57.二度目の出来事
その頃のリゼたちはというと、馬車で王都を目指していた。
ウトウトとしていると、視界が白く光るような感覚に襲われる。
それは前触れもなく唐突に訪れた。
◆
ふと気がつくと見覚えのある朽ち果てた教会に立っていた。
「ここは……なぜまたここに……」
周囲を見渡すが、ここは神々と遭遇した場所で間違いない。物音ひとつしない不思議な場所であり、神秘的な雰囲気に包まれている。以前は入口の外がどうなっているのか確認できなかったため、興味本位で見てみようかと思い立ったところで声がかかる。
「おう。ついさっきぶりだな」
話しかけてきたのは屈強な男、武の神ラグナルだ。
「ラグナル様。ついさっき……ですか……でも神々としてはそうですよね……。えっと……。それにしてもあの、どうしてまた……。あ! 加護の件ですが、ありがとうございました! とても助かっております! お礼を言いたかったのでとても嬉しいです!」
多少の動揺はあるが、ふとお礼を言いたかったことを思い出した。常日頃からラグナルの加護である鍛錬によるポイント付与のありがたみを実感しているリゼはお礼を言った。
彼の加護がなければスキルなどを買えなかった可能性がある。
「気にするな。それよりも、ちょくちょくお前の様子を見ていたんだが、ダンジョンではよくやったな。助けてやりたかったんだが、神の掟に触れるから見ていることしか出来なかったんだよな。メリサンドを消滅させたり、戦闘中に呼び出したりというのはまずいんだ。でまあ、なんだ。一度、俺も人間を召喚してみたかったんだな、これが。戦闘も終わったし、ここに呼んだわけだ」
「な、なるほど、そういうことでしたか……」
「おう。ん? 『えっ、それだけ……』という顔をしているな。当然だが、興味本位で呼んだわけではない。まあ、そこら辺は他のやつを呼んでから説明するか」
理解が追いつかないリゼは「分かりました」と呟く他ない。
瞬時に大地の神ルーク、そして芸術の神ミカルが姿を表した。
「おや。君はリゼ=プリムローズ・ランドルじゃないか。ラグナル、君が呼び出したんだね? 過保護は良くないと言わなかったっけ? もう会うことはないと思っていたから驚いたよ」
「まあまあ、
「わしはあれじゃよ。ちょ~っと、前世のデータをアイテムボックスに入れておいただけで支援というほどのことでもないじゃろて。あの時にルークにも小声で、早口で確認したしのう! 聞き取れなかったとしたらルークの耳がおかしいんじゃ!」
「そうだったか? それにしたって、ブリュンヒルデは相当やばいプレゼントだろ」
また三人で盛り上がり始めたため、リゼは黙っていることにした。
「それで? 私たちを呼び出した理由を聞かせてくれないかい、ラグナル。君は定期的にリゼ=プリムローズ・ランドルを呼び出しているのかな?」
「いや、これが初めてだ。こいつ、結構、やばいことになってたぞ。日々鍛錬して、友人からプレゼントとして剣をもらって、古代魔法を覚えて、たまたま隣に共に戦える人物が居て、という偶然が重なってなんとか生きているわけだ。流石に危険な世の中すぎるだろ。いまの加護では可哀想だ。それにあれだ、今後、途方もないことが起きるとか言っていたよな?」
「なるほどといったところだね。言いたいことは理解したよ。うーん。でも、困難は……たち…………全員平等に訪れるし、リゼ=プリムローズ・ランドルにだけ肩入れするのも気が引けるんだよね。でもまあ、ラグナルがそこまで言うなら少し考えてあげようかな。チートは禁止だけどね」
途中、少し聞き取れなかった部分があったが、このタイミングで「皆様、ありがとうございました」と伝えておいた。ルークは無言で見つめてきて、ミカルは頷いた。ラグナルはなぜか横に立って肩を叩いてきた。そして、ラグナルが疑問を口にする。
「そういえば、チートの定義を教えてくれないか?」
「チートの定義、ね。それはまあ、指を動かしただけで敵を
「なるほどのう……」
「把握した。定義の変更はなしだからな。ではルーク、そのチートの定義に該当しない何かを真面目に考えてやってくれ」
その後、それなりの時間が経過している。体感時間としては六時間くらいが経過している気がするが、沈黙が続いていた。神々にとっては大した時間ではない可能性はある。もしかしたら数秒程度の認識かもしれないが、リゼにとってはとにかく長く感じていた。先程からひたすらフルネームで呼ばれているため、なぜなのか理由を考えていたところで、ルークが口を開く。
「よし、決めた。私はそうだね、ラグナルたちから文句をつけられるのは勘弁だし、加護を『小』から『大』にあげてあげよう。内容はミカルの作ったステータスウィンドウで確認してね。あ、交換画面のいまのラインナップだけど、手に入れた方が良いものは格安にしておいたよ、是非交換してね。あとは君の潜在能力の上限を解放しておいてあげるとしようかな。普通は成長限界が人それぞれにあるんだけどね。そして、あと一度だけ会ってあげよう。会いたいと願えばここに招待してあげる。あと、今この場で三つの質問に答えてあげるよ。将来起きること、君をダンジョンに飛ばした犯人は教えられないよ。君は自分で運命を切り開いていく必要がある。だから答えは教えられないんだ。起こり得た馬車の事故の件は今考えると神的にはまずいことを教えてしまったんだよね。では、少し考えてみるとよいよ」
時間をもらったリゼは冷静に三つの質問を考えることにする。
(三つの質問。一番気になるのは……ミカル様からの手紙にもあった今後起こる災害……? とにかく危険なことの内容だけれど、それは教えていただけないみたい。となると、前から気になっていたことがあるから質問しましょう。他には……うーん)
しばらく考えに考える。そして三十分後、「決まりました」と伝えた。
「言ってみてごらん」
「一つ目は友人であるラウル様についてです。彼は前世のリッジファンタジアに登場しませんでした。公爵令息なのにです。他のクラスだったとしても、公爵の家柄なので名前すら出てこないのはおかしいのではと思います。教えていただきたいです……!」
「面白いところに目をつけたね。彼はそうだね……本人も知らないみたいだけど、養子なんだ。ドレ公爵の本当の息子ではない。前国王が老後に作った隠し子で、実の母親は出産時に亡くなったよ。前国王は不要なものだと判断して認知する前に捨てさせたんだ。可愛そうだよね。ドレ公爵って、前国王の非常に年の離れた弟だからね。その話を側近から聞きつけて急いで森の奥に投げ捨てられていた彼を救ったんだ。一応、動物に食い殺されたようなカモフラージュを施したみたいだから、すでに死んでいると思われているようだ。だからほら、第一王子と同じでラウル=ロタール・ドレは金髪で光属性の持ち主なんだよ。ちなみに君の父親と仲が良いのは王立図書館に子供の頃に通っていたからだね」
「そんなことが……つまりラウル様は、本来は現国王の弟、ジェレミーの叔父様に当たるということなのですね……」
「そうそう。で、なんでリッジファンタジアに登場しないかというと、本来は殺されるはずだったかな、確か。ドレ公爵は辿っていけば王位継承権があるし、その息子もある意味で同じだからね。彼らを消すために刺客を放ったんだっけかな。でも、その出来事って、公女のお披露目会の日だったんだよね~。つまり、ラウル=ロタール・ドレが君とパーティーに出た日だね。ドレ公爵が屋敷に侵入した刺客を片付けたから今のところは大きな動きはないね。公爵は強いよ。王国の第一騎士団を統括しているだけのことはある。殺される運命の場合は刺客の『公子を預かっている。武装解除せよ』という発言を聞いて殺されたんだ。ラウル=ロタール・ドレも同じだね。『公爵を預かっている』と言われてね。まあ、また狙われるのかとか、今後はわからないけど。ただ、ドレ公爵は彼を本当の子供と思って愛しているから、事件以降、密かに護衛を数人つけてるみたいだ。刺客を放ったのは政敵ということだけは教えておいてあげよう」
聞いてしまっても良いことなのか、途方に暮れるリゼだが、ラウルが自分とパーティーに行ったことで運命が変わっていたのであれば、良かったと心の底から感じるのだった。また、会ったことはないが、ドレ公爵への好感度があがった。
「ありがとうございます……。心の中にしまっておきます。ではえっと、次の質問です。未来の話になってしまい申し訳ありません。今後のことですが、窮地に陥る、その他の理由でも良いのですが、ゼフティアを離れるかもという選択肢が出てきたら私はどうすれば良いでしょうか」
「どうしよう。でもまあ、質問の内容的に未来の種明かしではないから答えてあげるよ。そうだね、その理由にもよるよね。とはいえ、前向きな理由なら挑戦してみても良いのではないかな。意味がわからないだろうけど。逆に後ろ向きな理由ならまずは立ち向かってみるべきだね。私から言えるのはこれだけ」
「参考になりました。心に刻み込んでおきます。最後に、私の行動によって、ゼフティアの歴史を一つ変えてしまうかもしれません。これは良いことなのでしょうか」
「あ~、理解したよ。すでに色々と変わってきている部分もあるし、良いと思うよ。とはいえ、変わることもあるし、変わらないこともある、ということだけは覚えておいてほしいけどね」
リゼは改めてお礼を言った。最後の質問は出来る限り早く行動しようと思っている事柄であるため、アドバイスに感謝した。
出来る限り甘やかさないようにというルークであるが、きちんとアドバイスをしてくれたことに優しさを感じるのだった。
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