドレスや靴、ネックレスはティアラをつけることで完成形となったのか、優美な印象に仕上がった。

 王族であるジェレミーやルイは別の入口から入場したのか見かけることはなかった。緊張してくるリゼだが、そんな彼女のことはつゆ知らず、扉が開かれた。

 アンドレが腕を出してきたので、腕を組んで会場入りをする。 

 二人が入場すると拍手で迎えられる。ティアラは王族から贈られた場合にのみつけることが許されるため、ティアラを見て、一部の貴族令嬢は眉をひそめた。

 とにかく非常に注目を浴びる演出だ。そして会場の中央でアンドレが止まったため、同じくそこで立ち止まった。

 そして、ゼフティア王による「二人に祝福を」といった謎の挨拶の後、曲の演奏が始まるのだった。ゆったりとしているが、優雅な曲だ。この曲は王が許したときのみ演奏されるゼフティア王国にとっては重要な曲であったはずだ。


「一曲いかがですか? お姫様」

「お姫様って……でも、ふふ。喜んで」


 アンドレはリゼに笑顔を向けてきた。二人は踊りを開始する。


「どうだろう?」

「バッチリです」


 うまく踊れているか気になるアンドレ。自分も自信はないが、ひとまず大きな失敗はしていないリゼは少し安心しつつ、アンドレを褒めた。


「それにしても不思議だよ。まさか美術館でたまたま見かけた子とこうして王宮で踊ってるなんて」

「それもそうですね……そういえばあの絵、畢生ひっせいですが、ありがとうございました。部屋に飾りました」

「嬉しいよ。リゼに描いてもらった絵も飾らせてもらうよ。リゼの絵は、なんていうか少し明るいんだよね。色使いが。美術館で話した通り、大好きだよ。後世に母の生きざまを残すにはリゼの画法が良いなと思ってお願いしたんだけど、本当に正解だった」


 たまたま美術館で知り合った二人がこうして注目を集めながら踊っているというのもなかなかに珍しいことであるが、自然と絵の話へとシフトする。

 なお、一曲終わるまでは他の人たちは踊らない演出のようだ。とにかく目立たせるような構成となっている。アンドレのお披露目会を開けなかったため、せめてものゼフティア王からの罪滅ぼしなのかもしれない。


「舞台を演じるテレーゼさんを想像して描いてみました。肖像画の方は、テレーゼさんがとてもお優しい方なので、そういった雰囲気が伝わっていると嬉しいです」

「ありがとう。伝わっているよ。とても素晴らしい作品だと思う」

「描いたかいがあります」


 そうして一曲目が終わり、拍手が巻き起こるのだった。続いてニ曲目からは他の貴族も踊り始める。三曲目まで踊ったリゼだったが、アンドレをゼフティア王が貴族に紹介するということで休憩することになるのであった。ものすごい人だかりが出来ているため、しばらく時間がかかるだろう。

 リゼは約束のために、少し水分補給をした後に一口サイズのチョコレートケーキだけいただいて、テラスを目指す。


(さて、休憩にしましょう……今日は色々あって少し疲れが出てきたかも……)


 テラスに向かいながら、会場をキョロキョロと見渡す。


「ジェレミーは……テラスかな?」

「ジェレミー様はすでにテラスにいらっしゃいます」


 後ろから声がしてビクッとするが、リゼへの伝言を頼まれたのかもしれない。伝言を伝えてくれた彼は、料理を片付けながら目線を合わせないように言ってきたようだ。

 一度廊下に出てから入ることができるため、会場を出てテラスへと向かう。

 テラスにつくと、城壁にもたれかかりながら夜空を見上げているジェレミーが居た。


「遅れてしまい申し訳ないです」

「大丈夫だよ~」


 ジェレミーは問題ないというような表情をしている。


「そういえば、普通に広間で誰かと踊ったりはしたのですか?」

「え? そんなの面倒だからするわけないよー」

「そうなのですね……でも、踊らないとか、許されるのですか……」

「当然さ。僕だからね」


 誰とも踊らなかったというジェレミーに苦笑する。


「さて、一曲いかがですか、リゼ」


 普段とは異なる丁寧な誘い文句に驚くリゼであるが手を取る。

 もしかしたらずっと待っていたのだろうか、手が冷たい。


「喜んで」

「曲の音は聞こえにくいけど、こういうのもありだよね〜」


 曲調に合わせて踊り始める二人。流石に毎日のように会っているだけあって息はぴったりだ。


「ふーん、なかなかうまいじゃない」

「そうですか? 踊り慣れていそうなジェレミーにそう言ってもらえると自信がつきますね」


 一番踊りやすい相手がジェレミーかもしれない。なんとなく動きが分かるのだ。


「踊り慣れてはいないよ。ま、なぜかうまく踊れてるけどね。それで、アンドレのあの長い告白の感想は?」

「予想外だったので驚きましたね……」

「エルは縁談申し込みという形ではあったけど、あれも告白みたいなものだから二度目かぁ。リゼも人気者になったじゃない〜」

「そう言われると少し恥ずかしくなってきますね……ジェレミーは告白されたりしないんですか?」


 リゼは話をそらすためにジェレミーに質問をする。


「もちろん所謂いわゆるジェレミー派のご令嬢たちから沢山されるよ〜。まあ僕の地位だけを見て本当の僕を見ているわけではないからね。全部断ってるけどね。アンドレの告白はひとまず保留で学園後に返事をするのかな?」

「そうですね……お返事はしないといけませんからね。エルのこともありますし、そこは学園入学後になるのかなとは思います。そのことをアンドレに話さないといけないですよね……」

「ちなみに、学園入学後はどのように恋愛をするつもりなのかな?」

「うーん、それは……もっとお互いを知る必要がありますね……」

「というと?」


 ジェレミーは悩むリゼに質問する。どういうことなのか聞いておきたいのかもしれない。


「もっとお互いを知って、同じ方向を向いて共に歩んでいける方なのか……などを考える感じです。ちょっとうまく説明出来ないのですが……。まだよく分からないのですが、エルやアンドレなら大丈夫だとは思いますけれど」

「そう。なんだかんだ彼らは良い奴そうだし、問題ないと判断してしまいそうだよね。まずいなそれは。ラウルだけかと思っていたらどんどんライバルが増えてきちゃったから言わせてもらうね」

「はい?」


 リゼはいつもと異なり、真面目な表情になるジェレミーを見てきょとんとするしかない。踊るのをやめるとリゼを引き寄せて、静かに耳元で宣言した。


「僕もリゼのこと、好きだからね」

「えっ? ……ジェレミーが私を……ですか?」


 驚きの表情でジェレミーを見つめる。ジェレミーは溜息をついて語りだす。


「そう。言わないと気づいてくれなさそうだからさぁ。こう見えてリゼのことが大好きっていうのは、周りは気づいてくれていると思うんだけどね〜。リゼだけだよ、ここまで気づかないのは」

「えっ、待ってください。好きというのは友情とかではなく……」


 何かの間違いかもしれない、と考えてリゼは質問する。


「そうだよ。もう魔法友達は超えた恋人になりたいという方の好き、ね。ほら心臓の鼓動を確認してみてよ。ドキドキしてるでしょう」

「そ、そうですね……」


 ジェレミーはリゼの手を心臓のところに持ってくる。確かにドキドキが伝わってくる。


「テラスに来た時から、いやリゼと会っているときはずっとこんな感じ。分かってくれた?」


(どうしてこうなるのかと思えてきてしまう……私よりも全然良い人は沢山いるでしょう……と思うのに……)


 まったく予期していなかった事態に動揺してしまう。


「……そうですか………………エルにアンドレ、そしてジェレミー……なぜ私なのかと複雑です……もちろんその気持ちはありがたいことなのですが……」

「ぶっちゃけて良いかなぁ……」


 もはや何を聞いても驚かないだろうと少し投げやりな形でリゼは呟く。


「あ、はい。もう何でもカミングアウトしてください……」

「どこからリゼのことを好きになったと思う?」

「うーん。まったく思い当たる節が……ジェレミーとは楽しく練習したり、剣術大会に出たり……友人としての楽しい日々だったかなと……」

「やっぱりそういう認識か。まあ言ってしまうと初めて会った日の一目惚れなんだよね。庭園を歩いていたらリゼがいてね。わりと可愛い子だなぁと、でもどうせ他の貴族と同じでつまらないやつなんだろうなぁと思いながらもどういう子なのかと少し後をつけてみたんだ。まさかの魔法を詠唱したじゃない。もう興奮して話かけてしまったよね。で、別れてからドキドキし始めてね。裏で公爵令嬢とルイに挨拶をするだけになっていたはずのお披露目会でもう一度自分の気持ちを確認するために乱入したってわけ。ドキドキをおさえながら、リゼとどう接してよいか分からなかったから、あんな感じになってしまったよね」


 夜空を見上げながらあの日を思い出してジェレミーは語りだす。


「あの日……からでしたか……まさかそんな経緯があったとは」

「その後、パーティーでの反応もなかなか僕が王子だと分かった上で辛辣で面白かったしね」

「思い返すと失礼なことを言ってしまったかもですね……」

「まあそういうことで、ここで言っておかないとエルやアンドレのことばかり気にしそうだからね。僕のことも頭の片隅に置いておいて貰わないといけないから言わせてもらったよ。気にしてもらわないとね。流石にこのままいくと既定路線と思われるアンドレとゴールインしそうだしね。それは僕としては困るってわけ」


 随分とすっきりとした表情のジェレミーとは裏腹に、リゼは困惑続きで疲れ気味だ。


「いきなりで驚きました……」

「そうかなぁ。ペンダントとかプレゼントしたじゃない〜」

「あれはお守りみたいなものなのかと……」

「そんな簡単に国宝級のプレゼントはできないよ、流石の僕でも」


 あっけらかんと言うが、リゼは目を丸くするしかない。


「国宝級のものなのですか?」

「そうだよ。とても価値の高いものだねー。これを宝物庫から僕のものにしてリゼにプレゼントするのに母上に話をしたり、他の手続きも大変だったなぁ」

「そんな苦労が……でも助かりました。レーシアがなければメリサンドを倒せたとは思えませんし……ノーマルスケルトンの剣だけでしたら、メリサンドを倒しきれずにアクアヴォルテックスをまた発動されてやられていたかと思います……ありがとうございました、ジェレミー」


 もう一度お礼を言っておく。ジェレミーやエリアスには感謝してもしきれない。


「いいよいいよ、大した苦労ではないしね。それで、今後は僕のことも意識してくれるかなぁ」

「流石に……そうですね。まだちょっとわからないですが……」

「こっちばかり意識していたんだからよかったなぁ」

「はぁ……どうしてこうなりますか……」


 度重なる告白、攻略キャラとの接近、リゼとしては気苦労しかない。ジェレミーはサブキャラではあるが、物語通りに進むのであれば、彼と近しい存在でいればいるほど、王位継承権問題で危険に巻き込まれるのは確実だ。


「じっくり悩めばいいさ。おっと、次のお客様が来たみたいだから僕は広間に戻るね〜。返事は学園入学後で良いからね〜」

「ありがとうございます。えっと、お客様、ですか?」


 ジェレミーはリゼの事情を把握しているので返事は学園でということだけを話すと、さっさとテラスからいなくなってしまう。

 そんな彼は緊張していたのか小刻みに震えていたが、大きく息を吸い込むと一度うなずいた。

 そして、いつものように余裕のある表情を浮かべ、会場へと入るのだった。

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