58.フォルティア

ルークへの質問が一段落したところでミカルが前に進み出てきた。


「わしも何かやるかの」

「え~、ミカルはあげすぎだよ。アイテムボックスとか有効活用しているみたいだしさ」

「良いんじゃ良いんじゃ! わしも何かあげるんじゃ!」

「あっ、そう……まあ、止めはしないけどね? ちなみにリゼ=プリムローズ・ランドル。加護の付与は人の転生を管理している私が同席してる場合ではないと付与できないんだよね。これは豆知識だよ。だから他の神々がよく連絡してきて困ってて。人間に加護をつけてみたいとか煩いんだ。どうしてもと言うから千年前くらいに一人につけさせてあげてんだけどさ」

「あっ、そうなのですね……」


 神にも色々な事情があるらしい。おほんとミカルが咳払いする。


「ではわしも加護を『小』から『大』にしてあげるかの。詳細はステータスウィンドウで確認するのじゃ。それと、『交換チケット』というものを三枚ほど授けよう。お前さんも知っての通り『ミルディンの奇跡』もアイテムボックスに入れておくぞい。わしの作ったアイテムボックスに影響を及ぼすダンジョンなど許せるわけがないから対抗して作ったのが『ミルディンの奇跡』じゃ。それと特別なウィンドウシステムたちをあげよう。いまはまだ作り途中のウィンドウシステムもいずれ」

「多い、多いよ、ミカル。とりあえず最後の言いかけたところまでは許す。後はダメだよ」

「むぅ。仕方あるまい、引き下がるとするかの。そうじゃ! ルークよ、リゼ=プリムローズ・ランドルがおぬしと一度会うという特権を使った場合にはわしも呼ぶのじゃぞ。約束じゃよ」

「分かった分かった。えっと、最初からかなりの加護を付与したラグナルはもういいよね?」

「いやいや、俺はさらに上をいく。リゼ=プリムローズ・ランドルは初めて会った人間なんだ。流石に許してくれ! ルーク! さっきのチートの定義は超えないから!」


 大地の神ルークは呆れ果てながら、許可をした。ラグナルは喜びをあらわにすると、リゼの方を向き直る。


「俺は属性の異なる魔法を五つまで覚えられるようにしてやろう。なお、限界に達したら上書きも可能とするし、仮に魔法を取得後にその魔法の属性を取得した場合は、カウントしないことにしてやろう。例えばだが、加護を使いアクアアローを習得して、その後に水属性を得た場合だな。それから、鍛錬によるポイント付与、これは一回につき千ポイントとしていたが、増やしてやる。あとは、魔法属性は基本的に拡張しても五つまでしかつけられないのだが、その制限をなくす。それと鍛錬用に使えるあるものをやろう。他にもとっておきの」

「君も多いね? 細かいところまでは確認しないけど、いま言いかけたところまで。いいね? もう本当に君たち、これが最後だからね? リゼ=プリムローズ・ランドルが私を呼んだ時に君たちも呼んであげるけど、加護の付与とかはもうなし。いいね? 前回はミカルの早口を聞き逃して、ブリュンヒルデを授けることを容認してしまった形になるけどさ、今回は注意深く聞いているからね? あー。ちょっと待ってね……」


 ミカルやラグナルはしぶしぶ同意したようであるが、突然にルークが姿を消した。

 一体何事だろうか。

 するとすぐに姿を表した。


「まったく困ったものだよ。どこで聞きつけたんだか」

「どうしたのじゃ?」

「それがね、アリオンが人間に会いたいって煩いんだよね。一度会わせたらすぐに帰ってもらうとしようか」

「なるほどな」


 よく分からないが話を聞く限り、神がもう一人ほど現れるようだ。

 またルークが消え、すぐに姿を表した。アリオンという神を連れてきたらしい。

 リゼと同い年くらいの外見だ。ルークと同じ白色をベースとした服を着ており、マントは透き通っている。現れてから瞬き一つすることなく直視されており、少し気まずさを覚えるリゼ。


「やぁ! ぼくはアリオン!」

「こ、こんにちは……リゼ=プリムローズ・ランドルと申します。いつもルーク様、ミカル様、ラグナル様にはお世話になっています」

「そうなんだ! これが人間か~! 実物を見るのは初めてだよ! 生き物の中では進化したほうだよね! ありがとう、ルーク! 貴重な経験だなぁ! お世話になっていると言った??」

「あっ、はい……」


 ルークが額に手を当てた。何かまずい話をしてしまったのだろうか。ミカルやラグナルをチラ見すると肩をすくめていた。


「そうだぞ、アリオン。俺はお前よりも先に人間に加護を与えた。これで『ぼくの方が先に誕生した神だよ! ぼくの方が偉い!』とかいう訳の分からない先輩面はできなくなるな? 人間に加護を与えるのは神的には珍しいもんな?」

「ずるいよ! ルークのせいだ! いつも言っていたじゃないか、次に人間を召還したら呼んでって!」

「君は正直、後先考えずにその時の気分で動く時があるからね? だからとてつもない加護を与えたりしたら困るし、そもそもリゼ=プリムローズ・ランドルの記憶を消去するかどうかという話し合いだったわけで、君はそういう話し合いには向かないよね。さぁ、もう人間を見て満足しただろうから、帰る時間だよ」

「無理! ぼくだって加護を与えたいんだ!」

「ほっほっほ。面白くなってきたわい」

「そう言うと思ったけど、禁止だよ」


 しばらくルークとアリオンが言い争いをしており、神の事情を聞きすぎるのも良くないため、少し考え事をすることにした。


(えっと……帰宅したらまずは休んで、明日に加護の整理をしようかな……そういえば、ダンジョンでの反省点を振り返らないと!)


 ダンジョンでの反省点などを思い返しておくことにしたリゼ。しばらく物思いに耽る。

 一時間程度経った所で、どうやら折衷案せっちゅうあんがミカルより出されて採用されたようだ。


「分かった。ではそういうことで。良いね? アリオン」

「良いよ!」


 話が終わったようで、アリオンが進み出てくる。


「改めて! ぼくは叡智の神アリオン! 聞いたことはある!?」

「アリオン様……えっと、ないです……申し訳有りません」

「いいよいいよ! で、ぼくも加護をあげることにした!」

「あっ、ありがとうございます。でも既に沢山いただいていまして……」

「気にしないで! 大丈夫!」


 叡智の神というものがどのような存在なのか想像がつかないし、リゼの世界では聞いたことがない神であり、〈知識〉でも覚えがない神であった。既に沢山の加護をもらっているため、それとなくお断りしようかと考えていたら強引に問題ないという方向に持っていかれてしまった。


「何をあげようかな! 少し考える!」

「加護は『小』だからね? 分かってるよね?」

「……うん! ちょっと君の他の加護とかも確認させてもらうね!」


 それからまた長いこと待たされることになる。その間、仕方がないため、神々と他愛無い話をしていると、「よし!」と声がしたため、アリオンへと向き直る。


「決めた! ステータスウィンドウで確認しておいてね! 良い経験になった!」


 そういうと、アリオンは朽ち果てた教会から姿を消すのであった。


「まったく困ったものだよ。私に内容の説明をせずに、了承も得ずに加護を与えるなんてね。いつもアリオンには困らされているんだ。でもこれで満足しただろうね」


 ルークは溜息をつきながら呟いた。それからしばし沈黙が訪れる。

 リゼはもう一度お礼を言っておこうと思っていたため、ここで口を開いた。


「あの、何から何まで本当にありがとうございます。初めてお会いしたときには、動揺していてあまりお伝えできなかったのですが、心の底からありがたいと思っています。皆様の加護によって救われています。それにルーク様、馬車の事故のこと、教えてくださり本当に有難うございました。私、馬車の事故があってお父様を亡くしていたら冷静な判断を出来ない状態になっていたと思います。なので、感謝してもしきれません! これからも頑張っていきます!」


 リゼは深く頭を下げて一礼した。

 ラグナルは頷きながら「その調子だ」と声をかけてくれた。ミカルは「ポイントの交換画面はルークの管轄じゃが……その他のウィンドウシステムはわしの管轄じゃから、楽しみにするとよいぞい」と言ってきた。

 ルークは改めてお礼を言われたことに驚いているようだが、しばらくリゼを見つめていた。


「ふむ。なかなか素直だね。特別にご褒美として君には名前を授けてあげよう。そうだね~。『フォルティア』でどうかな。勇敢に運命を切り開いていく者。フォルティア、君に祝福を」

「おぬし! 名を授けるとは一番良いところを持っていきおってからに。なんじゃなんなのじゃ」

「ずるいよな、まったく。あの世界では二人目か、神から名前をもらった人間は。だがまあ、転生させたのはルークだし、それくらいは、な」


 そして光に包まれる。次に会うときはリゼが望んだときだ。そう簡単に使う訳にはいかない。よって、しばらく会うことはないだろう。リゼは再度一礼した。神々は頷くと、彼らは姿を消し、リゼもふと現実に戻ったのだった。

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