66.お茶会へ

 式典のあとはお茶会となるようで、派閥ごとに幾つかのテーブルが割り当てられていた。行きたくないためどうしようかとまごついていると、声がかかった。エリアナのお茶会で仲良くなったローラ=エレミー・スプリングだ。


「お久しぶりね、リゼ。王子のお言葉には驚いてしまったわね。それに大公のお話も。きっとふわふわした気持ちだと思うけれど、大丈夫?」

「お久しぶりです、ローラ……なんだか驚いてしまって現実感がないです……」

「そうよね……それにしてもエリアナ嬢が取り仕切るお茶会には参加したくないわね。あちらの空いているテーブルで二人で楽しむのはどうかしら?」

「是非! お茶会に楽しいイメージがないのでこれを機に払拭したいです……!」


 リゼは空いている中立派付近のテーブルで二人のお茶会を始めることにした。

 紅茶は色々と選べるようだが、今回はブルガテド帝国からも茶葉が提供されているようで、リゼのお気に入りであるため、そちらにしておいた。控えていた王宮の使用人が紅茶のセットを運んできてくれる。


「それで、何があったのかしら。なんだかすごいことになっているようだけれど」

「実は劇場を見るついでに美術館に行きまして……」


 カイもといアンドレとの出会いから先日のダンジョン事件までの話をして聞かせた。ローラは黙って聞いていたが、驚きの声を上げた。


「ひょんな出会いから命がけで共闘して、あの告白……とてもロマンチックね。それにしても中級ダンジョンを二人で……しかも強敵であるメリサンドを倒されたなんて。すごいわ……今度、一緒に練習したいわね」

「それはもちろんです!」

「ふふ、ありがとう。嬉しいわ。それにしても、一躍有名人ね。注目の的であるアンドレ王子だけれど、ブルガテド帝国の強い後ろ盾が有り、仮にゼフティア王になれなかったとしても、帝国の大公の座を受け継ぐことができるわけで。そんな王子から公開告白をされたんですもの。大変なことよね。そうそう、きっと招待状が届いた時点で帝国の後ろ盾があるという話を知らなかったとしても、アンドレ王子の派閥を作ろうと考えていた中立派貴族がいたはずで、縁談をできればと考えていた人たちもいるはずよ。今回の公開告白を聞いた限り、アンドレ王子はリゼ、あなた以外を選ぶなんてことはないでしょうから、縁談の話は諦めて、なんとかあなたの家系を派閥に取り込んで活気づけていきたいという方向に舵を切るでしょうね」

「そうですね……有り得そうです……」


 とんでもないことになってしまったと内心で思うリゼだ。


(はぁ。どうすれば良いのかな。アンドレ派という派閥ができたら、私がルイ派のエリアナやジェレミー派のオフェリー嬢みたいな立場になってしまうということ。要するに王子の相手候補として派閥を盛り上げていくみたいな。そういう派閥とはなんとか関わらないようにしないと……。最善策はアンドレと距離を置くことなのだけれど、仲良くなってしまったからそれは難しい……)


 一旦、その話は切り上げて魔法の話などでしばらくお茶会を楽しんでいたが、ふと周りを見回してみると、ルイ派やジェレミー派、中立派のテーブルからチラチラと見られてることに気がついた。

 あまり他のテーブルには目を向けないように意識をしていると、二人の貴族令嬢が話しかけてきた。


「はじめまして、ランドル伯爵令嬢。ご一緒しても宜しいでしょうか?」

「わたくしも是非お願いしたいです」

「あっ、はい。ちょうど二席空いておりますので、どうぞ……」


 ローラのことを見ると、意味深に頷いてきた。一体、なんだろうか。社交界の事情に詳しくないリゼはローラの頷きの意味を察することは出来なかった。


「アデール・マシア、中央領域、中立派の子爵家です! 王国、帝国に商売ネットワークがありますから色々とご活用ください。以後お見知りおきを!」

「はじめまして、わたくしはコーネリア=ルアン・ラングロワ、侯爵家です。地方領域の聖ルキシア国のちょうど北側に領地があります。いままでは中立派の中でも独立していて他の家柄との交流はほとんどありませんでした。しかし、これを機に他の家柄の方々と仲良くするのもありかと思いまして。貴族階級の違いなどは完全に気にしないでいただけるとありがたいです。あなたは帝国の爵位をお持ちの貴族なのですから」

「えっと……私はリゼ=プリムローズ・ランドルです。その、お二人共、宜しくお願いします……?」


 なぜいきなり色々と話をされているのかよく分からないが、ここでローラが口を開いた。


「私はローラ=エレミー・スプリング。リゼの友人でルイ派貴族よ。おそらく、ルイ派からは抜けると思いますから、これから宜しくお願いしますね。お二人にも色々と事情がありそうね? それにしても、きっとこれから社交界は荒れてくるわね……アンドレ王子を担ぐ勢力と、既存勢力であるルイ派とジェレミー派の三つ巴みつどもえよ……いえ、中立派もいるので、四大勢力の争いかしらね」

「私、どこにも属さない中立派が良いです……その中でも王位継承権問題とは離れたところが良いですね……」

「リゼはきっとアンドレ派から引き入れようと狙われるでしょうね。でもリゼは意思が硬そうだから大丈夫だと思うわ。と言っても社交界で戦いを仕掛けられたら魔法や剣術とはまた違うベクトルの勝負になるわね。でも、任せて! 私の母はかつて社交界の花と呼ばれていたのよ。色々と聞いてみるわね!」


 リゼとしては剣術や魔法で勝負をしたいところだが、貴族令嬢の世界はそうもいかない。恥をかかせようとしてきたりと、闇がある。せっかくなので学ばせていただこうかと考え始めた。とくに学んで損はないからだ。それにリゼがどう思おうが、社交界で貶められたら、リゼの相手として見られる可能性が高いアンドレの印象にも影響が出てきてしまうかもしれない。巻き込まれたくはないだろうが、凛としている必要がある。


「ありがとうございます、ローラ! 皆さんも色々と教えてください!」


 リゼは現状、どのようなことに発展していくのかよく分かっていないため、純粋にお願いをしてみた。

 それを聞いて、アデールとコーネリアは目を見合わせた。

 まずアデールがいきなり真相を暴露してきた。


「ランドル伯爵令嬢様! 申し訳ありません! 実のところ、親から話しかけてくるようにと言われました。いきなり話しかけられて困惑されたかと思います。私自身はアンドレ王子派ですとか、そういう派閥にまったく興味がありません。どちらかというと王子から告白されて、驚きながらアンドレ王子を見つめていたランドル伯爵令嬢様にキュンとしてしまいました。なので、話し掛けるように言われて、拒否せずに話しかけてしまったのです……!」

「アデール嬢、あなたもでしたか。実は私もで、親がうるさいので話しかけました……。一人でいる方が落ち着くので、むしろ派閥などといった話は怖いですし……少しお茶をいただいたら帰らせていただこうかと考えていまして。でもお優しそうな方だと分かって少しお話してみたくなりました」


 ようやくリゼは察し始めていた。この二人はおそらくアンドレ派という派閥を作る際の先駆者になるように親から言われたのだろう。派閥で優位な立ち位置を確保したいのかもしれない。

 申し訳なさそうにする二人に改めて挨拶をすることにした。


「どういうことなのか分かりました。真実を教えていただき、ありがとうございます。これも何かの縁ですし、普通に仲良くしていただければと思います。私の趣味は剣術と魔法、あと絵画です!」

「嬉しいです! ダンジョンをクリアされたんですよね。私が読んでいる本にもたまに出てくるのですが、恐ろしい所だと書かれていますので尊敬です!」

「わたくしも是非、お友達になりたいです。普段は一人お茶会を楽しんでいるのですが、こうして同年代の方々とお話するのも楽しいと感じました。それにしても、そちらのドレス、素敵ですね。流行にあまり詳しくないわたくしでも惹かれてしまいます」

「お二人とも、ありがとうございます! 実はこれはアンドレ王子からいただいて……」

 

 二人は「とてもお似合いです!」だとか「王子からとても大事にされているのですね……!」とだいぶ感情が高まっていた。なんだかんだ言ってそういうシチュエーションや話が好きなのかもしれない。

 アデールの趣味は読書、コーネリアの趣味は家での一人お茶会とのことだ。

 その後、ローラが改めて自己紹介をして、趣味は魔法だという話をした。

 エリアナの趣味が宝石類などのアクセサリーや流行のドレスを買い集めることだというのは有名な話で、あとは平民の悪口だったので、だいぶ温度差を感じたリゼであった。取り巻きにいたっては扇を投げつけてくるイメージしかない。

 しばらく話をしていると、ダンスパーティー会場に移動する時間になっていたため、席を立った。

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